護衛開始からその直後で
護衛対象であるパンジー王女を見て、シュウたちはあまりにの美しさ、気品の高さに驚いてその場で固まってしまった。緊張感が一気に高まり、何をどうすればいいのか分からなくなってしまったのだ。動揺するシュウにナギは近付き、耳打ちをした。
「シュウさん、彼女がパンジー王女ですよ。挨拶をお願いします」
「あ……ああ。そうだな」
ナギの言葉の後、シュウは緊張しながらパンジー王女に近付いてこう言った。
「ど……どうも。俺……いやいや、自分はハリアの村の狙撃手のシュウ・クリーヴです」
「あなたのお話はナギ様やテレビなどで拝見しています。実に素晴らしい腕の狙撃手だと」
「ど……どうも……」
パンジー王女は緊張しているクリム達を見回し、微笑みながらこう言った。
「皆様、わたくしの為に遠い所からここまで来てください、本当にありがとうございます。私の命を狙う何者かを倒すため、協力の方をお願いします」
「はい。私たちにお任せください」
と、クリムは笑顔で言葉を返した。その後、シュウ以外の男性陣は外の見張り、女性陣とシュウがパンジー王女の部屋で護衛を行う事になった。シュウが女性陣と一緒にいる理由は、クリムとナギとリナサがシュウと一緒にいたいと駄々をこねたため。女性陣はパンジー王女の部屋の中央で王女を守り、シュウは部屋の窓から外を見渡していた。真剣に外を見つめるシュウを見て、リナサが近付いた。
「敵が見えるの?」
「敵の確認もあるけど、敵がどの位置で王女を狙いやすいかの確認をしているんだ」
「流石私の弟子だねー」
そう言いながら、ティラがシュウに近付いた。ティラはシュウと同じように外を見回し、シュウを呼んだ。
「あそこの木を見ろ。三階建てのビルと同じ高さだ。ここの部屋は五階、一キロほど離れているから敵さんとしては狙いやすいだろう。それに、葉っぱがかなりついているからカモフラージュもできる」
「そうですね。まずそこもそうですが、別の窓から見える湖を見てください」
「湖か。改造した水中銃ならここを狙う事も可能だね。腕のいい奴なら水の中から狙撃するってこともあり得るな」
二人の話を聞き、キャニーが窓を叩いてこう言った。
「この部屋のガラスは防弾仕様になっています。そう簡単に破られるものではないと思いますが」
「かーっ! あんたあまり中の事を知らないねー。この程度の防弾ガラスならちょちょっといじった銃や弾丸を使えば簡単に貫通できるよ。それに、魔力を使うスナイパーなら簡単にこいつを破壊する威力がある弾丸を作れる」
ティラの真面目な話を聞き、フィアットは驚いていた。
「あんた、ただの飲んだくれじゃないんだね」
「一国の重要人物の命がかかってるんだ。私だって真面目にやる時はやるよ」
と、ティラはどや顔でこう言った。そんな中、シュウは通信機具でタルトたちにこう言っていた。
「父さん、皆、ここから離れた木や湖に注目しながら護衛を行ってくれ。敵はそこに身を隠して狙撃する恐れがあるから」
スネックはシュウの通信を聞き、武器を構えて少し高い所にいた。今、彼がいるのは二階のベランダ。ベランダにはタルや木箱があるため、銃撃戦になっても身を隠す事が出来る状況である。
「変な奴がいなければいいなーっと」
銃剣に付いているスコープを望遠鏡代わりにし、木や湖の周りを注意深く調べていた。すると、スネックから離れた木から光のような物が見えた。それを拡大してみると、そこには迷彩柄の服を着て、スナイパーライフルのような物を装備した人物がいた。
「噂をすれば何とやらか」
敵がいた。だが、それを伝える時間はないとスネックは判断し、銃剣を構えて弾丸を放った。スネックが放った弾丸は不審人物の肩に命中した。
「チッ、足を狙おうとしたんだがな」
敵とあまりにも距離があるため、狙いがそれてしまった。しかし、スネックはこう思っていた。肩を撃たれたからにはもう攻撃はできないだろうと。その時、タルトから連絡が入った。
『どうしたスネック!? 今、銃声が聞こえたが!?』
「敵を発見した。城から離れた木の上に隠れている。肩を撃ったから攻撃されないが、仲間がいる可能性があるから注意してくれ」
『分かった。私とラック君でその木の所へ向かう。スネックは引き続き周囲を見てくれ』
「了解」
通信が終わった後、スネックは再び周囲を見た。すると、湖が少しおかしいと彼は思い、スコープを覗きこんだ。そこにはダイバースーツを着た男性らしき人物が銃を持っていた。
「うじゃうじゃいるじゃねーか!」
そう呟きつつ、スネックは二発目の弾丸を放った。湖にいるため、狙いはそれてしまったが、驚いたダイバースーツの男性は陸に上がった。その時を狙い、スネックはもう一発弾丸を発し、ダイバースーツの男性の足を打ち抜いた。その後、急いで通信機具を手にし、こう言った。
「こちらスネック! 湖にいた変な奴を倒した。湖の近くに誰かいないか?」
『俺がいます。すぐに湖へ向かう!』
と、ジャックの声が聞こえた。スネックは任せたと返事をした後、ため息を吐いた。
「結構侵入者が多いな。警備どうなってんだ?」