高名魔法使いを狙った殺人
シェラールから離れたとある森の村の中、そこにはトイスという名のある魔法使いがひっそりと住んでいた。トイスは魔力で灯ったランプを消し、寝ようとした。そんな中、チャイムが鳴った。
「こんな時間に一体誰だ?」
そう呟きながら、トイスは扉に近付いた。だがその瞬間、外から禍々しいほどの魔力を感じ、すぐにトイスは魔力を静かに開放した。
「誰だお前は?」
「名乗る必要はないさ。ただちょっと、俺の実力を試したいんでね」
外から若い男の声が聞こえた。禍々しい魔力だが、力はそんなに強くはない。そう思ったトイスは左手に風の魔力を発し、右手でドアノブを掴んで扉を引いた。
「貴様のような若造にやられるわしではないわ!」
外にいる若い男にそう言ったが、外には誰もいなかった。しかし、禍々しい魔力はまだ感じる。一体どこにいると思いながらトイスは周囲を見回すと、上空から炎が発し、トイスの家と共にトイスを焼き尽くした。
「フン。やはり高名な魔法使いと言っても、所詮は老いぼれか」
上空にいる若い男はそう言うと、低い声で笑いながら空を見上げた。
「覚悟しろよクリム。賢者の座は俺がいただくぜ」
翌日、クリムはシュウと共に朝のニュースを見ていた。ニュースでは、トイスの死がトップニュースとして流れていた。
「トイスか……確か、結構有名な魔法使いだよな?」
「はい。私もチュエールで修行していた時に、何回か会いました。あの時から強い魔力を持っていた人なんですが、まさか殺されるなんて……」
クリムが昔を思い出すように答えると、ラックが慌ててバカップルの元へやって来た。
「クリムちゃん。ラーソンさんとローラさんが来ましたよ!」
「ええええええええええええええええええええええええ! おじいちゃんとおばあちゃんが! 何で急に!」
「分からないけど、とにかくクリムちゃんと話がしたいって」
「はい。今すぐ行きます」
クリムは慌てて立ち上がり、シュウと共にラーソンとローラの元へ向かった。
バカップルはギルドの客間に付き、ラーソンとローラの前の椅子に座った。ローラはお茶をすすった後、クリムにこう言った。
「トイスの事件は知ってるだろうね?」
「今ニュースで見ました。まさか……殺されるなんて」
「わしもそう思って今朝、こっちに来る前に現場に向かった。やはりトイスは誰かに焼き殺された。それも、火の魔力で」
「やった奴は魔法使いってわけですか」
シュウがこう言うと、ラーソンは返事をした。
「そうだ。しかも、わしの知っている奴じゃ」
ラーソンの言葉を聞き、バカップルは驚きの声を上げた。
「おじいちゃん、じゃあどうしてギルドや警察に報告しないの?」
「普通のギルドや警察じゃあ奴に返り討ちにされる。無駄死にを出してしまう」
「なぁなぁ、一体誰がやったんですか?」
シュウがこう聞くと、ラーソンは少し間をおいてこう答えた。
「ベウト。以前チュエールで賢者を目指して修行していた若造じゃ。クリムが賢者になると知って、反対した奴らの一人じゃ」
「クリムが賢者になるのに反対した奴か……」
返事を聞いたシュウは、以前の戦いを思い出した。クリムが賢者になることに反対し、異議を唱えた者がいると。それに反発した者は、チュエールから出て行き、クリムの命を狙うために力を付けて襲って来たのだ。賢者の称号を奪うために。
「おじいちゃん。今、ベウトがどこにいるか分かる?」
「そこまでは分からん。しかし、今の奴はトイスを焼き殺すほどの魔力を持っている。いずれ、クリムを狙って襲ってくるじゃろう」
ラーソンの言葉を聞き、シュウはこう言った。
「俺がクリムを守ります。ベウトって奴が襲って来ても、返り討ちにします」
「簡単に返り討ちにできればいいんじゃが……」
と、ラーソンが不安そうにこう言った。その言葉を聞き、シュウはベウトという魔法使いがどれだけ強いのかを察知した。しかし、愛するクリムが狙われている以上、シュウは確実にベウトと戦いになると考えた。そんな中、ギルドの役員が顔を出した。
「シュウさん、クリムさん。依頼の話が来ています」
「依頼?」
クリムがこう聞くと、役員は手元のファイルをバカップルに見せてこう言った。
「有名な魔法使い、インチさんからの護衛の依頼です。昨日のトイスさんが殺された事件を察し、次に狙われるのは自分だと思ってるようで」
「インチか……」
シュウはその名前を聞いてため息を吐いた。インチはテレビやラジオでよく出てくる魔法使いなのだが、大した実力はないのだ。それを知っているシュウは、呆れていた。
「本当に狙われるのは強い奴だと思うけど……」
「まぁ行きましょう先輩。ベウトのことも気になりますが、依頼が入った以上やらないと」
「だな」
「それじゃあおじいちゃん、おばあちゃん。私たち仕事に行きます」
「わしらも行くぞ」
「孫が不安だからねぇ」
その言葉を聞いたバカップルは驚いたが、こうして言った以上何を言っても無駄だと思い、口出ししなかった。その後、バカップルはギルドの車に乗り、ラーソンとローラは別の車でインチの元へ向かった。




