花嫁の行方
消えた花嫁、マリの父親が経営する芸能事務所にて。シュウたちギルドの戦士が話を聞きたいということを聞き、すぐにマリの父親が現れた。
「どうも、私がマリの父親です」
「初めまして。私はハリアの村のギルドに所属しているクリムです」
「同じくハリアの村に所属しているシュウです」
「我はヴァーナ、ハリアの村に所属する雷を操る者!」
「シェラールのギルド、エイトガーディアンのナギです……ちょっとフィアット、あんたもちゃんと挨拶しなさいよ! 何キョロキョロしてるのよ!」
「メンゴメンゴ、芸能事務所だから有名人がいるかなーって」
「ははは……」
マリの父親は冷や汗をかきながらフィアットの頭を叩くナギを見ていた。その後、マリの父親に案内されて部屋に向かったシュウたちは、そこで改めて話を聞くことにした。クリムはマリの父親の真正面のソファに座り、話を始めた。
「では代表として私が話をします。この事務所にやましい事情とかありますか? 例えば、裏の世界の関係や、裏ギルドとの関係は?」
「そういったやましいことはありません。芸能事務所と言っても、うちは大手とは違い、規模が小さい事務所なので」
「確かにそうだったねー。有名な人があまりいなかったよ」
話に割り込むような形でフィアットがこう呟いた。ナギは近くにあったガムテープでフィアットの口を封じ、手足を縛って近くの誰も使っていないソファの上に置いた。クリムは気を取り直し、話を続けた。
「では、あなた方家族を恨む人はいますか?」
「恨まれるようなことは一切しておりません」
「そうですか……それではトッツオさんの話をします。トッツオさんはマリさんやあなたに誰かから追われているとかやましいことをしたとか話はしませんでしたか?」
「いえ。トッツオさんもやましいことはしていません。あの人はただのサラリーマンです」
「仕事上のトラブルはありましたか?」
「ありません。そういった情報は私の方にも入るようにしておりますが、あの人はかなり真面目です」
「あなたたちを恨む人はいない……ですか」
「あ、ちょっと待ってください。恨みではないのですが……マリの方でトラブルがありました」
その話を聞いたクリム、そしてシュウたちは一斉にマリの父親の方を見た。マリの父親はトラブルがあった当時を思い出したのか、ため息を吐いて話を始めた。
「娘にはビムという元カレがいました。ビムと言う男は性格がよく、誰からも好かれるような男に見えました。しかし、本性は最悪な男でした。あの男はマリを束縛するかの如く、部屋から出るなとかずっと俺の傍にいろとかそんなことを言っていたとマリが話していました」
「病んでる男ね……愛した人を誰にも渡したくないという気持ちが強すぎたのかしら」
「そうだな。俺もクリムのことが好きだが、自由を奪うようなことはしないぞ」
「最悪な男だな。愛する人の自由を奪うことが愛の形だと勘違いしているのか?」
話を聞いているナギとシュウとヴァーナが思わずこう言った。クリムはその話を聞き、マリの父親にこう聞いた。
「ビムと言う男は今、どこに住んでいるのですか?」
「分かりません。マリが別れた後は一切連絡をしていないと言っていたので……」
「そうですか。貴重な情報をありがとうございます。犯人の目星がつきました」
クリムの言葉を聞いたマリの父親は、驚きの表情でクリムにこう聞いた。
「ではまさか、ビムがこの事件の犯人なんですか?」
「可能性は高いです。深く愛していた元カノが結婚することを知り、この事件を起こしたのでしょう。しかし、まだビムがやったという証拠がありません。今から現場に戻って調べてみます」
「分かりました。健闘を祈ります。娘を助けてください」
「はい。この事件をすぐに終わらせるよう努力します」
と、クリムはマリの父親を安心させるため、笑顔で返事をした。その後、クリムたちは現場となった式場へ向かった。
式場から少し離れた空き家。そこは誰も住んでいないのだが、何故か物音が聞こえていた。
「ん……む?」
連れ去られたマリは、その空き家の一室で目を覚ましていた。部屋は黒いカーテンのせいで暗く、明かりは部屋の中央にあるピンク色のおもちゃのランプだけだった。体を動かそうとしたが、手足は縛られており、身動きはとれなかった。口もガムテープのようなもので塞がれており、言葉を発することはできなかった。しばらくすると、扉から一人の男が現れた。
「やぁ俺のマリ。久しぶりだなぁ……」
「ウグッ! ウーウー!」
男の顔を見たマリは、怯えるように暴れ始めた。この男こそ、マリの元カレであるビムである。
「久しぶりだから騒いでいるのか? まぁいい。あれから三年だ。俺はずっとお前のことを考えていた。何で俺の所から逃げたのか? お前の相手は俺がふさわしいのに、何でダサい男と付き合うのか? 何で結婚するのかとか考えてたよ」
マリはその言葉を聞き、ふざけんじゃないわよ、ストーカー野郎と叫びたかったが、口がふさがれているため、叫ぶことはできなかった。
「大丈夫だマリ。お前に自由がなくても俺がお前を幸せにしてやる。ここで! ずっと! 俺の傍にいる! 俺と愛し合いながら一生を終える! それがお前にとって一番の幸せなんだからよぉ……」
こいつ、狂ってるとマリは心の中で思った。ビムはマリが自分を睨んでいることを察し、近付いてこう言った。
「そんなににらむなよ。可愛い顔が台無しだぜ」
と言って、ビムはマリの額にキスをした。その後、ビムは笑いながらマリに抱きしめ、体中を触り始めた。マリは悪寒を感じ、体中にサメ肌が発生していた。




