勝負の行方と被害者の共通点
シュウより先に反応したレースンは自分の勝利を確信していた。まだシュウは振り返っておらず、銃を構えている様子もない。その為、勝ったと心の中で叫んでいた。しかし、レースンが引き金を引く前に発砲音が響いた。そして、モデルガン用の競技用弾丸がレースンの足元にめり込んだ。
「な……あ……」
目の前の光景を見たレースンは信じられなかった。シュウは右肩を少し上げ、右わきをくぐるかのように銃を持った左手を出し、そこから発砲したのである。一応首だけ後ろが見れるような位置に振り返っており、ちゃんとレースンの位置を確認していた。
「振り返ってから撃つというルールじゃないよな」
「な……クッ! 卑怯だぞ!」
レースンは声を高く上げてこう叫んだが、シュウはため息を吐いてこう言った。
「だったらもう一度やるか?」
「もちろんだこの野郎!」
というわけで、仕切り直しとなった。再び位置についてシュウと同時に三歩歩いたが、レースンが振り返る前にシュウが振り返った状態で銃を構えていた。
「おい、俺より先に振り返ったんじゃないか?」
「じゃあ周りの人に聞いてみるか?」
シュウの言葉を聞き、レースンは周りの女性役員に近付いて尋ねた。
「なぁ、ちゃんとシュウの奴は振り返ったか?」
「ええ振り返ったわよ」
「ちゃんと三歩目で振り返った。すごく早い動きだったわ」
「レースンねぇ、あんたみたいな未熟な奴がシュウさんに喧嘩売っちゃダメよ。あんたよりすごい経験を積んでるんだから」
女性役員にこう言われ、レースンは肩を落とした。クリムはシュウに近付き、声をかけた。
「先輩、行きますか?」
「そうだな。余計な時間使っちまったし、早く行こう」
バカップルは会話を終え、足早に駅の方へ向かって行った。
スエランの駅。連続で殺人事件があったせいか、人々の姿があまり見えなかった。
「駅前というのに人がいないな」
「あんな事件があったんです。あまり近付きたくないんでしょう」
と、クリムは携帯電話を操作しながらシュウに答えた。しばらくし、クリムは携帯電話の画面をシュウに見せた。
「先輩、これ見てください」
「何だこれ?」
「殺人事件の被害者です。スエランのギルドの人に情報を送ってくれって言ったんです」
クリムの説明を聞き、シュウは画面を見た。クリムの言う通りそこには被害者の名前、そして職業や性別、年齢などが書かれていた。
「全員政治関係の仕事をしてるんだな」
「はい。しかもこの被害者たちはマッツク・マリオーサの関係者です」
「マッツク・マリオーサ?」
「あれですよ、今汚職関係でニュースを騒がせてる政治家です」
「あー……」
クリムの言葉を聞き、シュウは思い出した。マッツク・マリオーサは政治家であるが、賄賂等を使って選挙に勝利したり、自身に不利な政治家や裏切ろうとする役員を処分するという噂がある。
「関係者としたら、裏の話を暴露しようとして処分されたんだろうな」
「ええ。裏ギルドを使って消したんでしょう。何かしらのつながりがあると思います」
「政治関係か。嫌だな、権力などを使って証拠とか消すんだろうな」
「そうですね。被害者を調べるうちに何か証拠があればいいんですが」
バカップルがそう話していると、怪しい魔力を感じた。背後を見ると、剣を持った怪しい人物が現れた。
「話をしたら何とやら」
「恐らく奴が関係してると思います」
その直後、剣を持った男はクリムに襲い掛かった。クリムは氷を作って男の攻撃を防御し、破裂させて男を吹き飛ばした。
「先輩、ここは私が引き受けます。その間に私の推理をギルドに伝えてください」
「分かった。無茶するなよ」
「大丈夫です。あの程度の奴なら簡単に倒せます」
クリムはそう言うと、少し魔力を開放して風の刃を発した。男は剣を振るって風の刃をかき消したが、クリムは水を発して男を濡らしていた。
「グッ……水か……ん?」
男は体に付いた水を触り、違和感に気付いた。水は徐々に固まっているのだ。
「固まっているのか……グッ!」
「さーて、これで動けますかねぇ?」
クリムは水を使用して相手を凍らせ、動きを封じようとしたのだ。だが、男は魔力を使って氷を吹き飛ばした。
「甘く見ないでもらおうか」
「それなりにやるようですねぇ」
クリムが感心していると、男は魔力を使って猛スピードでクリムに接近し、剣を振り下ろした。だが、甲高い金属音と共に剣の刃が上に吹き飛んだ。
「何だと……」
男は折れた剣を見て目を丸くして驚いた。クリムの方を見ると、クリムは分厚い氷の盾を装備していたのだ。
「氷はこういう風に使えます。市販の剣じゃ通じませんよ?」
「流石賢者というわけか……」
「さぁ、覚悟してください」
観念した男に対し、クリムは魔力を開放し、雷を発して男を攻撃した。男は悲鳴を上げた後、その場に倒れた。
「あっけない終わり方ですねぇ」
クリムはそう言うと、周囲を見回した。男の仲間がこの戦いの様子を見ていて、負けた男を処分するだろうと思ったのだ。だが、仲間のような人物は周囲にはいなかった。いないことを察した後、クリムは気を失った男を連れてシュウの元へ向かった。




