ロスロの次の手
ロスロの回し者の美女を捕らえ、シュウたちは情報の流出を防ぐことに成功した。しかし、ロスロは作戦が失敗したことを察知し、次の手を考えていた。
「こうなれば仕方ない。力づくで情報を奪うしかない」
「社長、こんな話をこんな所でするもんじゃないっすよ。普通の社員も来るかもしれないのに」
と、ロスロの横で用を足していた秘書がこう言った。今、この二人がいるのは男子トイレである。秘書の言葉を聞いたロスロははっと我に戻り、周囲を見回した。
「大丈夫ですよ、周りに人はいません」
「よかった。たかが社員でもマスコミと関係する奴もいるかもしれないからな」
「作戦の失敗が続いて焦るのは分かります。あれこれやってどうせ失敗するんだったら次のミラージュグランプリは自分たちの車を違法に改造して強くしちゃいましょうよ」
「それもそうだな。だが、それでも有利に立ちたい」
「悪い社長さんですねぇ」
「うるさいぞ、給料減らすぞ」
「すんません」
その後、トイレでの用を終えた二人は手をちゃんと洗った後、社長室へ戻った。ロスロは社長椅子に座り、次の手を考えながらパソコンを開いた。
「おっ、エロサイトでも見るんですか? 俺もご一緒してよろしいですか?」
「仕事中にそんなものを見るか。ニュースを調べてるだけだ」
と言いながらロスロは経済関係のニュースや最近発生した出来事を調べていた。すると、産業スパイのようなことをする裏ギルドのニュースを見つけた。
「裏ギルドか……もし優秀な奴らなら、金を払えば情報を手にすることも……」
「社長、裏ギルドの奴らと関わるつもりですか? あんな連中と手を組むのは止めておいた方がいいですよ」
「そんな事は私が決める。確実に情報を奪い、更に敵に不利な状況を押し付けられるなら頼んでもいいかな……」
そう思った時、ロスロは携帯を使って連絡を始めた。秘書は「あーあ、俺しーらね」と、呟きながら部屋から出て行った。
ミラージュグランプリまであと二日と迫った日。キズースのレーシングカー整理の作業場はかなりピリピリとした雰囲気だった。開催まで余裕があるのだが、ギリギリのギリギリまで最高のコンデションまで車をいじっていたのだ。シュウたちは作業場の周りを見張っているため、どんな敵が来ても対応できる状況だった。
シュウは作業場の高台に待機しており、その手にはスナイパーライフルが構えられていた。ただ、ライフルの中に込められている弾はゴム製の弾である。このゴム弾は目的に命中した時、勢いよくゴムが弾けるため、命中したら確実に強烈な痛みを襲う。その痛みは、体が動かなくなるほどだ。しばらくシュウが外を見ていると、クリムからの連絡が入った。
『せんぱーい、不審者はいましたかー?』
「今の所不審な奴らはいない。だけど、下水道などから作業場内に進入してくる可能性がある。そこんところを注意してくれ」
『分かりました。先輩も気を付けて』
「ああ」
クリムとの連絡を終え、シュウはもう一度周囲を見回した。すると、キズースの外に不審な黒い車が停車していたのが見えた。シュウは車の持ち主を調べるため、ライフルのスコープを望遠鏡代わりにし、車を調べた。ナンバーを見ると、ナンバーが見られないように少し曲げられていた。そして、ガラスはマジックミラーになっており、中の様子が見られないようになっていた。すぐにシュウは通信機を手にし、クリムと連絡を始めた。
「不審な車があった。俺が今から調べてくる。侵入者が来ないように、見張っていてくれ」
『はい。この事をハヤテさんとボーノさんにも伝えてきます』
「頼むぞ、クリム」
シュウは急いで下に降り、車の方へ近づいた。だが、シュウの接近を察した車は急発進してしまった。
「逃がすかよっ!」
こういう時があるだろうと察していたシュウは左手に持っていた銃を構え、タイヤに向けて二度発砲した。後ろのタイヤが二つともパンクしたため、車はその場で止まった。シュウは改めて車に近付こうとしたが、車の中から魔力を感じたため、銃を構えながら近づいた。すると、車から白いスーツの男が三人ほど外に出て、シュウに向けて火の玉を放った。
「魔法を使うか」
シュウは男が放った火の玉をかわしつつ、男たちの足に目がけて発砲した。シュウが放った弾丸は男たちに命中し、動きを封じた。
「グッ……バカップルの片割れか……」
「腕のいいスナイパーだと聞いたが……これほどとは」
「まさかこうなるとは……」
足から流れる血を抑えながら男たちは悔しそうに呟いた。シュウは男たちに近付き、銃口を前に突き出しながらこう聞いた。
「あんたら何者だ? いろいろと聞かせてもらおうか」
「拒否したらどうする?」
「あんたらに拒否権はねーよ」
シュウは男たちの足元に向けて発砲し、容赦しないことを示した。男たちは観念したような態度を見せ、シュウにこう言った。
「俺たちはゴウソの社長、ロスロに雇われた裏ギルドだ」
「産業スパイ系裏ギルド、データハンター。名前ぐらいは聞いたことあるか?」
「無いね。それよりも、他に仲間はいるか?」
シュウの質問を聞き、男の一人がにやけながら答えた。
「いるぜ。だがもう、ここにはいない」
男の答えを聞き、シュウは作業場の方を見つめた。




