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バカップル、舞台デビュー

 マサベの話を聞き、ラックは不安になった。いつもマイペースのドゥーレも冷や汗をかき、不安な表情になっていた。それもそのはず、あのバカップルが代役として舞台に出ることになってしまったからだ。


「本当に大丈夫?」


「何とかする。とにかく任せられた以上、やるしかない」


 と、シュウはラックに答えた。その答えには不安の表情はなかった。その後、クリムは台本を持ってシュウの元へやって来た。


「先輩、一緒に読みましょう。二人で覚えれば大丈夫です」


「ああ。クリムと一緒なら何でもできる気がする」


 と言って、バカップルはいちゃつきながら台本の暗記を始めた。その様子を見て、ラックはこの二人に任せるしかないと思った。




 同時刻、劇場近くの廃屋にて。狂信的歴史マニアの集いが開かれていた。


「正史を愛する我が友よ、よーく聞け! 実は私が劇場に仕掛けた爆弾が上手く爆発した!」


 集いのリーダーであるベミという男がこう言うと、話を聞いていた仲間が歓喜の声を上げた。だが、ベミは慌てて静かにするように告げた。


「黙ってくれ。今、ギルドの連中がいるからばれたらヤバイ。仲間の一人が鎧姿で銃撃しに行ったが、そこでばれたからな」


「はい」


 仲間の返事を聞いた後、ベミは咳ばらいをして話を続けた。


「ニュースで流れてないが、確実にホウザカ劇場のスタッフの何人かが怪我をしただろう。これであの劇をやるのは不可能だ!」


 ベミがそう言って笑い始めた直後、仲間もそれに続けて笑い始めた。そんな中、テレビのニュースが流れた。


『速報です。ホウザカ劇場で爆発騒ぎが発生しました。この爆発事故により俳優のハーイさんとユーウさんが怪我を負いました』


 この言葉を聞き、ベミたちはざまあみろと言いながらさらに高い声で笑い始めた。だが、次の言葉を聞いて彼らは止まった。


『後日行う劇、戦の果てに散りゆく愛は代役としてギルドの有名なバカップル、シュウさんとクリムさんを代役として行うことを発表しました』


 止まった数分後、ベミは目を丸くして驚いた。


「嘘だろ、ギルドの戦士を代役にして劇をやるとか何考えてるんだ?」


「何が何でも劇をやりたいんでしょう」


「自信があるんだろ」


「それだけ面白いってことか? 歴史を適当に改ざんして面白いと思ってんのか?」


 仲間内から文句の声が上がりはじ得た。ベミは顔を真っ赤にして怒りを溜め、仲間たちにこう言った。


「皆の者、ここは我慢だ。あのバカップルがいるとしたら、下手に突っ込んだら確実に始末される。最終作戦は劇当日に行うことにする」


「当日に?」


 仲間の返事を聞き、ベミは冷静になりながら答えた。


「ああ。劇本番は一週間後。その期間さえあれば奴らは油断するだろう」


「そうか! 何も来ないだろうと安心しきったところを攻めるんですね!」


「その通り! では、我々は一週間後の作戦に向け準備をするぞ!」


 仲間にこう言った後、ベミは仲間と共に行動の支度に入った。




 バカップルが代役として行う劇、戦の果てに散りゆく愛とは、歴史上に起きた大昔の戦を元としている劇である。その戦の中心人物であったヨツネという男性と、マイという女性の切なくも美しい愛と、戦によって散り散りになってしまう二人を中心とする切ないラブストーリーのようなものである。


「それでは一度やってみましょう!」


 と、監督は舞台の上でスタンバイをしているバカップルに向かってこう言った。ラックとドゥーレは不安そうに下から見ていた。監督の合図を聞き、バカップルは演技を始めた。


「マイ、私は今日もそなたの傍にいられて嬉しいと思う」


「私もですヨツネ様。ああ、この時がずっと止まってくれればいいのに」


「戦が終わればいつでもマイの傍にいることができる。マイ、戦が終わるまで辛抱してくれ」


「ヨツネ様……」


 バカップルの会話を聞き、ラックは茫然とした。まるで役者のように二人は演技をしていたからだ。監督も目を丸くして驚き、ぽつりと呟いた。


「すごいな。本物の役者みたいだ」


「あの二人にこんな才能があったとは……」


 と、ラックと監督は感心していた。だが、ドゥーレはため息を吐いた。


「ねぇ、止めなくていいの?」


 ドゥーレの言葉を聞き、ラックと監督は我に戻った。バカップルはまだ演技を続けていた。


「ああクリム、ずっとお前の傍にいたい」


「私もです先輩。もうこのまま抱きしめて」


「もう抱いてるさ。ああ、心臓の鼓動が聞こえる」


「先輩の熱を感じます。もっと先輩を感じたい」


「俺もだクリム。あの事件があってからまともにイチャイチャできなかったもんな」


「もうこのままイチャイチャしちゃいましょうよ~」


「カァァァァァァァァァァァット! カットカット! 最初まではよかったけど、それから本当にイチャイチャしないで!」


「「え~?」」


 と、バカップルは不満そうに監督にこう言った。ラックはメガホンを手にし、不満な表情のバカップルにこう言った。


「劇だからねこれ。イチャイチャするのは後にしてくれよ」


「アドリブでイチャイチャしちゃダメですか?」


「ダメだと思うよ。しっかりしてねもう」


 このやり取りを見ていたドゥーレはやれやれと思いながら呟いた。


「本番がどうなることやら」


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