賢者の怒り
クリムと戦うため、エグゲは周囲にある物を衝撃波で吹き飛ばした。その際、シュウとスネックが吹き飛んでしまった。クリムは助けに行こうとしたのだが、エグゲが目の前に現れた。クリムへの殺意を丸出しにしているエグゲに対し、クリムは怒りをあらわにした。その光景を見たボーノは、インチと共に吹き飛んだシュウとスネックの元へ向かった。
「何だこの魔力は、これが賢者の魔力なのか?」
「ああ。俺もクリムたちといろいろ仕事をしてきたが、これだけ強い魔力を出すのは初めてなんじゃないか?」
インチにこう言いながら移動していると、ボーノは倒れているシュウとスネックを見つけた。
「シュウ! スネック!」
「う……ボーノか……おせーじゃねーか」
「瓦礫の山の中でスラスラ動けるわけねーだろ。ちょっと待ってろ、治療するから」
「私も手伝おう」
その後、ボーノとインチは傷ついた二人の手当てを行った。シュウは起き上がり、クリムの姿を探した。
「クリムは今どこですか?」
「あの野郎と戦ってる。分かるだろ、この魔力」
「……はい。今、俺が向かったらクリムの邪魔になりますね……」
「少し休め。それがいい」
と、インチがシュウにこう言った。その言葉に従い、シュウはその場に座り込んだ。
クリムは魔力を開放し、エグゲを殴り続けた。魔力を使っているせいか、クリムの拳の威力はとんでもなく上がっていた。
「ハァァッ!」
「ウボォッ!」
クリムの拳が腹に命中し、重い一撃がエグゲの腹に襲い掛かった。
「グッ……俺の臓器を潰すつもりか……」
「そのつもりです。言ったでしょ、半殺しにするって。まだこれじゃあ物足りませんね」
そう言いながらクリムは闇の塊を発し、エグゲに向けて放った。エグゲは地面を殴り、地面から炎の柱を発して闇の塊を上方へ吹き飛ばした。だが、その隙にクリムは光で作った巨大な手でエグゲを握り締めた。
「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
激しい熱と、握られたことによる痛みがエグゲを襲った。何とか振りほどこうとしたが、光の手はびくともしなかった。その上、骨に痛みが走るせいで、体を動かすこともろくにできなかった。
「グ……ガアアアアアア!」
「痛いんですか? 熱いんですか? なら、その手を離してあげましょう」
クリムはそう言ってエグゲを強く地面に叩きつけた。ダメージは負ったが、光の手から逃げることができると思ったエグゲだったが、先ほど上に吹き飛ばした闇の塊が、倒れているエグゲに向かって落下してきた。
「嘘だ……」
闇の塊はエグゲに命中し、地面にめり込んだ。
「ウガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
下からは固いアスファルト、上は大きく重い闇の塊、その間に挟まれたエグゲは、全身の骨にひびが入り始めたことを察した。魔力を使って防御力を上げてはいるが、クリムの闇の塊はそれ以上に威力を出していた。
「おやおや、その程度で私と戦おうと思ったんですか?」
「く……クソッたれが……」
クリムの挑発を聞き、むきになったエグゲは魔力を衝撃波の用に飛ばして闇の塊をかき消した。何とか攻撃から逃れたが、ダメージは大きく残っていた。
「おや、今までの攻撃を喰らってまだぴんぴんしてるんですね」
「クソッたれが、これでも死にかけてるっつーのに……」
「そうですか。なら、楽にしてあげましょう」
クリムはエグゲに近付き、炎を発した。それを見て、エグゲは死の恐怖を覚えた。
「な……あ……」
「何をビビっているんですか? あなたは今日まで、どれだけ炎を使って人を殺したか分かってるんですか?」
「し……知るか。俺はお前と戦うため、倒すために力を……」
「その結果がこれです。私を本気にさせた以上、あなたには勝ち目がありません」
クリムはエグゲに近付き、鬼のような形相で言葉を続けた。
「あなたは努力の方向を間違えたんです。賢者の称号を貰って権力を得るとか、有名になろうとか考えていたとは思いますが、権力などくだらない物の為に努力するとは、なんとも情けない男ですね」
「ぐ……」
「話はこれで終わりです。これまであなたが犯した罪、悔い改めなさい」
クリムは炎を発してエグゲに攻撃をしようとした。だが、その時ラーソンとローラが現れ、クリムを止めた。
「待ちなさい。これ以上やったら流石に奴も死んじまう」
「おじいちゃん、止めないで」
「無理じゃの。可愛い孫が無駄に人を傷つける光景は見たくない」
「だけど、こいつはたくさん人を殺したんですよ。法の裁きを与える前に……」
「人を裁くのは法で十分じゃよ。それに、エグゲはもう十分と言っていいほどの痛みを受けた。生き地獄とも言っていい」
ローラはそう言うと、恐怖で体が固まっているエグゲを見た。倒れているエグゲの体を触り、ローラはため息を吐いた。
「頭蓋骨までひびが入っとるよ。こりゃ本当に全身の骨にひびが入ってるね。それに、強い魔力を使って殴られたせいで、臓器がいくつかダメになっとる」
「クリム、これ以上やると本当にエグゲが死んじまう。これでもう、十分じゃろ」
「……」
ラーソンの言葉を聞き、クリムは返す言葉を見つけることはできなかった。




