制裁の時
スネックによって足を撃たれたムジは、痛みをこらえながら周囲を見渡していた。投げて攻撃できる道具を探していたのだが、それらのほとんどは机の上にあり、足を撃たれたムジが取ることはできなかった。
「クソ……」
「悪あがきは止めるんだ」
タルトがムジに近付いた。ムジは来るなと言ったが、タルトは言うことを聞き流し、ムジの両手を魔力で作ったひもで縛った。
「離せ! 私はボイスヘブンのリーダーのムジだ! 天からの声の代弁者だぞ!」
「なーにが天からの声の代弁者だこの野郎。お前が信者を操って悪いことをやってるの知ってんだぞこっちは」
ムジの言動を聞き、呆れたスネックは銃剣を突き付けてこう言った。タルトはスネックに落ち着いてくれと言った後、ムジの方を見てこう言った。
「お前の顔は見たことがある。詐欺師、バッカーツだな?」
「グッ!」
バッカーツ。この名前を聞き、ムジは言葉を失った。実は、ムジというのは偽名であり、バッカーツというのが本当の名前である。バッカーツは巧妙な手口で人を騙し、金銭を巻き上げる悪名高い詐欺師である。だが、タルトは何故バッカーツがボイスヘブンという変な宗教団体を作り、こんなことを始めたのか分からなかった。
「今は分からないことが多すぎる。とりあえず、お前はテロ行為、ギルド襲撃などの事件を指揮した疑いで逮捕する」
タルトはそう言って、スネックと共にバッカーツを逮捕した。その後、激闘を終えて信者たちと戦っていたシュウたちは、バッカーツと共に現れたタルトとスネックを見て、二人に近付いた。
「父さん、もしかしてこいつがボイスヘブンのトップ?」
「ああ。ムジという名前でこの宗教を操っていたが、本名はバッカーツという詐欺師だ」
「知っています。数々の詐欺を繰り返している男ですね」
「今から取り調べを行うつもりだ。さて、洗いざらいはいてもらうからな」
と、スネックはバッカーツに向かってこう言った。その時のスネックの表情が怖かったのか、バッカーツは怯えていた。
それから、バッカーツが逮捕されたということを知り、信者たちは大人しくタルトたちの言う通りに武器を捨て捕まった。バカップルとリナサ、シュガーが倒したクウザとルーファも気を失っている状態ではあるが、逮捕された。外で戦っていたジャックたちと合流し、全てが終わったことを伝えると、ジャックたちは安堵の息を吐いていた。
数分後、シェラールのギルドに戻ってきたシュウたちを見て、ローラとラーソンが出迎えてくれた。
「お疲れ様。ギルドの人たちと協力してご飯を作ったから、食べて少し休んでいきなさい」
「女の子にはわしのマッサージが付いとるぞ~」
と、いやらしい動きで手を動かすラーソンに対し、ローラは魔法で作ったハンマーでラーソンを地面にめり込ませた。
「スケベ爺のいうことは無視してね」
「え……ええ」
タルトは少し困惑しながら、地面にめり込んだまま泣き言を言っているラーソンを見ていた。食事の中、クリムは横に座っているシュウにこう言った。
「本当に騒動が終わりましたね」
「ああ。父さんとスネックさんが行方不明になった時は焦ったけど、何もなくてよかったな」
バカップルの話を聞いたクララはバカップルに近付き、こう言った。
「でも、まだ本当に終わったわけではありません。これから厳しい取り調べがあります」
「その辺は俺がしっかりやるから大丈夫だ」
と、パンを片手に持ったスネックがこう言った。そのスネックを見て、タルトは苦笑いでこう言った。
「荒い取り調べはやめてくれよ。お前、以前取り調べしてたら取調室を半壊させたじゃないか。取り調べをしてた裏ギルドの一員も、傷だらけだったし」
「あ……あれは何も言わなかった奴が悪い!」
「とにかく、今度の取り調べは私もやる。お前だけには絶対にやらせん。取調室を直すのにどれくらいかかったか分かってるのか?」
「グッ……」
タルトとスネックの話を聞き、シュウたちは少し笑っていた。
翌日、シュウたちは戦いの疲れを癒した後、ハリアの村へ戻ることになった。ローラとラーソンもチュエールへ戻ると言い、シェラールのギルドの前で別れることになった。
「いろいろあったけど、あんたが元気にやってるようでよかったよ」
「おじいちゃんとおばあちゃんも元気そうで」
「老いてなお盛ん。わしの下半身はいつでも二十代じゃ!」
「セクハラワードを言うな!」
ローラはラーソンをぶっ飛ばした後、シュウに近付いてこう言った。
「この子を任せたよ。いくら賢者と言っても、普通の人間と同じだからね。それと、怪我をしそうになったら遠慮なくこの子を頼ってね」
「はい」
「一線超えたいなら超えてもいいぞ。ひ孫の顔が見れるならわしは大歓迎じゃ」
「この子らはまだ未成年だよ!」
余計な一言を言ったラーソンに対し、ローラは再び鉄槌を食らわせた。その後、ローラはたんこぶまみれのラーソンを連れ、空を飛んでチュエールへ戻って行った。二人を見送った後、ハリアの村へ向かうバスが到着した。シュウはタルトの方を向き、こう言った。
「それじゃあ父さん、取り調べは任せたよ」
「ああ。バッカーツの取り調べが終わったら、すぐに連絡する」
「分かった。待ってるよ」
シュウはタルトと会話を終え、バスの中に乗り込んだ。




