呪われたジャック
全く。何だってんだ本当に?
と、ジャックは心の中で呟きながら己の不幸を嘆いていた。間違えて女湯へ入った他にも、道端に落ちていた犬のあれを踏んだり、バナナの皮を踏んで池に落ちたり、頭上からペンキが落ちてきたり、イタズラ坊主が作った落とし穴に落ちたりなど、数々の不幸がジャックに襲い掛かっていた。ジャックは自室で着替えをしていると、鏡に映った自分の背中を目にした。
「な……なんじゃこりゃあああああああああああああああああああああああああああああ!」
ジャックの背中には、身に覚えのない変な形の刺青が存在していたのだ。ジャックは一度服を着て、冷静になっていた。刺青をほった覚えは存在しない。それよりも、やろうとも思っていない。だが、何であんなものが存在するのかジャックは記憶がないのだ。
「くぅ……何なんだよこれ?」
「どうかしたんですか?」
と、バカップルがジャックにこう聞いてきた。ジャックはため息を吐き、扉を開けてバカップルを自室に入れようとした。だがその時、扉が開いた瞬間に自身の足の小指をぶつけてしまった。
「グッ……」
「大丈夫ですか?」
「な……なんとか……」
「それよりも、さっきの悲鳴はなんなんですか? 先輩と抱き合って寝ていたのに、目が覚めたじゃないですか」
「悪い。実は、これを見てくれ」
ジャックは上の服を脱いで、背中に現れた謎の刺青をバカップルに見せた。それを見たバカップルは、声を上げて驚いた。
「ジャックさん、いつの間にこんなのを」
「そんな趣味があったんですか?」
「違うわ! いつの間にか背中にこんなのが現れてたんだよ。身に覚えもないし、一体何なんだよこれ?」
「俺に言われても……」
シュウが困惑する中、クリムはジャックの背中の刺青を見て小さく呟いた。
「見たことがあります……」
「マジか!」
クリムの一言を聞いたジャックは、すぐに飛びついた。
「この刺青……紋章は古の時代に存在した呪いの紋章です」
「呪い? まさかそんなのが……」
その時、ジャックはあることを思い出した。ルペースを捕まえた時、何かの呪文を唱えたことを。
「まさか……あの時に言ってた変な言葉が呪いの……」
「心当たりがあるんですね」
クリムにそう言われると、ジャックはすぐに返事をした。
「ああ。俺とティラさんとミゼリーで詐欺をやったインチキ宗教をとっちめたって話は知ってるか?」
「はい」
「あの時、お偉いさんのルペースって奴が俺に何か言ってたんだよ」
「それがこの呪いの紋章を発するための呪文ですね。ジャックさん、あなたは何かしらの呪いにかかっています」
クリムに言われ、ジャックは大きなため息を吐いた。
ジャックが呪われたことはすぐにハリアの村のギルドに広がった。誰もがジャックの背中の呪いの紋章に興味を持って見ようとするが、当のジャックは呆れていた。
「全く。呪われてるっつーのに興味本位で紋章を見に来るなよ……」
「いいじゃないの。それなりにモテモテじゃん。で、これが紋章か。ダサいデザインだね」
と、ティラはジャックの背中の紋章を見て笑っていた。ジャックは早くどうにかしてくれないかと願っていると、色んな薬品を持ったシュガーが現れた。
「ジャックさん。話は聞きました」
「何だシュガー。まさか薬の力でどうにかするつもりか?」
「そのつもりです。昔の呪いだろうが何だろうが、今の科学の力でどうにかして見せます」
シュガーは瓶の中にある紫色の液体を手にし、ジャックに背中を見せるように告げた。だが、ジャックは紫色の液体を見て恐怖を覚えていた。
「なぁ、そんなのかけて大丈夫か?」
「多分。まぁ火傷した時の為に薬は持って来ました」
「それでも不安なんだけど」
「ま、任せてください」
シュガーは無理矢理ジャックを寝かせ、薬品を背中にかけた。紫色の煙が部屋中に蔓延したため、この場にいたジャック以外は逃げて行った。
「おい、ちょっと待て! 皆逃げないでくれ!」
「すみませーん。予想外のことが起こりましたんで消火器持って来ます」
「シュガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ! これお前がやったんだろ! お前がどうにかしろ、逃げるなァァァァァァァァァァァァァァ!」
ジャックは逃げだしたシュガーに向かってこう言ったが、すでにシュガーは去って行った。数分後、シュウは蔓延する煙の中、ジャックの元へ向かった。
「ジャック先輩、生きてますか?」
「生きてる。殺すな」
と、ジャックはシュウに返事をした。だが、背中から発する煙はいまだに消えなかった。シュガーはジャックを見て、茫然としてこう言った。
「まさかこれでも治らないなんて」
「いや、今のは……」
クリムはシュガーの手際が悪いと言おうとしたが、変なことをされるかもしれないと思い、口を閉じた。
その後、ジャックは部屋に戻り、大きなため息を吐いた。シュガーも悪意であんなことをしたのではない。善意かつジャックの為に自分のできることで呪いを解こうとしただけなのだ。だが、無駄だった。
「はぁ……一体どうすればいいのやら……」
呪いに困るジャックは、再び大きなため息を吐いた。




