シュルとシュウのデート!?
ストーカーが逮捕された事を伝えられた、シュウたちは安堵の息を吐いていた。
「ふぃー、終わった終わった」
「これで全部解決ですね」
「きっと、これまでの騒動は奴が起こしたんですよ。死刑になればいいのに」
どす黒い事を言ったシュガーに対し、クララが近付いてこう言った。
「もう終わった事なので少しは落ち着いてください」
「クララちゃんは耐えられるの? あんな男に乳を揉まれたらどうする?」
「そりゃーまぁ水攻めにします」
「だよねー」
二人の物騒な話を聞き、シュウは冷や汗をかいていた。だが、怒りの炎が燃え盛っているのはシュガーだけではない。クリムも怒りの炎で燃えているからだ。
その理由はシュルがシュウとデートする事になってしまったのだ。あれから予定があると聞いかれたが、それを聞いたスタッフが何を考えたのか二人のデート風景を次のミュージックビデオにすると言い、すぐにその流れになってしまったのだ。
「先輩がイケメンだから良いビデオが撮れるって言ってましたけど……ったく、こういう仕事をする連中は金になるんだったら何でもするんですかね」
「クリムちゃん落ち着こうねー。お仕事だから仕方ないよー」
シュガーはそう言ってクリムの尻を掴んでいた。
「いぎゃあああああああああああ‼ 尻を掴まないでください‼ シュガーさんおっぱい揉まれて怒ったんでしょ? 私だって尻を掴まれたら怒りますよ‼」
「落ち着こうね~」
シュガーはクリムの言う事を聞かず、そのまま尻を掴み続けた。そんな中、着替えが終わったシュルが姿を現した。
「どうも……お待たせしました」
いかにも普通の女子っぽい服装だが、アイドルである以上どこか魅力的な雰囲気があるシュルを見たシュウたちは、思わず見とれてしまった。しばらくし、ミュージックビデオの監督がシュルに近付いて話をした。
「じゃ、今回のミュージックビデオの動きはシュルちゃんに任すよ」
「え? こういうのって監督とかいるんじゃないんですか?」
クリムがこう聞くと、監督はこう答えた。
「監督は私だけど、今回はシュルちゃんのありのままのデートをイメージしたビデオにしたいんだ。だから、今回はシュルちゃんが思うままに動くように設定したんだ」
「監督ー、バスの用意が出来ましたー」
「今行く‼ よかったら皆も来なよ。撮影風景を見せてあげるよ」
という事で、クリムたちも撮影現場に行く事になった。
現場は近くの小さな遊園地。貸し切りにしてあるため、客は一人もいなかった。
「撮影の為に遊園地を貸し切るなんてすごい」
「よくあることさ。撮影の為に貸し切りにするってことは」
監督はクララにこう言った後、シュルとシュウの方を見て言葉を発した。
「じゃあありのままに行ってみようか‼」
「はい」
その後、シュルはシュウの手を取って遊園地内を歩き回った。二人はコーヒーカップに乗ったりジェットコースターに乗ったり、ソフトクリームをあーんしたりしていた。シュウはシュルの勢いに飲まれてやっているが、心の中では「ごめんクリム」と何度も叫んでいた。当のクリムはこっそりとこの様子を見て、イライラを募らせていた。
「なんか本当に付き合ってるように見えるんですが。滅茶苦茶むかつきます」
「クリム、落ち着きなさい。あんたがシュウさんと付き合ってるのは皆承知の上だから」
「本当に?」
振り向いた際のクリムの目を見て、クララはギョッとした。何故なら殺意で歪んだ眼をしていたからだ。
「シュガーさん」
「はいはーい」
クララに呼ばれたシュガーはクリムの背後に回り、尻を強く叩いた。
「ぴぎゃあああああああ‼」
「落ち着こうねクリムちゃーん」
「お尻を叩かないでくださーい‼」
クリムは悲鳴を上げながらシュガーから逃げ始めた。
そんな中、デート撮影は続いていた。シュルは遊園地内にある噴水へ行き、シュウに話しかけた。
「私の護衛依頼、受けてくれてありがとうございます」
「え? ああはい。仕事なので」
突如話しかけられたシュウは少し戸惑ったが、それを気にせずシュルは話を続けた。
「あなたの事、ずいぶん前から知っていました。あなたとクリムさんの活躍を知ってテレビを見た時、すごくかっこいい人だと思いました」
「はぁ……」
「あの時あなたの姿を見て、体が熱くなりました。それから、ずっとあなたの活躍がニュースになる度、私はすぐにニュースをチェックしていきました。夢にあなたが出てきたこともあります。しばらくして、これが恋心って事に気付いたんです」
こう言われ、シュウは少し戸惑った。シュウ自身何度も女の子から想いを寄せられていたため、告白されることには慣れていた。しかし、今回は相手がアイドルなので、少し戸惑っているが。
「すみません……知ってると思いますが、俺はクリムと付き合っています。世界中の誰よりもクリムの事を愛しているんです」
「知っています。それでも……私の想いを知ってほしかったんです。それと……」
「それと?」
シュルはシュウの顔にやさしく触れ、そのままキスをした。その瞬間を見たスタッフはどよめき、クリムは言葉に表せないような悲鳴を上げた。
「ファーストキスをあなたに捧げたかったんです。このため、撮影とかでずっとキスシーンを断ってきたんです。これでもう、私のやりたかったことは終わりました。ずっと守ってくれてありがとうございます」
シュルがそう言った直後、撮影は終わった。
その翌日、帰りのバスの中でクリムはシュウと激しくキスをしていた。
「全く、キスされたからってイチャイチャしすぎよ」
「ダメだよクララちゃん、キスに夢中で話聞いてないよ」
シュガーはシュウにキスをしまくるクリムを見てこう言った。クララはため息を吐いた後、あのミュージックの事を思い出していた。監督はすごくいいシーンが取れたからラストに持っていくと言っていたのだ。
「あれはあれで別の騒動が起こりそうな気がする……」
と、クララは小さく呟いた。
その数日後、シュルの新曲と共にそのミュージックビデオが公開された。そのキスシーンを見たハリアの村のギルドの女性たちや、シェラールの女性たちはシュウに詰め寄って話を聞こうとしていた。一部はそのどさくさに紛れてキスをしようとしたのだが。そのせいで、しばらくハリアの村は大騒ぎになっていた。