カラスの爪の襲撃
コエッリオ家からめっちゃ離れた荒れ地。そこに身なりのいい男が岩場の陰にやって来た。男は壁を叩き、小さな声でこう言った。
「俺だ、スリラータだ」
『あんたか。入れ』
返事の後、壁の一部が音を立てながら横にスライド移動した。隠し扉だったのだ。スリラータは中に入り、奥へ進んだ。奥には数名のガラの悪そうな連中と、そのボスらしき人物が部屋の中央で座っていた。その横に、部下らしき男女が立っていた。
「話とは何だ? 厄介なことでもあったのか、ヴァローナさん?」
「まぁ座りな、慌てて話をしたら頭の中に入らないだろ?」
「ボスの言うとおりだ、座って気を落ち着かせな」
スリラータはカラスの爪のボスである、ヴァローナの前に置かれた椅子に座り、改めて用件を聞いた。
「で、話とは何だ?」
「厄介な奴が護衛に付いた」
「厄介な奴?」
「何だ、話を聞いてないのかおっさん?」
幹部の男が冷ややかに笑ってこう言ったが、幹部の女が男を睨んだ。
「口を閉じろ、ルヴォ」
「分かったよブレーア」
幹部の話が終わった後、ヴァローナは話を続けた。
「厄介な奴とは、ハリアの村のギルドの連中の事だ」
「ハリアの村……あんなド田舎のギルドの連中なんて、雑魚しかいないのでは?」
「あんた……しっかりとニュースを見てないな。あそこの村には、最近噂の最年少の賢者が所属しているんだ」
「じゃ……じゃあ、まさかその賢者が……」
「護衛に付いている。それに、ナデモースの事を解決した奴がいるという話だ」
ヴァローナの話を聞き、スリラータは戸惑いながらこう聞いた。
「じゃあ、あんたらは手を出さないっていうのか?」
「想定外の事が起きた。まさか賢者を相手にするなんて考えてなかったからな」
にやりと笑いながら、ヴァローナはこう言った。その笑みを見て、スリラータは彼らが何を望んでいるのかを察していた。
「分かった。報酬を上げよう」
「そう来なくちゃ。こっちも命がけで戦うんでね、経費も掛かるんだよね」
会話後、ヴァローナはブレーアにこう言った。
「ブレーア、今日の夜に襲撃をかける。そうだ、丁度いい時にお客さんが来たんだから、あの娘はここで始末しよう。あんたも憎たらしいガキがここでくたばるところを見たいだろ?」
と、ヴァローナはスリラータに聞いた。スリラータは少し考えた後、邪悪な笑みで答えた。
「もちろん」
その日の夜、シュガーは窓から外を見て小さく呟いた。
「風が強いねー」
「変な天気だったね。今日は」
ラックはコーヒーをシュガーに渡し、話しかけた。
「ハーゼ様は今どこにいるのー?」
「相変わらずクリムさんとシュウの取り合いをしているよ。まぁ、あの二人がいるから大丈夫だと思うけど」
「にぎやかで楽しそうだね」
「そうかな?」
会話をしていると、二人は何かの気配を感じた。ラックは窓から外を見て、その正体に気付いた。
「変な明かりがこっちに近付いてくる……」
「カラスの爪かもね」
「上に行こう」
ラックは上の部屋へ行き、謎の集団が来ていることをシュウ達に告げようとした。
「皆、誰かがこっちに来てる‼」
「マジか」
クリムとハーゼに抱き着かれながら、シュウは窓を覗いた。
「一気に攻め込みに来たな」
「ハーゼ様、このまま私達と一緒にいてください」
「分かったわ」
「その前に、二人ともシュウから離れなよ。奴らは僕が片付けに行く、シュウはクリムさんとハーゼ様を守ってくれ」
「分かった。気を付けろよラック」
ラックは外に出て、屋敷の前に降り立った。しばらくすると、バイクの轟音が響き渡り、ラックの目の前に黒いジャケットを着た集団が現れた。
「そこをどきな坊主‼」
「酷い目にあいたくなかったら、俺達の言う事を聞きな~」
男達は各々の武器を構えてこう言った。だが、その後でラックの攻撃が彼らを襲った。
「チッ、俺達と戦うつもりか!?」
「構わねぇ、やっちまおうぜ‼」
その後、バイクのエンジンをふかしながら、男達はラックに向かって突進を仕掛けた。
「覚悟しなよ。優しくしないからな」
ラックは小さく呟いた後、剣と盾を装備し、目の前の集団を一閃した。仲間が斬られたのを見た後ろの集団は、慌ててブレーキをかけた。
「剣士か……」
「まずい、それなりに強そうだ」
「魔法を使える奴は来い‼後ろから攻撃するんだ‼」
「そうはさせないぞ」
ラックは男達の魔法が襲ってくる前に、風の魔法を放って男達に攻撃を仕掛けた。
「魔法だと!?」
「ただの剣士じゃない、こいつは魔法剣士だ‼」
「畜生、俺達じゃあ手に負えない‼」
何とかラックの魔法から逃げようとした男達だが、ラックが放った魔法から逃げられることはなかった。
「ぐあああああああああああああああ‼」
「ぎゃああああああああああああああ‼」
「お……俺の愛車が……」
男達の悲鳴と共に、魔法を受けたバイクの爆発音が響き渡った。たった数分で、襲ってきた男達は全滅した。
「ふぅ……」
「お疲れー」
呼吸を整えているラックの元に、シュガーが駆け寄ってきた。シュガーは倒れている男達と、煙を上げているバイクを見て呟いた。
「大したことなかったみたいだね」
「……いや、まだいる」
ラックは前を見て、シュガーにこう言った。暗闇の中から、バイクに乗ったブレーアが現れた。ブレーアから発する魔力を感じ、先ほどの男達よりも強い事をラックは察した。
「シュガーさん、僕が傷ついたら治療をお願いします」
「あの人、相当強いんだね。分かった」
会話後、ラックはこちらに向かってくるブレーアを見て、剣と盾を構えなおした。