違法ハンターを追え
キッチンにいるストブは呆れてある物を見ていた。その光景を見たクララは、珍しそうにストブに近付いた。
「珍しいわね。ストブが呆れているなんて」
「あんなもん見たら誰だって呆れるよ」
ストブが指さした方向には、一升瓶を抱き枕のように抱いていびきをかいているティラの姿だった。クララはため息を吐き、携帯を手にした。
「シュウさんを呼んできます」
そう言って連絡をした後、バカップルが慌てて駆け付け、寝ているティラの頬を叩いた。
「師匠起きてください」
「みっともないから起きてください。皆見てますよ」
「んにゃ? いいじゃね~か、わたひがどこで寝ようかと……」
と、ティラは寝ぼけながらこう答え、寝返りを打った。話を聞かないティラに対し、クリムはため息を吐いて魔力を開放した。
「仕方ありませんね。ちょっと荒いやり方ですけど」
クリムの魔力を感じたクララは、驚いてクリムにこう言った。
「ちょっと!? 光魔法で叩き起こすつもり!?」
「ええ。大丈夫です。ティラさんならこの程度の光魔法を喰らってもピンピンしてますので」
と言って、クリムは光魔法をティラに向かって放った。激しい炸裂音と共に、ティラの悲鳴が響いた。その後、ティラは割れた一升瓶を見て、涙目でクリムに近付いた。
「クリムてめェェェェェェェェェェェ‼ お前のせいで私の大事な一升瓶がばらっばらになっちまったじゃねーか‼ 一升瓶バラバラ殺人事件だよ、お前が犯人だよ‼」
「はいはい。一升瓶は人じゃないから殺人事件じゃありませんよ。それに、中は空っぽだったじゃないですか」
「うるせーよシュウ‼ お前ちったぁ師匠の言う事を聞けよ‼ 何クールに一升瓶の破片を掃除してんだよ!?」
「俺は当たり前のことをしているだけです。師匠も当たり前のことをしてください」
「してるじゃねーか‼」
「真昼間からお酒を飲んで酔っ払って、キッチンで爆睡するのが当たり前なんですか? はぁ、もうちょっとしっかりしてくださいダメ大人」
「あー‼ ダメ大人って言った‼ 育ての親の事をダメ大人って言ったー‼」
「静かにしてくださいダメ師匠」
「お前もダメ師匠っていうのは止めてー‼ それなりにプライドはあるんだからー‼」
と、騒騒しいシュウたちを見て、ストブは笑い始め、クララは呆れながら小さく呟いた。
「全く、お客さんもいるっていうのに……」
その翌日、ストブはクエストボードへ向かい、難しい依頼がないか調べていた。しばらくすると、近くの森林で違法に働くハンターの存在を知った。
「貴重なモンスターを捕らえるハンターがいるっていうのか。報酬金は20万ネカ。へへっ、面白そうな依頼だし、貰える金も結構いいな」
「へー、稼ぎの良い依頼があるじゃねーか」
後ろから聞こえた声を聞き、ストブはギョッとして振り返った。そこにはティラが立っていたのだ。
「ゲェェェェェェ‼ あんたもこの依頼に来るのか!?」
「いいじゃねーか。仮に私とあんたで依頼達成したら10万ネカが入るんだぜー? いい酒買い放題だよ」
「私はまだ未成年だ。それより、私1人で十分だ‼ 炎の魔法で全部消し炭にしてやる‼」
「ストブがやると、森も消し炭にしそうね」
ストブの声を聞いて、バカップルがやって来た。バカップルを見たティラは、かなり嫌そうな顔をした。
「おいおい、私たちが見つけた依頼を横取りするつもりかー?」
「たちって何だよ? もともと私が見つけた依頼じゃねーか‼」
「私が不安なのは、ストブがやりすぎてハンターどころか森を燃やさないかってことよ」
「そっちか……」
「師匠と一緒に行動するのが不安なら、俺とクリムも行くけどどうする?」
「おいシュウ。私が問題児みたいなことを言うんじゃねー」
「昨日キッチンで酔っぱらって爆睡したのは誰ですかね?」
その後、シュウとティラは大きな声で言い争いを始めた。そんな中、ストブは考えた結果、ため息を吐いてこう言った。
「分かったよ。皆でこの依頼をする」
数分後、シュウたちは近くの森林に移動していた。魔力を開放してハンターを探しているクリムは注意深く周囲を見回していた。そんな中、ティラは欠伸をしながらシュウに近付いた。
「こんな広い場所を4人で探すのは時間がかかる。2人に別れて行動しよう」
「そうですね。じゃあ俺はクリムと一緒に行動します」
「先輩、銃の用意をお願いします。すでに何人かハンターの気配を感じました」
「そうか。よし行こう‼」
去って行くバカップルを見て、ストブは待ってくれと言おうとした。だが、その前にティラがストブの服の襟元を持って引っ張るように歩き始めていた。
「うーし。ストブは私と一緒に行動な。熱くなりすぎて森を燃やすなよー」
「ちょっと待ってくれ‼ 酔っ払いと一緒に行動したくない‼」
大声でストブは叫んだが、ティラがその口をふさいだ。
「静かにしろ。すでにハンターはいるってクリムの言葉を聞いてなかったのか? 騒いだら奴らに気付かれる」
「あ……そうか。飲んだくれのくせにまともなことは言うんだな」
「仕事が関わると私でもまともになるよ。さ、行くよー」
ティラはライフル銃を構えながら、ストブにこう言った。