マサムネ君との激闘!
客席はたくさんの人で賑わっていた。ギルドの有名な戦士が代役として劇を行うから見に来たという人も似れば、ただ単純に劇が好きな人もいる。中には、シュウの隠れファンの女性もいるが。
「女性が多いね」
「それだけシュウさんのファンが多いのよ。多分」
と、前の方の席に座っているナギとリナサが会話していると、上演開始を告げるブザーが鳴り響いた。それからしばらくした後、幕が上がり始めた。ステージの上に立っているのは語り部の男性。語り部は咳ばらいをした後口を開いた。
「これから話すのは戦によって離れ離れになってしまう男女の物語。男の名はヨツネ。女の名はマイ。では、悲しき恋の物語を語りましょう……」
男性がこう言うと、ステージ全体にライトが点灯した。すでにセットは完成してあり、その奥にシュウらしき人物が立っていた。
「あれ、シュウさんよね」
「うわー、決まってる」
シュウの姿を見たナギとリナサは小声で話した。その直後、シュウらしき人物に注目が集まるようにライトが点灯した。
「マイ。私だ、ヨツネだ。会いに来たぞ」
と、シュウが役になり切って周囲を見回す演技をした。女性たちはシュウの凛々しい顔立ちを見て、歓喜の声を上げ始めた。その様子を、ステージの外にいるクリムは見ていた。
「流石先輩。完璧に演技を行っています。女性の声が高いのは気になりますが」
「クリムさん、そろそろ出番ですのでスタンバイをお願いします」
「あ、はーい」
スタッフに言われ、クリムはスタンバイを始めた。その後、スタッフの合図でステージの上に飛び出した。
「ヨツネ様。マイはここでございます」
「おお! そこにいたのか!」
クリムはシュウに抱き着き、シュウはクリムを抱きしめたままセリフを言った。
「今日も会えてうれしいぞ」
「私も同じ気持ちでございます」
バカップルはそう言った後、そのままキスをした。キスシーンを見た女性ファンやナギは目を丸くし、小さな声で奇声を上げた。
ステージ上で阿鼻叫喚の騒ぎになっている中、外にいるラックとドゥーレは外の見回りを行っていた。ドゥーレは劇場の上に立って見張っていた。その時、ラックからの通信が入った。
『こちらラック。異常無し』
「こっちもないよー。現在、変な物は見えない」
『了解。引き続きドゥーレちゃんは見張りをお願い。僕は下の方で不審者を探す』
「お願いしまーす。何かあったらすぐに連絡するから」
『うん。気を付けてね』
ラックはそう言った後、通話を切った。ドゥーレは通信機をしまい、望遠鏡で周囲を見回していた。すると、空から何かが飛んで来るのを目撃した。望遠鏡を拡大してみると、それは巨大なロボット、マサムネ君であった。マサムネ君を目撃したドゥーレはすぐに通信機を取り出し、ラックに連絡した。
「緊急報告。変なロボットがこっちに向かって来てるよ」
『変なロボット? あれか、こちらも確認した。攻撃に入る!』
「うん。私もすぐに援護に行くから」
ドゥーレはそう言った後、通信機をしまって魔力を開放し、ラックの元へ向かった。数秒後、ドゥーレはラックと合流することができた。
「変なのが来たね」
「ああ。何なんだあれは?」
「メッズーニ……は関係ないか」
話をしていると、マサムネ君はラックとドゥーレの前に降り立った。ベミはカメラ越しでラックとドゥーレの姿を確認した後、マイクに向かってこう言った。
「おい貴様ら! 怪我をしたくなければそこをどけ!」
ベミの言葉を聞いた後、ラックは剣と盾を構えて言葉を返した。
「悪いけど、僕たちはここを守ってくれって言われてるんだ。そうはいかないね」
「言葉を返しちゃダメだよ。あんな奴の言うことなんてほっとけばいいさ!」
ドゥーレはそう言った後、風の刃をマサムネ君に向けて放った。だが、マサムネ君は両手の刀を振り回し、風の刃をかき消した。
「私の風をかき消したか」
「なら今度は僕だ!」
ラックは剣先に雷を溜め、マサムネ君に向けて放出した。ラックの雷はマサムネ君の頭に命中したのだが、大したダメージにはならなかった。
「ハッハッハ! 無駄無駄、マサムネ君には魔力攻撃の対策として完全に魔力防御を施してある! それに頑丈で、どんな剣でも槍でも斧でも傷一つ付けることはできん!」
「うーん、結構めんどいロボットだね」
ドゥーレはこう言うと、再び風の刃を放った。ラックはまた同じ攻撃かと思ったが、今度の風の刃は円型で、回転ノコギリのような動きをしていた。どういう意味かと思い、ラックはドゥーレに尋ねた。
「あの攻撃は?」
「少しでも傷をつけるためだよ。それに、魔力対策を練っていたり、どんなに頑丈でも受け止める限界がある。必ず壊れないってことはない」
ドゥーレの言葉を聞き、ラックは無茶だと思った。だが、そんな中でドゥーレはあることを思い出した。
「そうだ、ストブが言ってたな。ああいうロボットと戦ってる時にあることをしたって」
「あること?」
「火の攻撃。火の熱でロボットを熱くさせて、中の人を外に出したんだ」
「そうか。その手があったか」
ラックは魔力を開放し、火の魔法を使った。だが、モニターでその動きを見ているベミは、不敵な笑みをしていた。




