田舎からの依頼
この日、バカップルとシュガー、ドゥーレは電車に乗ってどこか出かけていた。プライベートではなく、仕事の依頼のために。
「いやあまー、すごい所から依頼が来たねー」
席に座っているドゥーレは依頼書を見て呟いた。今回の依頼の場所はイナカーンというハリアの村からかなり離れた田舎の村である。依頼内容は危険なモンスターの討伐。よくあるモンスターを倒してくれという依頼だが、かなり危険で強いという話を聞き、バカップルの力を借りたいとイナカーンの人たちが言っているのだ。
「なんか仕事で電車に乗るのは初めてだねー」
「そうですねぇ。まぁ、ハリアの村からイナカーンまで車で何日もかかると話を聞きましたし、多少乗り換えが複雑でも電車での移動が速いですし」
「移動が大変だけど、とにかく注意して行動しよう。迷子になったら大変だぞ」
シュウたちはこんな会話をしながらイナカーンへ向かっていた。
その後、数時間が経過してシュウたちはやっとイナカーン近くの駅にたどり着く事が出来た。しかし、もう日が暮れていた。
「もう夕方になっちゃったねー」
「確かハリアの村を出たのは朝早くでしたよね……」
「今日一日電車に乗ってたな」
「乗りかえってめんどいねー」
日が暮れてから動くのは危険だと判断したシュウたちは、周囲を見回して宿が無いか探した。しかし、周りには宿どころか建物自体が無く、人の気配もあまりなかった。
「人や建物はない。あるのは田んぼか畑だけ」
「すごいド田舎だねー」
「ハリアの村は多少人がいるけど……」
何もない所を見て動揺するシュウたちの元に、脚立を担いだおじさんが話しかけてきた。
「おやまー、若い衆がこんな所で何やってんだべさ? もう日が暮れてっからもう帰んなさい」
「あ、人だ」
やっと人を見つけ、シュウは少しほっとした。シュウは脚立のおじさんに事情を伝え、自分たちの身分やここに来た理由を話した。
「あらまーギルドの人たちだべか。遠い所からよーくこんなド田舎へ来たさ。ここはイナカーンの外れの方だべ。確かあと一本バスがあるから、それ乗ればイナカーンへ着くはずさ」
「ありがとうございます」
「バス停は駅の近くさ。そうすれば、イナカーンへ着くはずだべ」
と話して、脚立のおじさんは去って行った。会話後、シュウたちは駅の外にある小さなバス停へ向かった。着いたと同時に、バスらしきものが近付いてきた。
「あれがバスだよな?」
「少し型が古いですが、バスです」
「あれに乗ればいいんだよね」
「うん」
バスはシュウたちに近付き、運転手が扉を開けた。シュウたちがバスに乗り込むのを見た後、運転手は驚いて声を出した。
「おやまぁ、あんたらテレビでよく見るギルドの人たちじゃねーか。仕事でこんな所に来たんだべか?」
「はい。モンスター討伐で」
「はぁ。大変ですなぁ。まぁ、そろそろバス動かすから座ってくんろ」
会話を終え、シュウたちを乗せたバスはイナカーンへ向かって走り出した。
バスに乗って数時間後、辺りが真っ暗になってからバスはイナカーンへ到着した。
「もう八時です……」
「ずっと移動だったな。座ってばかりで足が痛い……」
「こりゃキツイよ」
そんなことを呟きながら、シュウたちはバス代を払ってバスから出た。その後、シュウたちを見たイナカーンの人たちが近付いてきた。
「あんたらがハリアの村の戦士かい?」
「遠い所からよく来たさぁ。今日はもう遅いから、村に唯一ある宿に泊まってけんろ」
話を聞き、クリムが村人に話しかけた。
「私たちが来ることを知ってるんですか?」
「んだ。村長が今日の遅くに遠くから戦士が来るって言ってたべさ。夜遅くに来るかもしれないって言ってた」
「こんな遅くなるとは思ってなかったべさ。それより話はあとにして、休んでいきなはれ」
村人たちはシュウたちを連れて、村に唯一ある宿へ向かった。その宿はかなり古く、壁や屋根が少しボロボロになっていた。
「だ……大丈夫なんですかこの宿?」
「大丈夫だべさ。災害があってもこの宿は崩れなかったばい。かれこれ何百年はあるのー」
「かなり貴重な宿ですね……」
創業何百年の宿の中へ入り、シュウたちは辺りを見回した。その宿は少し小さかったが、ロビーらしき部屋にはイナカーンの名物の紹介や、そこで作られたヘンテコなお面が多数壁にかけられていた。辺りを見ていると、宿主である若い男性と女性が近付いてきた。
「ハリアの村からお越しのギルドの戦士ですね。ようこそイナカーン唯一の宿屋へ」
「話は村長から聞いております。ですが、もう遅いので話は明日にすると伝言があります」
「では、今日はもう休むことにしましょう」
「だねー。ずっと移動だから疲れちゃったよ」
「肩や腰が結構痛いな……」
「早く寝たーい」
話を終え、シュウたちは部屋に案内された。だが、案内された部屋は一つだけだった。
「ではおくつろぎください」
「ちょっと待って、男子一人女子三人で同じ部屋何ですか? 私と先輩、シュガーさんとドゥーレで分けないんですか?」
冷や汗を垂らしながらクリムが訪ねたが、女将が笑いながらこう言った。
「すみません。うち、部屋が二つしかないんですよ。この宿のルールとして、他の客が来てもいいように常に一部屋は開けておくのです」
と答え、去って行った。




