ラック対女幹部
ラックは迫ってくるブレーアを見て、魔力を感じて彼女の実力を探っていた。
魔力の量は自分より上。黒いドレスのような物を着ているが、剣などの装備は付けていない。恐らく、魔法だけで戦う事を察した。
「行くわよ、お坊ちゃん」
ブレーアはそう言うと、周囲に火の玉を作り出した。それを見たラックはすぐに水を発して火の玉を消そうとしたが、それを読んでいたブレーアが先に行動していた。
「そんな水じゃあ、私の炎は消せないわよ」
ブレーアは自分の手足のように炎を操った。ラックは盾で防御できる攻撃は防御し、残りはダメージを抑えるためにジャンプしてかわしていた。
反撃せねば。ラックはこう思い、魔力を剣先に集め、電気に変えた。それを見たブレーアは、動揺して動きを止めた。
「あなた……水の他にも……」
「こう見えて自然魔法は使いこなせるんだよ」
ラックはそう言って、電撃の刃を放った。ブレーアは大急ぎで火の玉を盾にした。刃の大きさは小さくしたが、防御した際に火の玉が破裂してしまった。
「グアァッ‼」
小さな電撃の刃を喰らい、ブレーアの体は感電した。その後、ブレーアはラックから距離を取り、ダメージの回復を図ろうとした。
ここでちょっと説明。魔法には3つの種類で分けられている。
火、水、風、雷を操る自然魔法。基本的な魔法で、どの魔法使いもこれから取得することになる。
地面を操る大地魔法。自然魔法よりも高度な魔法で、使用する魔力も自然魔法よりも多い。
そして、光、闇を操る特殊魔法。これは、自然と大地よりも高度な魔法である。これを操るのには、かなりの才能と能力が必要である。
ブレーアは自然魔法の中でも、火を操るのが得意である。しかし、それ以外は苦手である。自然魔法の得意と不得意がある魔法使いは珍しい存在ではない。必ずしも得意と不得意の属性がある。しかし、完全に自然魔法を操る事が出来る魔法使いは珍しいのである。
「こっちから行くぞ‼」
ラックが火の矢を放った後、追い風を発生させて物凄い速さの電撃と氷の刃を放った。傷を受けたブレーアは体内の魔力を放出し、巨大な火の壁を作って防御した。全ての攻撃を防御した後、ブレーアはその場でうずくまった。
「もう……限界……」
体内の魔力は残りわずか。魔力を消費したせいか、かなり腹の音が鳴っている。しかし、相手もかなりの魔法を使ったから、体力も使っただろう。そうブレーアは思っていたが、彼女の予想は外れていた。ラックは呼吸を整えた後、倒れているブレーアの元に近付いて行った。
「……止めを刺すつもり?」
「いえ。あなたを拘束します」
その後、ラックは魔法のロープを作り、ブレーアの体を縛った。ラックに連れていかれる中、ブレーアはこう言った。
「あなたみたいな子がいるなんて……予想外だったわ」
「こう見えて、何年も戦っているので」
「そう……でも、やっぱり子供は子供ね」
ラックはその言葉を聞き、どういう意味かを問いただそうとした。しかし、その前に別のバイクの集団が走ってきた。
「なっ‼」
「こっちの都合でね、お嬢様を連れて行かなくちゃならないの」
「しまった‼」
ラックが魔力を発しようとしたが、その前にバイクのライダーが地面を爆発させ、ハーゼ達がいる部屋に向かって飛んで行った。
「そんなのありか‼」
発生した砂煙から目や鼻を守るため、顔を覆いながらラックは周囲を探り始めた。
「私、シュウ君達に伝えてくる‼」
シュガーはそう言って、慌てて屋敷に戻って行った。ラックは後の事をシュガーに任せ、捕らえたブレーアを連れて屋敷へ向かった。
バイクの音を聞いたシュウとクリムは、ハーゼの前に立った。
「下がってて。奴らは俺達で対処する」
「安全な所で避難してください」
二人がそう言った直後、何かが部屋の中に投げ込まれた。
「爆弾か?」
シュウが近付いた瞬間、それは大きく破裂した。中から現れたのは濃い色の付いた煙だった。
「うわっぷ‼」
「これじゃあ前が見えない……」
「わーん‼ シュウさんどこー‼」
煙で視界を遮られた三人は、その場に座り込んだ。しばらくしバイクの音と足音が聞こえた。そして、ハーゼの悲鳴も。
「ハーゼ様!?」
「くそ、どうなったんだ!?」
煙が晴れた時、ベランダにバイクの姿があった。そこには、縛られて身動きが取れなくなっているハーゼの姿があった。
「ハーゼ様‼」
「やべぇ、煙が晴れた‼」
「急ぐぞ‼」
バイクの男達は慌ててエンジンをふかし、バイクを急発進させた。バカップルが跡を追おうとしたが、バイクの方が早く出て行ってしまった。
「シュウ君、クリムちゃん‼変なバイクの連中がここに……」
シュガーが部屋に入って来て、先ほどの惨状を察した。
「遅かった……」
「いや、まだ間に合います」
クリムはそう言うと、全身に魔力を発した。それを見たシュガーはクリムにこう聞いた。
「今から追いかけるの?」
「はい。風の魔法を使って飛んで行けば、奴らを追えます。追いましょう、先輩‼」
「ああ。頼むぜクリム‼」
「では、私に抱き着いてください」
その後、シュウはクリムを抱きしめた。
「飛んでる時、絶対に離さないでくださいね」
シュウはクリムにこう言った後、風の魔法を使ってバイクを追いかけた。外にいるラックは飛んでいるクリムを見て、これなら何とかなるだろうと思った。