爆発まであと少し‼
爆弾を解除する方法はない。そう教えられたシュウたちは乗客たちを逃がすしかないという答えにたどり着き、急いでハヤテとナギの元へ合流しようとしていた。
「クッ、連絡ができない‼」
タルトは走りながらナギに連絡をしようとしているが、なかなかナギの携帯にはつながらなかった。クリムはタルトの方を見てこう言った。
「仕方ありません。こうなったら私たちで乗客への説明、そして避難の誘導をしましょう」
「それしかないよ父さん。俺たちだけで止めよう」
会話をしながらシュウたちは船の上に出た。突如現れたシュウの姿を見て乗客たちは騒ぎ始めた。
「あの人たち一体何?」
「キャアアア‼ あのバカップルよ‼」
「噂通りシュウ君カッコイイ‼」
「キャー‼ 私の彼氏よりも断然カッコイイ‼」
「皆さん‼ この船には爆弾が仕掛けられています‼ 私たちが救助船の方へ案内しますので、冷静についてきてください‼」
その後、クリムの言葉を聞いた乗客たちは冷静に救助船へ向かって行った。リナサとミゼリーがギルドを使って大型の救助船を要請したのだ。その事をタルトは事前に聞いていたのだ。なので、救助するのに余裕があるのだ。
救助作業を行う中、クリムは周囲を見回してハヤテとナギの姿を探していた。
「あの二人どこへ行ったんでしょうか?」
「そう言えば全く連絡がないな」
タルトはそう言いながら腕時計を見た。あの時、タルトは時計を見て爆発までの計算を頭に入れていたのだ。
「クソッ、爆発まで後三分か。もう時間がない」
「父さん! 救助船が来たよ‼」
と、シュウがリナサとミゼリーが乗る船を見てこう言った。船が来た事を察し、乗客たちは歓喜の声を上げていた。だが、タルトは歓喜の声を上げる余裕はなかった。まだ、仲間がこの爆発する寸前の船のどこかにいるかもしれないからだ。タルトは仕方ないと小声で呟き、バカップルにこう言った。
「シュウ、クリムちゃん。救助の事は任せた。私はあの二人を探してくる」
「ハヤテとナギの事だよね。俺の予想だけど、あの二人の事だから何とかしても爆弾を止めようと動くと思う」
「私も同じ考えだ。あの二人は爆弾を止める事が出来ないことは知らないはずだからな。ちょっと行ってくる‼」
と言って、タルトは大急ぎで爆弾があった場所へ向かった。
同時刻、ハヤテとナギは船の下へ来ていた。
「やっぱりここに仕掛けてあったか」
「爆弾魔の考えそうなことね。船の下から爆発して転覆させるって」
「ったく、お前と同じ考えにたどり着いたのがちょっと嫌だなー」
「そんな事言ってる場合じゃないでしょおバカ。仕事だから仕方ないじゃない」
「はいはいそーですねー」
と、二人は軽い口喧嘩をしながら爆弾を調べていた。
「こりゃ結構やばい爆弾だな。リア充を恨むただの根暗野郎のやることじゃねーな」
「誰かが裏で助けたのよ。全く、何でこんなことをしたのか……」
ナギは爆弾を見て、冷や汗を垂らしながらハヤテの方を見た。
「まずいわ。これ、解除できない爆弾だわ」
「おいおい。よくある奴だろ。どっかのコードを切れば爆発は止まるって」
「以前ギルドで爆弾について話を聞いたでしょ!? 一部の爆弾はコードを切っても止まらないように細工がしてあるって‼」
「忘れたよそんなの。それより、さっさと爆弾を止めよーぜ。あんな連中の脅しが俺に通用するわけねーだろ」
「止めろォォォォォォォォォォォォォォォ‼」
と、タイミングよくやって来たタルトが大声で叫んだ。
「電話に出なかったのはこっちへ向かっていたからか!? 頼むから電話は常に出れるようにしてくれよ」
「電話? 着信音なんてならなかったのですが……」
ハヤテとナギはポケットにある電話を取って画面を見た。そして、顔面が真っ青になった。
「しまった……充電忘れてた」
「私も……」
「オイオイ……」
タルトはため息を吐いた後、事情をハヤテとナギに伝えた。事情を把握したハヤテとナギは慌ててタルトの方へ向かった。階段を走って上がる中、ナギはタルトにこう聞いた。
「タルトさん、爆発まであとどのくらいですか?」
「そうだな……残り時間は……」
ナギに言われて腕時計を見たタルトは、嘘だろと呟いてこう答えた。
「もう一分もない」
「え?」
「ま?」
その直後、下の方から大きな音が聞こえた。
救助船にて。バカップルが救助した乗客たちが突如発生した音に驚き、耳を塞いだり悲鳴を上げていた。
「落ち着いてください‼」
「ここまで爆発の被害は及びませんので‼」
バカップルは乗客たちを落ち着かせた後、黒い煙を上げる船を見た。そして、リナサに向かってこう伝えた。
「父さんとハヤテとナギの救助に行ってくる‼」
「リナサちゃん、ミゼリーさん‼ 乗客の事はお任せします‼」
「あ、ちょっと二人とも‼」
ミゼリーがバカップルを止めようとしたのだが、その前にクリムが魔力を開放して飛び上がり、シュウがクリムに抱き着いてそのまま爆発する船へ向かって行った。空を飛ぶバカップルを見て、ミゼリーはため息を吐いた。
「しょうがないわね……あとは任せたわよ。二人とも」