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再会、そして

 シュウはハリアの村を走り回った。入口へ向かったのだが、すでに車は通りすぎた後だった。どこかにチュエールの車があり、そこの近くにクリムはいるとシュウは確信していた。


「……ここじゃないか……」


 村全体を走り回ったが、車の姿はおろか、クリムの姿は発見できなかった。もう一度探してみようと思い、シュウは村の中央へ向かった。数分後、村の中央へ着いたシュウの目は丸くなっていた。先ほどなかった高台が出来ており、そこら中にはお帰り賢者様と書かれたポスターが貼ってあった。


「な……何これ?」


「あ、どこ行ってたんだよシュウ」


 シュウの姿を見つけたジャックが、息を切らせながら近寄ってきた。


「幼馴染を探すのに夢中になってんのか?」


「はい。10年ぶり何でつい……」


「あとで会えるだろ。そんな事より、祭りの準備を手伝ってくれ。賢者が帰って来たとかなんかで早急にやるって村長のおっさんが言ってたんだよ」


「クリムはいたんですか!?」


 シュウが顔を近づけてこう聞いてきた。だが、ジャックはクリムの顔を知らないし、どんな子かも全く分からないのだ。


「分からねーよ。俺が仕事でこの村に来たのは5年前だからな」


「そう……ですか……俺、もう一回回って探してきます」


「仕事が終わってからな」


 ジャックはこう言って、シュウと共に祭りの準備を始めた。仕事の内容は簡単な飾り付けだった。銃の手入れで細かい作業が進んでいるシュウだったが、意外と不器用なジャックはなかなかうまくいかなかった。


「あーもう、これギルドの仕事か?」


「さっさと終わらしてクリムを探しに行かないと……さっさと終わらしてクリムを探しに行かないと……」


 ジャックの横で作業をしているシュウは、さっきから同じ言葉を呟きながら作業を行っていた。それも、物凄いスピードで。


「すげーなこいつ……」


 驚き半分呆れ半分でこの様子を見ていたジャックだったが、突如歓声が上がった。


「何だ何だ?」


「誰か来たのか?」


 二人は歓声の元を見てみると、そこには白くて綺麗なローブを羽織ったクリムが歩いていた。周りには、チュエールの使者が周りを囲んでいた。


「あれが……賢者で、お前の幼なじみのクリムって子かシュウ? おいシュウ?」


 ジャックはシュウの返答がないため、横を見た。そこにはシュウの姿はなかった。シュウはクリムの姿を見た瞬間、走り出していたのだ。


「クリム‼」


 シュウは観衆の前に立ち、クリムの名を呼んだ。この声を聞いた使者は驚き、シュウの前に立った。だが、クリムが使者をどかしてシュウの前に立った。そして、シュウの手を取ってこう言った。


「応援ありがとうございます。これからも応援をお願いします」


 クリムはそう言って、シュウから去って行った。その後、ジャックがシュウの元へ着き、肩を叩いてこう言った。


「おい、幼馴染を見つけたからって急にいなくなるな……よ……ん? シュウ? どうした?」


「すみません……先、部屋に戻ります」


 と、シュウは小さく言って去って行った。ジャックは周りにいた人から何があったかを聞き、納得した。




 その後、シュウは部屋に引きこもって銃のメンテナンスを行っていた。ずっと部屋から出てこないシュウを心配し、彼のファンが大量に部屋の前に立っていた。


「全く、何やってんだお前ら?」


 ジャックがシュウのファンをどかし、手にした料理を扉の前に置いてこう言った。


「気持ちは分かるが、少しは飯を食えよ。何かあったら、俺が相談に乗るから。俺だけじゃない。皆お前の味方だからな。ショックは大きいと思うけど……」


 それから何て言おうかジャックは考えたが、結局は何も浮かばなかった。そんな中、女性ファンが大声でこう叫んだ。


「私達はシュウ君の味方だからね!」


「付き合うなら私が彼女候補になるわよ!」


「ずるい! こんなのより、私がいいわよ!」


「シュウ君の事、分かってるのは私だから!」


「だーってろお前らはァァァァァァァァァァ‼ それが失恋した男に対して言う言葉か? もう少しまともな言葉を考えて喋りやがれ‼」


 ジャックの怒鳴り声を聞き、シュウのファンはビビって固まってしまった。そんな中、一人の少女が声をかけてきた。


「あのー、すいません。シュウ・バイソンの部屋はここで合ってますか?」


「何だ!? まだシュウに会おうとする馬鹿がいるのか!?」


 ジャックは苛立ちながら振り向いた。だが、声の主を見て固まってしまった。その声の主は、クリムだったのだ。




 シュウはジャック達の声を聞き流しながら、ひたすら銃のメンテナンスをしていた。そんな中で、シュウはクリムとの思い出を思い出していた。そして、心の中でこう思っていた。


 俺の事を忘れたのかよ……クリム……。


 そんな時、ジャックが慌てながら扉を開けた。その音にビビったシュウは扉の方を振り向いた。


「どうかしたんですか?」


「しゅ……シュウ……お客さん」


 扉の前に立っていたのは、焦っているジャックと笑顔で立っているクリムだった。


「では、失礼します」


 クリムはそう言って、シュウの部屋に入り、扉を閉めた。


「クリム……どうして俺の部屋に……」


「先ほどの事でお詫びしたくて」


 クリムはシュウに近付くと、頭を下げた。


「すみません先輩。忘れたような態度をとってしまって……」


 この言葉を聞き、シュウはホッとした。クリムが完全に自分の事を忘れていたと思ったからだ。


「何だ……俺の事覚えていたのか」


「もちろんですよ。あの時の約束、ずっと覚えてますもん」


 シュウは目に涙を浮かべながら、クリムに近付いた。


「でも、どうしてあんなことを?」


「なりたての賢者が変な事をしたら、騒ぎになるじゃないですか」


「変な事?」


 シュウがこう言った直後、クリムはシュウをベッドに押し倒した。


「ずっとずっと会いたかったです! もう何度も何度も先輩の夢を見ました!」


 何度も顔をすりすりされ、キスをされた。この行為を受け、シュウはさっきの言葉を完全に把握した。


「ははは……そう言う事か」


「本当はすぐにでも先輩に会いたかったんです。でも、使者の連中が村長に挨拶しろとうるさくて。で、村長が祭りを提案してやることになっちゃって……」


「あー、そう言う流れか。で、チュエールの使者は?」


「全員返しました。後は何とかなるって言っておきました」


 クリムはそう言うと、シュウに抱き着いてこう言った。


「やっと戻って来れました。先輩……ただいま。大好きです」


 この言葉を聞き、シュウの目から涙があふれてきた。


「クリム……おかえり。ずっと待ってた。10年間……お前の事をずっと想ってた」


 シュウはクリムを抱きしめ、その唇にキスをした。




 扉の外にいるジャック達は、耳を扉にくっつけて中の様子を聞き取ろうとしていた。


「うーん……全然聞き取れん」


 ジャックは聞き取れなかったようだが、他の女子達は中の様子を聞き取ったような態度を見せた。


「どうした、顔面真っ青だぞ」


「中で……あは……あはははははは……」


「あ~、私の青春終わっちゃった~」


「二人は幸せなキスをしてしゅうりょ~。なはははははははははは……」


「あばばばば、あばばばばばば、あばばばば」


 この態度を見て、ジャックは中で何が起こっているか察した。

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