ズノーベアーとの遭遇
アサガヤへ到着したシュウたちは、一度タルトとスネックと別れ、依頼人の所へ向かった。そこで話を聞き、ズノーベアーが出没するという山のふもとへ向かった。
「こりゃ結構派手にやってるねぇ」
ティラが目の前の光景を見てこう言った。木には牙や爪で傷つけられた跡があり、足跡らしき汚れた後があちらこちらに存在した。そして、地面には食べ終えた果物や木の実が散乱していた。
「ううっ……臭い……」
クララは食いカスなどのせいで発生している異臭から守るため、鼻をつまんだ。それでも異臭は鼻の中に入ってくる。
「頭はよくても、常識はないんですね。あの熊」
「ゴミはお前らが片付けろってことなのか。熊のくせして偉そうに」
バカップルはこう言って周囲を見回した。シュウはこの場に到着した時にはズノーベアーがいないだろうと思っている。ズノーベアーの中には魔力を察知できる種類がいるらしく、それがリーダーか群れの中にいた場合、とっさに仲間に伝え逃げるからだ。今のクリムは魔力を抑えている状態なのだが、クリムのような膨大な魔力を持ったものは魔力を抑えてもほんの少しだけ魔力が出ることもあるのだ。
「自慢の魔力がここであだになるとは思ってもいませんでした」
クリムも自身の魔力がズノーベアーに探知されたことを察しており、残念そうにこう呟いた。シュウはクリムの方を向き、こう言った。
「クリムのせいじゃないよ。いざとなったら俺がズノーベアーの額に鉛玉ぶち込むから」
「先輩、ありがとうございます」
そんな話をした後、バカップルはいちゃつき始めた。この光景を見たクララはこんな所でもイチャイチャできるのかと思いつつ、異臭をごまかすため周囲に魔力で作った水をまいた。そんな中、ティラが何かに気付いて拳銃を構えていた。
「誰だ?」
ティラは周囲を見回し、気配の元を調べた。だが、気配の元はシュウたちを見て驚いてこう言った。
「シュウ! 何でここにいるんだ?」
「あんたはカーボン! そっちこそどうして?」
気配の元はカーボンだった。シュウたちと会うと、カーボンはすぐに寺の坊主にズノーベアーの討伐を依頼されたことを伝えた。
「ふむ。ここの出身地の坊主さんがいたのですね」
「ああ。しかし、またシュウと会えるとは思ってもなかったな」
「俺もだよ」
カーボンと再会したシュウたちは話を始めたが、その中でシュウとカーボンは何かの気配を感じた。
「来たな」
「ズノーベアーのようだな」
クリムは周囲を見回し、ため息を吐いた。
「結構な数がいますね。もしかしたら、私たちを倒すため仲間を呼びに行ったらしいです」
「へぇ。頭いいじゃん」
クリムの話を聞き、ティラはにやりと笑っていた。クララはティラに近付いて笑みの理由を聞いた。
「危機的状況なのによく笑っていられますね」
「最近強い奴らと戦ってないからさ。久しぶりに大暴れしたくて」
「俺も同意見だ。剣の腕が人助けになるなら、いくらでも剣を振ろう」
カーボンは剣を構え、いつでも戦えるようにした。その時、クマの鳴き声が響いた。
「来ます!」
クリムの声から少しして、シュウたちの周囲からズノーベアーが襲って来た。
「お出ましか!」
シュウは拳銃を手にし、ズノーベアーの頭に標準を合わせて引き金を引いた。しかし、シュウの動きを察したズノーベアーは頭をずらし、弾丸をかわした。
「俺の動きで攻撃を避けたか」
「ならこっちはどう?」
と、ティラはアサルトライフルでズノーベアーの足元を狙った。しかし、ズノーベアーは高く飛び上がり、弾丸をかわしつつシュウに襲い掛かった。だが、シュウはこの瞬間を狙っていたのだ。
「この状態でこいつがかわせるかな?」
シュウは宙にいるズノーベアーに標準を合わせ、二発拳銃を放った。放たれた二発の弾丸はズノーベアーの頭、腹部を貫いた。だが、そのズノーベアーは死に際ににやりと笑っていた。なんと、シュウの背後から別のズノーベアーの群れが襲い掛かって来たのだ。
「先輩を狙っていたんですね」
「そう来ると思っていた!」
クリムは風の魔法を発し、ズノーベアーを斬り刻んだ。この攻撃で生き延びたズノーベアーは一度逃げようとしたのだが、カーボンが猛スピードで迫り、剣を振るった。
「逃さん!」
カーボンの素早い攻撃により、群れの三分の一ほどのズノーベアーが倒された。ズノーベアーの群れは、シュウたちを見て恐れるような表情をしていた。
その頃、温泉地で体を休めてるタルトとスネックは、突如温泉に現れたズノーベアーに悪戦苦闘していた。
「この熊野郎! こんな所に出てきやがって!」
「武器があれば戦えるのだが、こんな状況では戦えぬ」
湯船に入っていたためか、タルトとスネックは全裸であり、武器も持っていなかった。そんな中、スネックが武器を取りに行こうとしたのだが、別のズノーベアーがタルトとスネックの衣服と武器を盗んで逃げようとしたところを見つけた。
「熊野郎、俺とタルトさんの服を返せ!」
スネックの声に驚いたのか、そのズノーベアーは鳴き声を上げながら逃げて行った。その声を聞き、温泉にいたズノーベアーも去って行った。
「去って行ったか」
事情を知らないタルトは一安心していたが、スネックは青ざめた表情でこう言った。
「まだ難は去ってない。俺たちの服と武器が盗まれた」
「……何だって」
タルトは察した。ズノーベアーを探すため、全裸で温泉地を駆け巡ることになると。




