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圧倒的な差の前で

 クリムに喧嘩を売ってきたのは、彼女を敵対視している男、アロウ。意気揚々と棒を振り回すアロウを見て、クリムは呆れたようにため息を吐き、周りの魔法使いたちも止めとけとアロウに言っていた。


「準備は整った、行くぞ!」


 棒を構えたアロウは、走ってクリムの元へ向かった。アロウは棒を振り下ろし、渾身の一撃をクリムに与えようとした。だが、クリムは棒を横に振ってアロウの右足のすねに命中させた。


「うわっ!」


「ありゃ痛いぞ」


「結構いい音がしたな」


 攻撃を受けたアロウは、その場で片膝をつき、右足のすねを手で押さえた。


「が……が……が……」


「喧嘩なので、遠慮せず行きますね」


 身動きが取れないアロウに対し、クリムは猛攻を加えた。クリムの華麗な棒術を見て、他の魔法使いたちはい思わず見とれてしまった。


「すげー動きだ」


「あれだけ動けると気持ちいいんだろうな」


「あの歳であの動きをマスターしてるとは……」


 と、魔法使いたちは声を漏らした。そんな中、攻撃を受け続けているアロウは魔力を開放し、立ち上がった。戦いを見ていた一部の魔法使いが、声を高くしてこう言った。


「おいアロウ! この訓練がどういう訓練か分かってんのか?」


「魔力は使用禁止だろ! いくら負けてるからって、大人げねーぞ!」


「うるさい黙れ! こうなったら俺の炎でぶっ飛ばしてやる!」


 やられ続けた結果、アロウは怒りとストレスで感情的になってしまった。それを察したクリムは、ローラの方を見てこう言った。


「おばあちゃん、一発ぶちかましてもいい?」


「仕方ないね。こうなった以上、あんたがけじめを付けな」


「分かりました」


 クリムはアロウの方を向いて、棒を構えてこう言った。


「かかって来なさい。あなたの炎なんて簡単にぶっ飛ばしてやりますよ」


「ふざけたことを言うなクソガキが! これ以上俺を見下すんじゃねェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ!」


 アロウは叫びながら炎を発した。だが、クリムは魔力を開放し、棒に纏わせた。そして、飛んで来た炎に向かって棒を振り回し、アロウの方へ跳ね返した。


「何だと!」


「その程度の炎なら簡単に跳ね返せます。一度、痛くて熱い目にあった方がいいんじゃないですか?」


 クリムがそう言った直後、跳ね返した炎がアロウに命中した。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「あーあ、言わんこっちゃない」


「だから言っただろうが」


「こうなることは分かってたのに」


 ボロボロになるアロウを見て、魔法使いたちは呆れてこう言った。そんな中、ローラが魔法使いに近付いてこう言った。


「そんなこと言ってる場合じゃないよ。さっさと治療と消火の準備をするんだよ」


「は……はい!」


 その後、魔法使いたちは急いでアロウの治療、そして消火活動を行った。




 数日後、クリムは食堂でストブたちと食事をしていた。食事をしていると、二人組の女性がクリムを見て声を上げた。


「あ、あの子ってローラ師匠のお弟子さんで、結構腕のいい子でしょ?」


「知ってる! 結構強いって話だよね!」


「そうそう。この前も売られた喧嘩を派手に返したって話だよ」


 その話を聞いたクララが、大変そうにクリムを見てこう言った。


「あなたも大変ね、今じゃチュエール中の有名人よ」


「有名になるつもりでここに来たんじゃないんですけどねぇ」


「賢者になるつもりで来たんだろ? でもま、いいんじゃねーの?」


 と、ストブはポテトを食べながらこう言った。そんな中、ドゥーレが何かを思い出したかのように声を出した。


「ねーねー、クリムこの話知ってる?」


「何の話ですか?」


「アロウの奴、強制的にここから追い出されたって話だよ」


 その話を聞き、クリムは目を丸くして驚き、ヴァーナは声を上げて驚いた。


「何だと! そういえば、奴の姿を見かけなかったが……」


「訓練中に暴走したからね。それで、ローラ師匠とラーソン師匠に追い出されたって」


 クリムは脳内で、アロウが追い出される様子を想像した。


「うーん、あの人が簡単に出て行くとは思いませんが……」


「そうだな。クリムを恨んでそう」


 ストブの話を聞き、ドゥーレが声を上げた。


「確かにそうだけどさー、自分のプライドが傷つけられただけでそんなに怒るかなー?」


「男って生き物はそういう生き物なんじゃない?」


「めんどくさいですね」


 そんな話をして、クリムたちは食事を続けた。




 ローラは自室で次の訓練のメニューを考えていた。


「うーん、次の訓練で新たな賢者の候補を決めとかないとなー」


「クリムじゃダメなのか?」


 と、ラーソンがこう言った。ローラはラーソンを睨み、大声で怒鳴った。


「そんな簡単に賢者を決めるもんじゃないよ! 確かにあの子には才能はあるし、魔力の質も高い。だけど、まだあの子は子供。賢者として選ぶにはまだ早すぎるんだよ」


「最年少賢者で有名にしたらどう?」


「そんなことさせないよ。腕に自信のあるバカ者がクリムを狙うよ」


「知ってるよ。そのことを察したつもりで聞いたんじゃ」


「何のつもりだい?」


 ローラはお茶を飲み、ラーソンにこう聞いた。問いに対し、ラーソンはウインクをして答えた。


「お前にも孫を想う気持ちはあるってことじゃ」


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