修行の末に
クリムはシュウとラックと共にチュエールで修行を行うことにした。クリムは魔力よりも精神面を鍛えるため、チュエール内にあるお仕置き部屋と言われる部屋で精神面の修行を始めた。それから三日後、部屋から出てきたクリムは、汗をかきながらその場に崩れるように倒れた。
「クリム!」
部屋の外でクリムの修行を見守っていたシュウが、クリムを支えた。
「せ……んぱい……」
「ああ俺だ。大丈夫かクリム? 頬が痩せこけてるぞ」
「え……ええ……」
「大丈夫じゃないわよ。全く、無茶しちゃってもう」
と、ローラが現れ、手にしていた袋のゼリーをクリムに渡した。
「何が何でもそいつを食いな。食べやすいようにゼリーを選んできた」
「す……すみません……」
クリムはゼリーの袋を開けようとしたが、疲れで指に力が入らなかった。
「クリム、俺が開ける」
「すみません……先輩」
「気にするな。疲れが溜まってるんだ、力が入らないだろ」
シュウがクリムに代わって袋を開け、クリムにゼリーを食べさせた。ラックは部屋の中を見て、ローラにこう聞いた。
「これが精神面を鍛える部屋ですか……皆はお仕置き部屋と言っていますが」
「特殊な魔力で過去のトラウマの幻覚や幻聴を呼び起こす部屋だよ。本来は修行じゃなくてお仕置きのための部屋なんだけどね」
「一体どんな幻覚が……」
「一度試してみるかい?」
ローラがラックにこう聞くと、ラックはお仕置き部屋に入った。しばらくして、ラックの脳内に声が響いた。
「な……何だこの声は……これがトラウマの」
「お前、最近全く出番ないだろ」
「よかったな、今回の話でそれなりに出番があって」
その声を聞き、イラついたラックは思いっきり強く扉を開け、外に出て行った。
「あらま、何かイライラしてるみたいだね」
「何か腹が立ったんで」
「ご立腹ってわけかい。ま、そういう部屋だから、進んで入ることはお勧めしないね」
「ええ。本当にそうですね……あのクソ作者、一度会えたらぶっ飛ばしてやろうか?」
ラックはそう呟きながら、部屋へ戻って行った。
その後、バカップルは部屋へ戻り、ベッドの上にいた。
「どうだクリム? 落ち着いたか?」
「ええ……何とか」
クリムは息を吐くと、横で寝ているシュウの方に体を向けた。
「すみません、心配かけて……」
「気にするなよ。それだけあの部屋がきついんだろ? 肉体的にはどうだってできるが、精神をズタボロにされたら誰だって心が参るからな」
「そうですね……はぁ……」
クリムの溜息を聞き、シュウはクリムを抱き寄せた。
「クリム、無理矢理精神を鍛えなくても俺はいい気がする」
「どうしてですか?」
「人間、誰だっていつでも絶好調ってわけじゃない。気分が悪い時もあるし、イライラしててなかなか調子に乗らないこともある」
「確かにそうですが……」
「だからって、それらをメンタルのせいにするのは変だと俺は思うんだ。師匠も言ってた、気分が乗らない時は無理をしない方がいい。気を楽にすればいいって」
「気を楽に……ですか……」
「ああ。たとえ俺がぶっ飛ばされても、気を楽にするんだ。あの時は俺がぶっ飛ばされたからクリムがプッツンしたけど、何回も俺は傷を負ってるじゃないか。その度、復帰してるし」
「先輩……自分の体を大事にしてください。先輩は私にとって、世界で一番大切な人ですから……」
と、クリムは涙を流しながらシュウを強く抱きしめた。シュウはクリムの頭を撫でながら、こう言った。
「俺もそうだ、世界で一番クリムが大事だ。だから、自分の精神を大事にしてくれ、無理矢理強くしようとしたら、逆にボロボロになっちまうぞ」
「はい……」
クリムはシュウの言葉を聞き、そのままシュウの胸の中で泣き始めた。
翌日、クリムは精神面の修行を止めることをローラに伝えた。そのことを聞き、ローラは頷いてこう言った。
「シュウ君の言う通りだよ。無理矢理精神を鍛えるのはあまりよろしくない。精神なんてもんは勝手に成長していくもんだからね」
「でも、どうして修行をするって言った時に止めなかったんですか?」
ラックの質問を聞き、ローラはにやりと笑ってこう言った。
「あの時は一度止めても、あの子のことだから無理矢理修行をするだろうと思ったんだよ。だから、一度きつい所まで行かせて、身を持って経験させようと思ってねぇ」
「それで私の精神が崩壊したら、どうしてたんですか?」
クリムが少し怒りながらこう聞くと、ローラは笑ってこう言った。
「大丈夫、その寸前に私が止めてたよ。何で私があの部屋の前にずっといたか分からなかったんかい?」
「……あ」
クリムは理解した。何度もお仕置き部屋から出ていたが、その時には必ずローラがいて、精神を癒してくれたと。
「おばあちゃん……」
「大事な孫だからね、無茶してボロボロになる姿を見るのは嫌だからねぇ」
ローラはウインクをして、クリムを見つめた。シュウはクリムの肩を叩き、こう言った。
「愛されてるな、クリム」
「ええ……本当に……」
クリムはシュウの方を向いて、こう答えた。その直後、お仕置き部屋からラーソンの悲鳴が聞こえた。
「この声はおじいちゃん……」
「ああ、今お仕置き部屋を通常の使い方をしてるんだ。バカのお仕置きをねぇ」
と、ローラは呆れるようにため息を吐いてこう言った。




