決戦の後
決闘の最中、カーボンはシュウの体勢を崩すことに成功した。勝利のチャンスが巡って来たと思い、カーボンは木刀を高く振り上げた。
(勝った! これで俺は再び最強と名乗れる!)
と、カーボンは心の中でにやりと笑った。だが、そのほんの一瞬の隙を見計らいシュウは態勢を整え、目にも見えない速さでカーボンに接近した。
「なっ‼」
「俺に勝ったつもりでいたか? 一瞬だけ隙が出来てたぜ、おっさん」
立場が逆転した。たった一瞬の隙のおかげで、逆にシュウが有利となったのだ。この光景を見て、クリムは欠伸をして呟いた。
「先輩に勝てるわけないでしょうが」
「え? お兄ちゃんが勝つって分かってたの?」
横にいたリナサがクリムにこう聞いた。クリムはカーボンを見ながら、リナサの質問に答えた。
「ええ。先輩とあのおっさんの動きが違います。恐らく、力を付けた場所が悪かったんでしょう。実戦で力を得た先輩とは、空と海の差があります」
カーボンは首に近い所にあるシュウの木刀を見て、額に大きな汗を流していた。もし、これが本当の刃だったら、確実に首を斬られていた。
「ぐ……うう……」
「おっさん、もしこれが本物だったらあんたは死んでたぜ」
「何故……何故俺より強い?」
シュウは木刀をカーボンの首から遠ざけ、少し考えてこう言った。
「何度も危険な仕事をしてきたから」
その言葉を聞き、カーボンは再び負けた理由を把握した。
「そうか……俺はまだ、経験が足りないんだな」
そう呟くと、カーボンは木刀を地面に置き、土下座のような恰好でシュウにこう言った。
「俺の負けだ、素直に認めよう。だが、また力を付けたらお前に勝負を挑みたい。いいか?」
「何度でも受けて立ってやる」
シュウはそう言ってクリムとリナサの元へ戻って行った。去って行くシュウの背中を見て、カーボンは荷物をまとめてハリアの村から去って行った。
数日後、カーボンは修行地へ戻り、再び剣の修行を始めた。シュウに勝つため、厳しめのトレーニングを行っていた。そんな中、寺の坊主が慌ててカーボンに近付いた。
「大変ですカーボンさん‼ 荒くれ共が我が寺の坊主を人質に金と食料をよこせと言っております‼」
「何だと!? ギルドや警察は?」
「連絡したら人質を殺すと言っております。奴らの中に、殺人を犯した奴がいるようで……」
「ふむ……」
話を聞いたカーボンは修行用の木刀を片手で持ち、寺へ向かった。そこには銃を持った三人の男と、人質となっている坊主がいた。
「あっ、カーボンさん‼」
「あぁ? 何だあの筋肉ダルマ?」
「重たそうな木刀持って、俺たちとやる気か?」
「おもしれーじゃん。木の棒で銃に勝てると思ってるのか!?」
男たちはカーボンを見てこう言ったが、カーボンは気にもせず、歩き続けた。その時、修行とは違った空気をカーボンは察した。相手は殺人経験がある荒くれもの。銃を持っていて、下手したら自分も人質の坊主も死んでしまう事もある。だが、そんな空気の中でシュウは戦っていた。そう思うと、シュウが強くなった理由をカーボンは改めて理解した。
「そうか……だから俺は弱いままだったんだな」
「あぁ? 何呟いてんだダルマ野郎?」
「ぶっ殺してやる‼」
男の一人が銃を構えてカーボンに向けて発砲した。だが、カーボンは木刀を振るって弾丸を跳ね返し、地面に叩きつけた。その光景を見て、男たちは目が飛び出るように驚いた。
「んなぁぁぁぁぁぁ!? 弾丸を叩き落とした!?」
「大人しく捕まることを勧める。もし、俺の言う事を聞かなければ痛い目に合ってもらおう」
「グッ……痛い目に合うのはお前の方だ‼」
男は再び銃を発砲したが、カーボンは再び弾丸を叩き落とした。床にめり込んだ弾丸を見て、カーボンは男たちに近付いてこう言った。
「床が傷ついたじゃないか。弁償ものだな」
「ふ……ふざけやがって‼」
男の一人がナイフを手にし、坊主の首に近付けた。この光景を見て、カーボンの動きが止まった。
「これ以上ふざけた真似をすると、こいつの命がねーぞ‼」
「わああああああああああああ‼ 助けてカーボンさぁぁぁぁん‼」
泣き始める坊主を見て、カーボンは立ち止まった。もし、ここから動いたら坊主の命が無い事を察したのだ。
「外道が……」
「外道で結構。俺たちはもうすでに人としての道を外しているんでねぇ」
下種な笑い声を発する男たちを見て、カーボンは少しイラッとした。だが、男たちはかなり隙が出来ている。狙うとしたらこのタイミングだ。カーボンはそう思い、持っていた木刀をナイフを持っている男に向かって投げ飛ばして命中した。
「なっ‼」
二人の男が驚く中、カーボンは素早く動いて宙に舞ったナイフを手にし、二人の男に向かって素早くナイフを振るった。
「命は奪わない。さっさと立ち去れ‼」
カーボンがこう言うと、二人の男の衣服がズタズタになった。男はパンツ一丁で叫びながら、寺から逃げて行った。
「うわああああああああああああああああああああ‼」
「た……助けてくれェェェェェェェェェェェェ‼」
「あ、置いてかないでー‼」
男たちが去った後、カーボンは泣きじゃくる坊主をなだめながら思った。強さというのは、誰かを守るため、救うために使うのだと。だから、シュウは強いのだなと思った。




