消えた花嫁
シェラールのとある式場。ここで一組のカップルが夫婦へとなろうとしていた。新郎、トッツオは緊張のあまり心臓を鳴らしながら時が流れるのを待っていた。すでに衣装などの支度はできており、いつでも式が挙げれるような状態だった。
「あと三分……あと三分か……」
その時、トッツオは緊張のあまり嗚咽してしまった。その音を聞いてか、トッツオの妻となる女性、マリが部屋に入って来た。
「もう、トッツオったら緊張しすぎよ」
「ごめん。いつもの悪いくせで人より余計に緊張しちゃうんだよな」
「大丈夫だって。私のお父さんもあなたとの結婚を許してくれたんだから」
「だな」
トッツオはマリの言葉を聞き、少し気を休めた。トッツオは普通のサラリーマンだが、マリはとある芸能事務所のお偉いさんの娘である。最初、そのお偉いさんは娘の結婚に反対していたが、熱意に負けてついに式を挙げてもいいと返事をしたのである。
二人はしばらく談笑していたが、すぐに式を挙げる時間となった。
「そろそろ行こう」
「ええ」
その後、二人は手を取って会場へ向かった。会場にはすでに二人の関係者が座っており、主役の二人が来るのを待ちかねていた。まだかまだかと待っていると、式の始まりを告げる鐘の音が鳴り響いた。それからすぐに二人が現れた。二人の姿を見た観客は、一斉に拍手を始めた。
「ではこれより、トッツオ・バータとマリ・キョウミヤの結婚式を始めます」
と、神父が咳ばらいをしてこう言った。それから式は何事もなく順調に進んでいき、指輪交換の儀式となった。
「では、互いの指輪を交換してください」
「はい」
二人は返事をし、互いの指輪を交換しようとした。だがその時、突如明かりが消えた。周囲から悲鳴が聞こえる中、トッツオはマリの手を握って不安を払おうとした。だがその時、何者かがトッツオを殴った。
「グアッ!」
「トッツオ!」
マリはトッツオに近付こうとしたが、何者かに殴られ、気を失ってしまった。それから数分後、明かりが点いた。
「な……なんてことだ……」
神父は目の前の惨劇を見て、言葉を失った。殴られたトッツオは血を流して倒れており、その横にいるはずのマリの姿が消えていたのだ。その後、マリの父親はすぐに警察と救急車を呼び、娘の行方を探すように警察に伝え、救急車にトッツオを運ばせた。それから警察はマリの行方を探したが、見つからなかった。
それから一週間後、ハリアの村でクリムはシュウの膝の上で週刊誌を読んでいた。
「花嫁失踪事件から一週間後、ネットや週刊誌でいろんなことが書かれてますねー」
「ああ。花嫁のマリが消えたからって好き勝手書いてる奴がいるな。結婚が嫌で逃げ出したとか、他の芸能人と駆け落ちするために仕組んだとか」
バカップルがいちゃつきながら話をしていると、ヴァーナが甲高い声を上げながら近づいてきた。
「この時を待っていたぞ! やーっとこのヴァーナにも指名で仕事が入った!」
「指名って言っても、他の皆が別の仕事でいないからじゃない?」
クリムはこう言ったが、ヴァーナはその言葉を聞き流し、バカップルに近付いた。
「見ろ二人とも、あの花嫁失踪事件の捜査を手伝ってくれと依頼だ」
「あの事件か……」
シュウはヴァーナから依頼書を借り、内容を見た。確かに依頼書には指名の戦士としてヴァーナの名が書かれていたが、他にもシュウとクリムの名前が書かれていた。
「何だ、俺とクリムの名前も書いてあるじゃないか」
「先輩、これ見てください」
クリムがある文章を見つけ、シュウに見せた。そこにはエイトガーディアンのナギとフィアットも現地で合流すると書いてあった。
「へー、ナギとフィアットも来るのか」
「何かこの事件、裏がありそうです」
クリムはエイトガーディアンが事件に絡むことを知り、この事件が少しおかしいと考え始めた。
依頼を受けたシュウたちは、すぐにシェラールへ向かった。現地にはすでにナギとフィアットがいて、シュウたちの姿を見たナギはシュウに飛びつこうとしたが、クリムに邪魔された。
「全く、先輩とあった途端抱き着こうとするのは止めなさい」
「いいじゃないのも~」
「よくありません」
「まーまー、シュウたちが来てくれたから心強いよ。ぶっちゃけこの事件、何か厄介だから二人じゃ難しくてねー」
「確かにそうですね。ただの花嫁誘拐事件じゃなさそうだな」
クリムと同じく、不信感を持ったヴァーナがこう言った。合流した後、クリムはトッツオが入院している病院へ向かった。だが、かなり重体であり、面会はできなかった。
「重体か……」
「情報によると、強く殴られて頭部に大きな傷を負い、その傷が元で意識不明のことです」
「殴られた時と、床に倒れた時に強く頭をぶつけたって」
フィアットの言葉を聞き、クリムは考え始めた。
「どうしてこんなことをしたのでしょう。他に誰かマリさんのことが好きな人がいて、その人が恨みで式場に乱入してトッツオさんを殴り、マリさんを誘拐した。それかまた別の人物が何かの目的でさらった」
「親父さんが有名な芸能事務所のお偉いさんだからな。その件であるかもな」
シュウの言葉の後、話を聞くためマリの父親の所へ向かった。




