ハチャメチャコンビとラック
「ブエックショイ‼」
「ハーックショイ‼」
バカップルの部屋から、盛大なくしゃみの声が響いた。部屋の中にいるシュガーとクララは、呆れたようにベッドで寝ているバカップルの額に濡れたタオルを置いた。
「全く、いくら厚い布団をしていても、薄着で寝てたら意味がないじゃない」
「う~、先輩と抱き合って寝てたら大丈夫かな~って思って……」
「全然大丈夫じゃなかったね~」
「ぐ……返す言葉が見つからない」
シュウはため息を吐いてベッドで顔を隠すように覆った。このバカップル、何と風邪を引いてしまったのだ。その為、シュガーとクララが治療のために部屋に来ている。
「治るまでじっとしててね~」
「バカな事をしたってのもあるけど、休まず依頼を続けてたってこともあるかもしれないわね。いい機会だと思って休んでね」
「はーい」
「分かった……」
バカップルの返事を聞いた後、シュガーは大きな瓶を取り出してコップに注ぎ始めた。不審に思ったクリムは中身を聞いた。
「それなんですか?」
「私特製のエネルギードリンクだよー。すぐに風邪が治るように栄養たっぷり入れたんだー」
「栄養は大事ですが、取りすぎてもあんまりよくないですよ」
「病人は黙って休むこと。いざとなったら私の回復魔法で何とかするから」
「いざとなったらって何だよ、なんか怖いんだけど‼」
シュウがそう言った直後、シュガーはバカップルの口に無理矢理怪しげなエネルギードリンクを注ぎ込んだ。
同時刻、ラックはギルドのカウンターに来ていた。受付嬢は少し困った顔で電話応対をしていた。
「すみません。シュウさんとクリムさんは病気で動けない状態です」
「代用の戦士よりもあの二人の方が役に立つと? すみません、あの二人は病気で動けないんです」
「シュウさんとクリムさんは現在病気で身動きが取れません。完治するまで少なくとも三日はかかると思います。え? それまで時間がないと……そう言われましても……」
「二人がいないとやっぱ大変だな……」
ラックはバカップルがどれだけ重要なポジションにいるか、改めて把握した。その時、一人の受付嬢がラックに近付いた。
「ラックさん。シュウさんとクリムさんの代わりにあなたに依頼をしたいという人がいます」
「僕に?」
その後、ラックは会議室へ向かって依頼をしたいという人と会った。ラックに依頼をしたいという人物はスーツを着ており、ラックが部屋に入った直後、席を立って丁寧にお辞儀をした。その姿と動きを見て、かなりの重要な人物であるとラックは察した。
「お待たせして申し訳ございません。僕がラック・スカイラインです」
「あなたがバカップルと共に働く天才的な魔法剣士ですか……子供ながら、かなりの魔力を感じる。遅れました。私はサンラバン自然保護協会のライズと申します」
ラックはライズから名刺をもらい、確認をした。
「自然保護協会……ハリアの村周辺で何かあったんですか?」
「はい。知ってると思いますが、違法に働くハンターたちがこの辺りで悪さをしていました」
この話を聞き、ラックはバカップルとティラ、ストブが倒したハンターたちの事を思い出した。今、あのハンターたちは近くの町の警察署に入れられ、後々シェラールの極悪人用の刑務所に入れられることになっている。
「違法ハンターたちが倒され、捕まったことを察した黒幕がついに動くと情報を手に入れました」
「自然保護協会なのに、危険なことをしますね」
「名目上は自然保護ですが、貴重な植物や動物、虫を守るためには手段を選ばないんですよ。大丈夫です、人の命を奪ったりはしません」
「そうですか。それで、黒幕の情報とは?」
「大企業、ワカゲ衣服制作会社です」
ワカゲ衣服制作会社。この世界に存在する企業の中で、トップレベルに入るほどの企業である。安い値段で質のいい服を買えるため、かなり人気のある企業である。
「まさか、ワカゲが違法にハンターを雇い、動物を捕まえてその皮を使って服を作っているのでは……」
「はい。前々から噂があったのです。ワカゲの会長が安く材料を手に入れるため、ハンターを雇って動物を捕まえ、その毛皮で服を作っていると」
「その噂が本当になってしまったんですね」
「はい」
話を聞き、ラックは依頼の内容を把握した。
「分かりました。あなたの依頼はワカゲの会長を捕まえてほしいとのことですね」
「そうなのですが、こちらにはワカゲが動物たちを捕まえていることを示す証拠がありません。証拠があれば、ワカゲを追い詰める事が出来る‼」
「話は聞いた‼ 我らも手を貸そう‼」
と、ヴァーナがカッコつけながら扉を開けた。その後ろにはドゥーレもいた。
「ヴァーナちゃん、ドゥーレちゃん!?」
「ヤッホー、ヴァーナがどんな話をしに来たか興味があるって言ってたから、付いて来ちゃった」
「重要な話だから、二人には後でちゃんと話すよ」
ラックは二人に近付いて話を始めた。急に現れた二人を見て、ライズは驚きながらラックにこう聞いた。
「この少女は一体……」
「新人です。それでも、チュエールで修行してきたので、かなりの魔力があります」
「チュエールで修行した少女か……なら、戦力になりそうですね」
ライズの言葉を聞き、ヴァーナは大声で笑ってこう言った。
「我に任せろ‼ 罪もない動物を自らの欲のために殺生する愚か者は、我の雷で裁いてくれる‼」
張り切るヴァーナを見て、ラックは少し不安そうにため息を吐いた。