魔法大激突!
アベツアはチュエールでの出来事を思い出していた。
クリムがチュエールに入った時、アベツアはチュエールの中ではそれなりに名の知られていた魔法使いだった。世界で一番強い魔法使いになるという野望をかなえるべく修行をしていたのだが、クリムが修行を始めてからたった数年で自分より強くなってしまったのだ。そのせいか、クリムの名はチュエール内では自分より知らされ、誰もがクリムが賢者になるだろうと言われていた。
(俺より後から入ったクソガキが俺より先に賢者になるだと!? ふざけたことがあってたまるか‼ 俺の方が強いに決まっている‼)
そう思ったアベツアはチュエールの外で幼かったクリムに火の魔法で奇襲をしたのだ。しかし、魔力を開放していたことがクリムに悟られ、あっさり奇襲は回避され、逆に雷の魔法でやられてしまった。それも、たった一発で。
その事がラーソンやローラ、チュエールのお偉いさんに知られ、結果アベツアはチュエールから追い出されてしまったのだ。その後、アベツアはクリムが賢者になるだろうと確信し、彼女を抹殺すべく力を蓄えていたのだ。
「くたばれクリムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼」
アベツアは炎の剣を振り回しながらクリムを襲った。炎の剣が振り回されることによって、周囲に高熱の炎が飛び散っている。クリムは水を発して炎を消しつつ、アベツアにこう言った。
「止めなさい。ここで戦ったら周囲の気温が上がり、倒れるかもしれませんよ‼」
「貴様も道連れにして倒れてやる‼」
この言葉を聞き、クリムはアベツアが道連れにしてまでも自分を倒す事を察した。シェルターはかなり頑丈な鉄でできている。それに熱が伝われば調理中のフライパンみたいに熱くなる。それどころか、アベツアが放つ炎はとても熱く、窓や換気扇が少ししかないシェルター内では熱を逃がすのが難しい。
(このまま戦ってたら奥まで熱が伝わる。それまで倒さないと‼)
クリムは心の中でこう思い、なるべく短い時間で、速攻でアベツアを倒す事を決意した。魔力を開放すると、それを察したアベツアがにやりと笑った。
「本気を出したか」
「奥には大事な人がいるんです。あんたみたいな大バカ野郎に殺させはしませんよ‼」
「お前のついでにそいつらをぶっ殺してやる。それが本来の仕事だからなァァァァァァァァァァ‼」
アベツアは炎の大剣を作り出した。周りには炎のようなオーラが発しており、見た目からしてもかなり高い破壊力があることをクリムは察した。
「くたばれ、クリムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼」
大声を出しながらアベツアは炎の大剣を振り下ろした。が、クリムはスライムのような形をした水を発し、アベツアの攻撃を受け止めていた。
「何だこいつは? スライムのようだが……グッ‼」
いくら力を込めても、スライムは斬れようとはしなかった。クリムはスライムを操り、アベツアが持つ炎の大剣に移動させた。
「何をする……なっ!?」
スライムの水によって小さくなる炎の大剣を見て、アベツアは驚いた。それを見て、あのスライムには攻撃の衝撃を吸収するクッションの働きの他にも、水で作られたから炎の威力を弱くする能力もある事を察した。
「クソッたれ‼ こうなったら……」
「無駄ですよ。周りをごらんなさい」
クリムに言われ、周囲を見渡したアベツアは口を開けて驚いていた。周りには炎の大剣の攻撃を受け止めたスライムに似た物が大量にあったからだ。
「な……なんだと……」
「あなたの隙を見て炎の威力、熱を下げるため発しました。これでどうあなたが動いても無駄になります」
クリムは闇を発しながらアベツアに近付いた。その時のクリムの魔力を感じ、アベツアは恐怖を感じた。過去にクリムを襲った時よりも、今のクリムは強くなっていたのだ。自分よりも強く。
「ひ……ひ……止めてくれ‼」
「あなたのような男の言う事を、聞くわけがないでしょうが」
怯えて止めてくれと言ったアベツアに対し、クリムは冷静に拒否をした。そして、闇を発してアベツアに攻撃をした。
「グッギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
闇の攻撃を喰らい、アベツアは悲鳴を上げながら外へぶっ飛んで行った。攻撃後、クリムはアベツアの様子を調べに行った。攻撃を受けたアベツアは、情けない表情で気を失っていた。
キッチンで身を固めているドクダミは、シュウが来るのを待っていた。
(さぁ来い。お前を始末したら次はパンジーだ)
ここで確実にシュウを倒す事を決めたドクダミは、心の中で笑っていた。しばらくすると、扉の開く音が聞こえた。ドクダミは身を隠しながら様子を見ると、シュウが扉を開けてキッチン内に入ってくる様子が見えた。
(来た来た)
思い通りに事が行っていることを察し、ドクダミはにやりと笑った。しかし、ここで予想外の事が発生した。
「そこにいるんだろ? 答えなくてもいい、ここで始末する」
シュウはそう言うと、天井に向けて発砲した。このシュウの行動の真意を読み取れず、ドクダミは混乱した。だが、少ししてドクダミの足元に弾丸がめり込んだ。
「ちょ……跳弾か……」
跳弾が近くにめり込んだことに驚き、ドクダミは立ち上がってしまった。その時、視線を感じたため周囲を見回すと、入口付近には銃を構えているシュウの姿があった。




