ハリアの村に嵐来る?
ハリアの村へ向かう山道。そこに一台のバスが通っていた。バスの中では、何かを飲みながら新聞を読んでいる女性がいた。
「あのすみません、さっきからお酒の匂いがするんですが……」
と、道を挟んだ隣の席に座っていたスーツ姿の男性が、恐る恐るその女性にこう聞いた。女性は手にした瓶を持ち、スーツ姿の男性に見せつけた。
「これが酒に見えるかぁ?」
と言っているが、瓶に貼ってあるシールには『これはお酒です。未成年の飲酒はやめましょうね』の文字が書かれていた。
「はい……そこに書いてあります……」
「細かい事は気にすんなよ」
「でも、基本バスの中での飲酒はダメなような気が……」
「私は酒に強い。だから大丈夫だ」
「いや……まぁ……いいか」
男性はこれ以上変な女性に絡まれるのを避けるため、会話を止めた。
「はぁ……変なのがいる時にバスに乗っちゃったなぁ……」
自身の不運を呪いながら、彼はため息を吐いた。その時、後ろに座っていた3人組の男が急に立ち上がり、運転席に向かって行った。
「何か用ですか、お客様?」
「このバスは俺達が乗っ取った‼」
3人組の1人が、手をバスの運転手に向け、魔力を発した。運転手はそれを見て、悲鳴を上げた。
「変なことをしたらぶっ殺す‼ いいか? 大人しく俺達の言う事を聞けば、命だけは助けてやるからな‼」
3人組はそう言った後、銃を乱射し始めた。さっきの女性は前にいる3人組を見て、馬鹿にした感じで呟いた。
「あほくさ」
同時刻、シュウはギルドの射撃場にいた。
「いいぞクリム、いつでも出してくれ」
「はーい」
クリムが手元のボタンを押すと、シュウから離れた所にターゲット台が現れた。現れた瞬間、シュウは銃の引き金を引いた。
「そろそろ出ますね……あ、先輩‼時間が出ました‼」
クリムはモニターをシュウの所に持ってきて、画面に映っているものを見せた。
「発射までの時間が1.7秒、着弾地点はターゲットから3センチ右か……」
「先輩、これってすごいんですか?」
「初心者から見たらすごいと思うかも。だけど……まだ俺より銃の腕が上の奴はいるからな……」
シュウは疲れたのか、息を大きく吸ってはいた。その時、クリムはスポーツドリンクをシュウに渡した。
「飲んでください。休むのも大事ですよ」
「そうだな。じゃあ、休むとするか」
その後、シュウはクリムの膝を枕にし、横になった。クリムはシュウの髪をなでながら、安らかな時を過ごしていた。ただ、他の利用者がイチャイチャしている馬鹿二人を見て、こんな会話をしていた。
「なぁ、あいつら撃ってもいいかな?」
「止めとけ。気持ちは分かるけど」
そんな中、突如サイレンの音が鳴り響いた。
『緊急です‼ ハリアの村に向かうバスが占拠された模様‼戦士たちは至急、対応に行ってください‼』
その言葉を聞き、利用者は慌てて出て行った。だが、シュウとクリムはまだイチャイチャしていた。
「行かなくていいんですかせんぱ~い」
「大人数で行っても無駄さ。こういうのは若干名で行った方がいい」
「そうですね~。大事は大人に任せて、私達はここでのんびりしましょう」
「い‼ け‼ や‼ こぉんのバカップルがぁ‼」
場所を聞きつけたジャックが近付き、無理矢理バカップルを現場に連れて行った。
ハリアの村の離れ。そこには一台のバスが止まっていた。それを見たクリムはあれが占拠されたバスであることを察した。
「マスコミ連中はいますか?」
「いる。全く……ニュースにするのは構わんが、これだけいたら邪魔になるだろうが」
ジャックは周辺にいるテレビ局の車を見て、呆れてこう言った。空にはテレビ局のヘリが大量に空を飛んでいる。
「出てけって言っても言う事を聞かなそうですね」
「メディアの連中は自分達が偉いってことを勘違いしている。こういう時、馬鹿みたいに動くとかえって危険なのに……」
「そんな事はどうでもいいです。とにかく今はバスの状況が知りたいです」
クリムの言葉を聞き、ジャックはスマホを見ながらこう答えた。
「今、バスの中にはバスジャック犯3人と、運転手と乗客合わせて15人乗っている」
「奴らの要求は?」
「コエッリオ家の襲撃で捕まったカラスの爪の団員、全員の釈放だ」
「あいつら、まだ残ってた奴がいるんだ」
シュウはため息を吐いて呟いた。
「あれで全員逮捕したんだと思ったんだけど」
「運よく現場にいなかった奴がいたらしいですね」
「それが奴らか……」
クリムとの会話を終えた後、シュウはライフルを構えた。
「先輩、ここから狙えますか?」
「ああ。やってみる」
「頼んだ」
ライフルのスコープを使い、シュウはバスの中の様子を調べた。これでバスジャック犯が前の方に降り、運転手に魔力の塊をぶつけようとしていることが分かった。
「あまり奴らを刺激しないようにと皆に伝えてもらっていいですか? 奴ら、運転手の近くで魔力を開放してます」
「マジか……」
「マジです」
シュウは返事をしながら、乗客の様子を調べた。すると、シュウのスコープにあの酒瓶の女性が映った。酒瓶の女性はシュウのスコープに気付いたのか、そちらの方を向いてにやりと笑っていた。
「……マジか」
「何かありました?」
クリムは冷や汗まみれのシュウに近付いた。シュウはライフルをしまいながら、クリムの質問に答えた。
「師匠がいた……あのバスに師匠が乗ってた……」
「え……えええええええええええええええええ!? もしかして……ティラさんがいるんですか!?」
クリムの声を聞き、ジャックの顔色が蒼くなった。
「なんてこった……無事にこの事件……解決できるかな?」
シュウは困り果てたように、こう言った。




