ジャックの技
パンジー王女の自室、シュウは窓から外の様子を見ていた。
「魔力が衝突するのを感じます。誰が戦っているんですか?」
後ろからクリムが声をかけてきた。その横にいるリナサは少し不安そうな顔をしていた。シュウは二人の方を振り返り、こう答えた。
「父さんとラック、そしてジャック先輩が何かと戦っている」
「銃声がしたり魔力が発生したり……もう敵がいるだね」
「でも、父さんたちがいるから大丈夫だよ。俺たちはこのままパンジー王女の護衛を続けよう。戦いが終わった後、俺とクリムが状況を調べに行くから」
と言って、シュウはリナサを安心させた。
ジャックは受けた傷を速攻で治した後、剣を握って男に迫った。男はジャックの回復力を見て動揺したが、すぐに気を取り直して魔力を開放した。
「バカが‼ とんでもねー回復力があるのは分かったが、このまままた突っ込んで怪我をするつもりか!?」
「そんな真似はしねーよ」
ジャックはにやりと笑うと、剣を逆手に持って大きく振り上げた。そこから波を打つような形で衝撃波が発生し、男に向かって飛んで行った。
「こんな衝撃波、俺の水でかき消してやるよ‼」」
ジャックの衝撃波を見て、すぐにかき消す事が出来ると判断した男は水を発し、衝撃波をかき消した。だが、奥の方にいたジャックの姿が消えていた。
「なっ、どこだ? どこにいる!?」
男は大声で叫んだが、ジャックの返事はなかった。少し考えた後、男はにやりと笑った。
「そうか……俺にビビって逃げたんだな」
「敵を前にして逃げるバカがどこにいるんだよ」
後ろからジャックの声が聞こえた。声がした瞬間、男は足元に凍らせた水を破裂させてジャックを遠ざけようとした。しかし、背後からの一閃を喰らってしまった。
「ガバァッ‼」
「しょぼい攻撃で俺を倒せると思ったのか?」
振り返り、男はジャックの様子を見た。先ほどの攻撃をジャックは受けて濡れているようだが、ダメージを受けた様子は見られなかった。
「俺の攻撃を受けても無傷だと!?」
「あたりめーだ。そんな攻撃を受けても大したダメージにならねー」
この言葉を聞き、男は少しショックだった。確かに先ほどの攻撃は凍らせた水を物凄い勢いで飛ばし、相手を突き刺す単純な攻撃だ。だが、凍らせた水はジャックに当たる寸前で溶けてしまったのだ。
「お前、一体何をした!?」
「氷が飛んで来ると思って、魔力を使って自分の周囲の温度を上げてたんだよ」
「そんな事が出来るのか……」
「それなりの芸当は出来るぜ。こんなこともな‼」
ジャックはそう言うと、剣を大きく振りかぶって男に向けて投げた。男はしゃがんで飛んで来る剣をかわし、ジャックを見て笑った。
「お前はバカだな、武器が無ければ戦えることは出来ないだろう‼」
「まだあるさ」
ジャックは答えながら槍に持ち替え、振り回しながら男に迫った。男は慌てて氷の盾を作り、ジャックの攻撃を防いだ。しかし、所詮は氷で作った盾である。槍の攻撃を受け続けた結果、氷の盾は削られてしまった。
「チィッ‼」
男は盾をジャックに投げつけ、新たに氷の剣を作って斬りかかろうとした。しかし、ジャックは余裕の表情を見ていた。
「何だその顔は!?」
「おめーが愚かだからだよ」
「何だと!?」
お前の方が愚かではないかと男は言おうとした。だが、ジャックが右手の小指を怪しげに動かしていた。それを見て、不審そうにこう言った。
「何をするつもりだ?」
「見てれば分かるさ」
ジャックがこう言うと、男は背中から激痛を感じた。背中を触ってみると、剣の刃のような物の手触りがした。
「ま……まさか……」
「さっき投げた剣だ。本来ならお前を油断させるために投げて、その隙に手に戻そうとしたんだが、運悪くお前に突き刺さっちまった」
ジャックの説明を聞き、男は悔しそうに呟いた。
「く……クソ……この俺がクソ田舎のギルドの……戦士なんかに……」
「クソ田舎だからって舐めてたお前が悪いんだ。さ、このままお縄頂戴するぜ」
倒れた男に近付いたジャックは、男の背中に刺さっている剣を引き抜いてこう言った。
その頃、別の敵と戦っているラックとタルトは魔力の衝突が消えた事を察していた。
「ジャック先輩、勝ったみたいです」
「そうか、無事でよかった」
「ベズラック‼ あの野郎、余裕かましておきながらやられやがって‼」
と、草むらの方から声が聞こえた。ラックは魔力を開放し、声がした方に向かって風を放った。その直後、男が悲鳴を上げながら高く飛び上がった。
「仕方ねー、俺一人でお前らを倒すしかない‼」
男はそう言うと、魔力を開放して霧を発した。
「タルトさん、僕に任せてください‼」
ラックは先程と同じように風を発し、男が発した霧を消そうとした。ラックの予想通り霧を消すことは出来た。しかし、男の姿は消えてしまった。
「ラック君、武器を持って魔力を開放し続けるんだ。この状況、どこで敵が襲ってくるか分からない」
「はい。タルトさん」
二人は背中合わせになり、どこからか来るであろう、敵に対して警戒をした。