舞台初日はもうすぐ
ラックとドゥーレは客席で舞台の稽古を眺めていた。代役のバカップルも数日の稽古で本物の役者みたいな演技を見せている。それを見たラックとドゥーレは一安心した。だが、もう一つの心配がある。いつ、熱狂的な歴史マニアが襲い掛かって来るのか分からないのだ。その為、ラックとドゥーレはスタッフや役者がいる所で身構えていたのだ。
ドゥーレは欠伸をしながら稽古を見た後、時計を見てこう言った。
「そろそろ稽古が終わるね」
「今日も来なかったな。何か怪しい」
ラックは本番一日前というのに襲い掛かって来ない歴史マニアたちのことを不審に思っていた。爆発騒ぎ以降、騒ぎを起こしていないし、バカップルが代役として劇を行うことはニュースで流れていた。その為、ラックはまだ敵が動くと思っていた。
「本番当日に何ややる可能性があるね」
「うん。ま、何かあってもクリムが舞台にいるから大丈夫だと思うけど」
「あれを見て?」
と、ラックはアドリブでイチャイチャしているバカップルを見てこう言った。ドゥーレはやれやれと思いながら言葉を返した。
「ま、いつもあんな感じだけど、いざという時はクリムを信じるしかないよ」
「……だね」
その直後、監督が立ち上がって大声でこう言った。
「今日の稽古は終了! 明日は本番だから、今日は休んで明日に備えてくれ!」
監督の話を聞き、スタッフや役者は返事をして戻る支度を始めた。そんな中、バカップルは背伸びなど軽いストレッチをしながらラックとドゥーレに近付いて行った。
「ふぃー、ようやく明日から本番か」
「一週間が長く感じました」
「お疲れ様、二人とも」
ラックはこう言って二人にジュースを渡した。そして、不審者が来なかったことを話した。ラックの話を聞き、クリムはジュースを一口飲んでこう言った。
「予想通りです。私と先輩が代役になった以上、本番当日にいろいろと騒動を起こすことは考えていました」
「稽古中に襲っても、俺たちに返り討ちにあって戦力が減る。戦力を落とすことはしたくなかったんだろう」
「じゃあ明日以降来る可能性があるか」
「明日かもね。シュウさんとクリムが代役になるってことは大々的にニュースで流れてるし、興味本位で劇に来る人やマスコミ連中が来る。そこで騒動が起きれば大騒動だよ」
ドゥーレの話を聞き、クリムは小さく頷いた。
「敵がどういう目的か、そもそも本当に熱狂的な歴史マニアが正体なのか分かりませんが、とにかく万全の状態で太刀打ちできるようにしましょう。私と先輩も代役をしますが、いざという時は戦います」
「小型の銃をこっそり装備することはできる。服の裾に入れてあって、いざという時取り出せるようにしてあるからさ」
シュウはそう言うと、左の服の裾を軽く引っ張った。すると、中に忍ばせていた小型の拳銃が現れ、シュウはそれを手にした。
「舞台の方は君たちに任せる。何かあった頼むよ」
「ああ。ラックとドゥーレも明日は頼むぜ」
シュウはラックの肩を叩いてこう言った後、クリムと共に控室へ向かった。
その日の夜、ベミは仲間と共にある物を作っていた。作っている物を見せないようにシートがあり、外から何も見えない状態であった。
「ついに完成したぞ。歴史修正マシーン、マサムネ君が!」
ベミたちが作っていたのは本番当日に使う襲撃用のロボット、通称マサムネ君である。左右の腕には鋭い切れ味を持ったか刀が握られていて、両肩部分にはバルカン砲が付けられている。目かに詳しい仲間たちが設計し、作り上げたのだ。
「ヘッヘッヘ、マサムネ君があれば劇場の一つや二つ、真っ二つにしてくれますよ」
「歴史を甘く見た金の亡者にぎゃふんと言わせることができるな!」
「そりゃーもちろんです。ベミさん、マサムネ君の正義の一閃で亡者をお仕置きしてください」
「おう、任せておけ」
その後、ベミたちはマサムネ君を見ながら笑い始めた。
その頃、シェラールにいるナギとリナサはボーノを睨んでいた。
「あのなぁ、気持ちは分かるけどあの騒動の後なんだ、タルトさんとスネックが長期の休暇でいない中、お前たちも休まれちゃ次の依頼に支障が出るんだよ」
「次の依頼と言っても、汚職疑惑のある政治家の護衛じゃないですか! あの政治家が汚職をしているのは確定! あんな奴の護衛なんてしてられません! 私があの政治家の汚職問題をSNSで書いて炎上させてやりましょうか?」
「あんな気持ち悪い政治家、さっさと捕まればいい。私がぶっ飛ばしてもいい」
「そんなことをしたらこっちまで迷惑になる! シュウとクリムが代役をやる劇を見に行きたい気持ちは分かるが、あの依頼は前からあった物だし、キャンセルすることは……」
と、ボーノがこう言っていると、テレビで速報のニュースが流れた。
『速報です、政治家のワルイモンが汚職などの容疑で逮捕されました』
「ワルイモンって次の依頼のオッサンでしょ?」
ニュースを聞いたナギは目を輝かせながらボーノにこう言った。ワルイモンという政治家はボーノたちに護衛の依頼を頼んだが、捕まってしまったら依頼は無くなることになる。そう思ったボーノはため息を吐いてナギとリナサにこう言った。
「依頼はパーになった。好きにしろ」
返事を聞いた二人は歓喜の声を上げ、着て行く服を選びに部屋へ戻った。




