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運命の大会の日

 産業スパイを行う裏ギルド、データハンターの一部はキズースのミラージュグランプリ用の作業場に潜り込んでいた。


「いいか? 俺たちの目的はデータの取得。それ以外の物には一切手を付けるな」


「分かってます」


 リーダーらしき人物の指示の下、彼らは作業場へ向かっていた。しばらくし、彼らは光を見つけた。


「外に出る。誰かいるかもしれないから武器を用意しておけ」


「了解です」


 部下の一人がナイフを持ったことを確認したリーダーは、そのまま奥へ進んだ。先へ出ると、そこには魔力を開放したクリムが立っていた。


「先輩からの通信で、あなたたちがここへ来たことは知っています」


 と、クリムは笑顔でこう言った。リーダーはクリムを見た瞬間、体を震わせながら両手を上げた。ナイフを持った部下もすぐにナイフを地面に置き、土下座をして謝った。




 ロスロは自家用車で企業連携している他の会社から自分の会社に戻っていた。本来なら運転は他の者に任せるが、今日ばかりは自分で運転したいと思っていたのだ。


「いいんですか社長? もし事故ったら高齢者が運転してまーた事故ったって騒がれますよ。それに、社長が事故ったら我が社がいろんな意味でダメージを負うぞ」


 助手席に座っている秘書は、ハンバーガーと紙コップを手にしてこう言った。ロスロは秘書を睨んでこう言った。


「お前が偉そうな口を叩くんじゃない。というか、両手に持ってるそれはなんだ?」


「さっき買ってきました。腹減ってたんで」


「何故私の分まで買ってこない?」


「社長レベルの人はこんなもん食わないと思ってたんで。あー、新作のハンバーガーおいしいなぁ」


「うまそうに食うな、こっちまで腹が減るだろうが! 全く、さっきまで会議してたから昼飯も食ってないのに」


「社長、運転に集中してください」


「うっさい!」


 ロスロは大声で秘書にこう言った。心の中でハンバーガーショップを見つけたらすぐにそこへ向かってやると思っていた。そんな中、車内に携帯の着信音が響いた。ロスロはハンドルについている着信ボタンを押し、連絡を始めた。


「どうした? 今私は会社に向かってるぞ」


『社長、我が社が裏ギルドを雇ってキズースに忍び込ませたと噂があります』


 この言葉を聞き、ロスロは思わず大きな声で驚いてしまった。まさかデータハンターがこんなにも早く捕まるとは思ってもいなかったからだ。


「な……何故そんなことが?」


『キズースに雇われたギルドの戦士が捕まえたとニュースで流れています。あわわわわ……社長どうしましょう』


 ロスロは苦虫を嚙み潰したような顔をし、慌てる役員にこう話した。


「マスコミの連中にはノーコメントで通せ。こうなったら、次のミラージュグランプリで我が社が優勝して、奴らを黙らせるしかない」


『社長……』


 ロスロは次のミラージュグランプリで優勝し、自社が優秀であり、素晴らしい車会社だと世に知らしめ、マスコミなどを黙らせようと考えた。たとえ優勝しても課題は残るが、それは時の流れと自分の力で何とかしようとロスロは思った。


 数分後、ロスロは次のミラージュグランプリの為に働いている作業員の所へ向かった。


「お前たちに頼みがある。どんな手を使っても次のミラージュグランプリに勝て」


「分かりました社長。どんな手でも使っていいなら……」


「俺たちは下種と言われよう何と言われようがあらゆる手を使います」


「違法改造スレスレの行為を行ってもいいんですね」


 と、作業員は悪人のような顔でこう言った。ロスロはこいつらなら何とかやってくれると信じ、彼らの肩を叩いてこう言った。


「我が社の社運は君たちに賭ける。いや、私も手伝おう。時間が無い、少しでも人手は欲しいだろ」


「ありがたいです」


「それじゃあ早速やりましょう」


 その後、ロスロと作業員は力を合わせ、レーシングカーに違法スレスレ、ルール違反にならないような改造を施した。それを見て、秘書は呆れてこう言った。


「オラしーらね」




 数日後、ついにミラージュグランプリの開催日となった。シュウたちは観客席で大会の様子を見ていた。


「いやー、ついに始まるなー」


「ハヤテ、俺たちは仕事で来てるんだぞ」


 ボーノはポップコーンとコーラを持ってうきうき気分のハヤテにこう言った。だが、隣のバカップルはイチャイチャしながらポップコーンを食べていた。ボーノはため息を吐き、バカップルにこう言った。


「イチャイチャしてる暇があったら見張りしろよ」


「大丈夫です。周囲には私の魔力で作った見えない見張りようの魔力玉を飛ばしてあります。何かあったらすぐにお知らせします」


「抜け目ないな……」


 ボーノはクリムの魔力技術に感心し、大会が始まる時間を待った。


 その頃、ロスロは作業員と共に改造したレーシングカーを見ていた。ルールギリギリ、違反スレスレの改造を行ったおかげで、とんでもない速さになったのだ。


「これなら優勝できる」


「こいつに敵う車はこの世に存在しません。俺たちのようにあれこれした奴らはいませんからねぇ」


「流石だお前ら。優勝したら給料を上げてやろう」


「ありがとうございます社長」


 その後、ロスロと作業員は悪人のような笑い声を上げた。


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