メッズーニの逆襲
ハリアの村からかなり離れた町、エンマーク。目立つ物も悪い噂も特になく、いたって普通の町。だが、この何にもない町の片隅で怪しげな影がうごめいていた。
「あのギルドの連中でも、私たちがここにいることは知られまい……」
そう呟き、何かしらの作業をしているのは変態強盗集団のリーダー、メッズーニ。一度はバカップルたちの猛攻を受け死にかけたが、何とか生き延びることに成功し、命からがら逃げだしたのだ。それから身を隠すため、そして逆襲のためエンマークに潜んだのだ。
今、メッズーニが作っているのは大型のロボット。対シュウを予想して装甲はかなり頑丈な物にしており、高性能なライフル弾を撃たれても貫くことはできない。そしてシュウと共にいるクリムに対しても対策を練っており、魔力を分散させるコーティング剤を走行に塗りたくっている。
「これならあの二人が襲って来ても敵わない! さぁ……逆襲の時が来た!」
メッズーニは作業を終えてこう言うと、テンションが高くなったのか笑い始めた。その時、突如このバカに向かって空き缶が投げられた。
「夜中に何やってんだバカ野郎! うるさくて眠れねーだろうが!」
空き缶を投げたのは近所に住むオッサン。メッズーニは空き缶を握りつぶし、感情に任せて叫び始めた。
「悪の組織が他人の睡眠の事なんて気にするわけねーだろバーカ!」
「テメーから悪の組織って名乗るバカがいるかバカ!」
「うるせークソニート!」
「俺はニートじゃねぇ! ちゃんと働いてらぁ!」
その後、二人の喧嘩が引き金となり、辺りがうるさいと叫び始めた。
数日後、ハリアの村のギルドの会議室にバカップルとクララ、ヴァーナが集まっていた。
「我らを集めるとは……もしや何かしらの事件だな……」
「そんなこと誰だってわかるでしょ。シュウとクリムが呼ばれた時点できっと大きな事件が発生したのよ」
片手で顔を覆いながら笑うヴァーナに対し、クララがこう言った。心の中でクララは緊張していた。ハリアの村に来てから時間が経っているため、大体の動きを把握している。バカップルがギルドからの依頼に指名されたという事は、きっと大きな事件があったという事だ。そうクララは確信していた。しばらくし、依頼人らしき老人が現れた。
「初めまして皆様、私はエンマーク町長、ルドと申します」
と言って、ルドは頭を下げた。それからルドはシュウたちに依頼の事を話した。簡単にまとめれば、変な不審者がいるため、討伐してほしいとのことである。
「変な人を倒せばいいんですね」
「賢者クリムの言うとおりです。少し前に来たらしく、町外れで変な物を作っていると噂があります。町の人たちからうるさいと苦情が来てますので、どうかお力をお貸しください」
「変な人か……どういうものか説明できます?」
シュウがこう言うと、ルドは少し待ってくださいと言った後、バックからファイルを取り出した。その中にあったのは引き延ばしされた写真のコピーだった。写真には、シートで覆われた工事現場の様子が映し出されていた。
「シートで覆っているから何を作っているか分からないわね」
「建物ではないんですか?」
「はい。この周辺で工事があるとは一切耳にしていません」
「フフフ……実態が分からぬ工事か……きっと怪しげな物を作っているに違いない」
「誰が見てもそう判断出来るわよ」
カッコつけたヴァーナに対し、クララはため息を吐きながらこう言った。クリムは写真を見た後、ルドにこう言った。
「依頼を受けましょう。兵器のような物だったら大変です。すぐに向かいます」
「おお! ありがとうございます」
クリムの言葉を聞いたルドは、何度もお礼を言いながら頭を下げた。
ハリアの村からエンマークの町までは車で二時間ほどの距離だった。シュウたちはエンマークについてすぐに謎の工事現場へ向かった。
「皆、何かあっても対策できるように武器の用意をしてくれ」
シュウは走りながらリボルバーを装備し、クリムたちにこう言った。クリムは杖を装備し、クララとヴァーナはすぐに魔法が使えるように身構えていた。エンマークに到着して十分後、シュウたちは謎の工事現場に到着した。今は作業をしていないのか、そこから作業の音は聞こえてこなかった。
「誰もいないのですかね?」
「うーん……分からないな……」
「私の探知機で探ってみましょう」
クリムはそう言って魔力の探知機を作り出し、工事現場へ放った。それからしばらく時間が流れた後、クリムは目を開けてこう言った。
「誰かいます。パジャマのような服を着ていたため、どうやら寝ていたようです」
「夜通しで作ってたのか。クリム、あそこの中は防犯対策されていたか?」
「ありませんでした。カメラどころか、ブザーも赤外線センサーもありませんでした」
「結構警備はザルなのね……」
クララは建物を見ながら、呆れていた。そんな中、ヴァーナは雷を纏いながら中に入ろうと試みた。その事に気付いたクララが、急いでヴァーナを止めた。
「何考えてんのよ!」
「大丈夫なのだろう? なら、さっさと行って中を調べよう」
ヴァーナの言葉を聞き、クララは不安に思った。クリムに説教してもらおうと思ったクララはバカップルの方を振り返ったが、バカップルは中に入っていた。
「ちょっと、クリムも中に入るの賛成なの?」
「はい。防犯はザル、敵は夢の中。足音を立てずに行動すれば調べるのは容易です」
「難しいなら、俺とクリムで行ってくる。二人は見張りを任せるから」
そう言って歩くバカップルを見ながら、クララはこう言った。
「それじゃあ私とヴァーナは見張ってるから。気を付けてねー!」




