舞台の幕が上がる前
ついに舞台の初日の日となった。ニュースなどでバカップルが代役として舞台に出るせいか、ホウザカ劇場の入り口前にたくさんの行列ができていた。その様子を各局のテレビ局などが取材をしていた。
「いよいよだねー」
「うん。少し不安だけど」
劇場のベランダからラックとドゥーレが行列を眺めていた。最初の爆発騒ぎから初日の今日までなにも騒動が起こらなかったことをラックとドゥーレは不審に思っているのだ。バカップルが舞台に出る以上、戦えるのは二人しかいないのだ。
「ドゥーレちゃん。もし騒動があったら全力で対処しよう」
「だねー。頼れるのは私たちしかいないもん」
そんな話をしていると、ラックは感じたことのある魔力を感じた。
「あれ? ナギちゃん?」
「あ! ラックさーん!」
何と、魔力を使ってナギとリナサが飛んで来たのだ。ナギとリナサはラックの前に到着すると、周囲を見渡した。
「シュウさんとクリムはどこ? シェラールから飛んで来たの!」
「二人は今控室にいるよ。だけど、舞台関係者しか今入れないよ」
「そうですか。一言頑張ってって言おうと思ったんですが」
「二人が来てくれたならそれで伝わると思うよ。でも、行列に並ばないと中に入れないよ」
と、ラックがナギにこう言うと、ナギは笑いながら封筒を取り出した。
「大丈夫です! こう見えて私はお嬢様なんです! 劇のスペシャルなチケットの一枚や二枚、簡単に手に入ります!」
「この作者、忘れてた設定を今更掘り返してる」
「そっとしておいてあげようよ。長く作品を続けると設定の一つや二つ忘れるもんだから」
この作品の作者の愚痴を言ったドゥーレに対し、ラックがこう言った。その後、ラックとドゥーレはスペシャルチケットを持ったナギとリナサを劇場へ案内した。移動中、ラックは騒動のことをナギとリナサに話していた。
「そうなんですか。爆発騒ぎ以降何も起きてないんですか」
「僕とドゥーレちゃんは今日、奴らが何かを起こすだろうと睨んでる」
「シャレにならない騒動じゃないといいんだけど、それでもかなり不安なんだよねー」
「周りは調べたんですか?」
リナサがこう聞くと、ラックは少し困りながら答えた。
「できなかったな。シュウ君とクリムちゃんが抜けた以上、二人で調べれられるのは限界がある。僕たちがいない時に劇場に攻めに来る危険性もあったしね」
「難しい依頼でしたね。お兄ちゃんとお姉ちゃんも舞台の上にいる以上、何もできないし……」
「そういうわけじゃないぜ」
と、舞台の衣装を着たバカップルがやって来た。ナギは綺麗な鎧姿のシュウを見て、歓喜の声を上げつつ抱きしめようとした。だが、着物姿のクリムがナギを止めた。
「舞台を見に来てくれたんですか」
「うん。お兄ちゃん、クリムお姉ちゃん、とても素敵だよ」
「ありがとな、リナサ」
リナサに返事をするシュウの方を見て、ドゥーレが不思議そうにこう聞いた。
「どうしてここにいるの?」
「ナギとリナサの魔力を感じたからさ。遠い所に来てくれたお礼をしようと思ってな」
「お礼だなんて……シュウさんありがとうございます~」
「抱き着かない」
クリムはそう言って再びシュウに抱き着こうとしたナギを追い払った。その後、監督が姿を見せてバカップルにこう言った。
「そろそろ本番だよー。スタンバイお願い」
「はい」
「それじゃあ行ってくる。ラック、ドゥーレ、見張り頼むぜ」
「ああ。シュウ君も頑張って」
「ありがとな」
シュウが礼を言うと、バカップルは舞台の方へ向かって行った。ラックは背伸びをした後、ドゥーレにこう言った。
「さて、外に出て見張りをしてくるよ」
「私も行くよ。それじゃ二人とも、舞台を楽しんでいってね」
と言って、ラックとドゥーレは外に向かって行った。その後、ナギはリナサと共にスタッフにチケットを見て、客席へ向かった。
同時刻、ベミはアジト内でマサムネ君に乗り込み、襲撃前のテストを行っていた。
「刀の用意はできたか?」
『万全です。固い鉄やアスファルトだろうが何でも斬れます!』
「バルカン砲は使えるか?」
『大丈夫です。弾切れ用のストックもたくさんあります』
「スラスターのチェックは終わったか?」
『終わりました。異常はありません』
「よし。それではマサムネ君、発進!」
ベミはコクピット内にある起動スイッチを押すと、マサムネ君の両目が赤く光出し、胸や両足のふくらはぎ部分から余分な熱を放出しているのか、白い煙が放出された。そして、マサムネ君は人間のように歩きだし、アジトの出入り口へ向かった。
「扉を開けろ!」
「イエッサー!」
ベミの言葉を聞き、部下たちが巨大な扉を開いた。外の光景を見たベミはスラスターの動作レバーを握り、大声で叫んだ。
「では行くぞ。正当なヨツネとマイの歴史を守るために……マサムネ君、発進する!」
その後、レバーを引いてマサムネ君を動かした。背中のスラスターからは勢いよくジェットが噴出し、マサムネ君を素早く動かし、力強く宙へと発進させた。この光景を見た部下たちは喜びまわり、飛んで行くマサムネ君を見つめていた。
「我らが作ったマサムネ君なら……きっと我らの願いをかなえてくれるはず!」
「頑張れマサムネ君! 頑張れベミ様!」
部下たちは何度もマサムネ君と操縦するベミを応援していた。




