爆発事件の終幕
最悪の事態になってしまったなと、タルトは心の中で呟いていた。最初の爆発で発生した爆風でタルトたちは何とか外へ出る事が出来た。しかし、あまりに強い衝撃がタルトたちを襲ったのだ。
「くぅぅ……イッテェ……」
「どこかぶつけたのかハヤテ?」
「ああ、腕をやっちまったみたいだ」
タルトとハヤテの会話を聞き、ナギが慌ててハヤテの腕を見た。しばらくし、ナギがため息を吐いてこう言った。
「ただの打撲ね。ま、爆発を止めようとして出来なかった代償がこれだけならいいわ」
「いいわけねーだろ。痛いんだよ」
「軽い打撲ならすぐに治るわよ。さ、早く逃げま……」
ナギは上から降ってくる壁を見て言葉を失った。気付くのが遅かったのだ。もう落ちてくる壁がナギにぶつかりそうだったのだ。
「嘘でしょ……」
「ナギ‼」
この時、タルトが持っていた剣で落下してくる壁を弾き飛ばした。ナギはタルトの姿を見て、涙を流しながらこう言った。
「ありがとうございます~」
「大丈夫のようだな。さて、早く行こう」
その後、タルトたちは救助船の方へ向かって行った。だが、行く手を阻むように煙や爆発が発生していたため、なかなか前へ進む事が出来なかった。
「クソッ、ここもだめか‼」
爆発によって倒れた壁が時折現れる。タルトは先程のように剣で吹き飛ばそうとしているが、壁が分厚いせいで吹き飛ぶことは出来なかった。魔法を使いたいのだが、ガスが充満している恐れがあり、下手に魔力を使ったら爆発が起こるかもしれないのだ。
「魔法を使いたいけどな……」
「使ったら爆発するでしょうが‼ ゲホッ、ゲホッ‼」
ナギは少し煙を吸ってしまい、咳き込んでしまった。タルトは慌ててナギを抱き寄せ、煙を吸わないようにした。
「煙が多いな。ここからは喋らずに騒がずに行くぞ」
「はい」
「分かりました」
その後、タルトたちは救助船への別のルートがないか調べ始めた。しかし、爆発はまだ終わっていない。時限爆弾が爆発したせいで、船の下にあるガスが連鎖するように爆発を起こしているのだ。そのせいで、被害が広がっている。
このままだと沈没する‼
さらに爆発が広がっている事を察したタルトは焦り始めた。その時、少し船が揺れた。爆発のせいで船が傾いているのだ。
「うわあああああああああああ‼ これやばいですよ‼」
船が急に傾いたため、驚いたハヤテが騒ぎ始めた。ナギがそんなこと知っているわよこのおバカと言いたそうな目でハヤテを見つめていた。そんな中、タルトは意を決したかのように二人を担ぎ、斜めになった床を走り始めた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
「ちょ、タルトさん!?」
「何やってるんですか!?」
「無理やりにでもここから脱出する! それまで踏ん張れよ、二人とも‼」
タルトは二人にそう言ったのだが、途中でこけて転倒してしまった。
「のおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお‼」
「タルトさん、歳なんだから無茶しないでくださいよ‼」
「私はおっさんではない‼」
「いいえ、あんたはもう十分におっさんですよ‼」
「言い合いしている場合じゃないわよ‼ 誰か助けて、シュウさぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん‼」
タルトたちは悲鳴を上げながら、斜めになった船を滑り落ちて行った。下に待ち構えているのは白く昇る煙。そして今だに聞こえる爆発の音。もうダメかとタルトは思った。だが、急に発生した水が爆発を止め、そのせいで発生している火を消滅させた。
「え……」
「まさか……」
「お待たせしました、皆さん‼」
空からクリムの声が聞こえた。クリムは宙に浮いていて、魔力を発生させた。それを見たタルトは察した。クリムが水の魔法を使って爆発を止めたのだと。その後、クリムにしがみついていたシュウがタルトたちの元へ降り立ち、信号弾を上に向けて放った。
「しばらく待ってて。救助船がここまで近づくから」
「それまで踏ん張っててくださいね」
バカップルが地面に降り立つと、ナギはシュウに抱き着いた。
「危機一髪でした、ありがとうシュウさぁぁぁぁぁぁん‼」
「な~にやってるんですか!? 先輩に抱き着いていいのは私だけですよ‼」
クリムはナギをシュウから引っぺがし、シュウに抱き着いた。それからしばらくし、リナサとミゼリーが乗る救助船が近付いた。バカップルはタルトたちと共に、救助船へ乗り込んだ。
とあるビルの一室。一人の男が新聞を読んでいた。その記事には昨日発生した豪華客船爆破事件の事が大きく書かれていた。そこには、クリムが火事を止めたことも書かれていた。
「クリム……あのガキが……」
男は怒りを込めたようにこう呟き、手にしていた新聞を強く握りつぶした。そして、手から炎を発して新聞を塵にしてしまった。
「俺だけは認めんぞ……貴様が賢者に選ばれたのは何かの間違いだ。真の賢者はこの俺様だ‼」
男はそう言うと、扉を開けてどこかへ向かった。男の部屋の壁には至る所にクリムの写真が貼られていた。だが、その写真には剣のような物が突き刺さっていた。