コエッリオ家の家族写真
「こおんのクソガキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼ 先輩は私と付き合ってるってもう何回教えればわかるんじゃああああああああああああ‼」
「あんたの気持ちなんて知った事か‼ シュウさんは私のお婿さんになるの‼ 私がそう決めたのよ‼」
怒号と物が飛びかかっているハーゼの部屋を見て、ラックは大きなため息を吐いた。
「クリムちゃーん。子供相手に向きにならない方がいいよー。賢者だってこと忘れないでねー」
「そうよ賢者‼ 賢者ならここは潔く引くべきという事が理解できるでしょ‼」
「私は先輩の為に賢者を目指したんです‼」
一歩も引かないクリムとハーゼの言い争いをよそに、シュガーはラックを連れてシュウの所に移動した。
「二人に伝えておくね。襲ってきた黒装束の奴の正体」
「誰なんだ?」
「やっぱりカラスの爪の下っ端。誰に頼まれたのかは下っ端までには話が行ってないみたい」
「捕まるのを覚悟に下っ端をよこしたわけか……」
「僕の考えだけど、奴らはハーゼ様を暗殺する以外に、僕達の事も調べろって言われたんじゃないか? 仲間を呼ぶ端末の中に、隠しカメラとかマイクがあるかもしれない」
「確かにねー。もしかしたら、私達の事も知られた可能性もあるね」
ラックとシュガーの話を聞き、シュウは二人にこう言った。
「奴らも俺達の力を知ってる以上、むやみに俺達に襲ってくるってことはないかもしれないな」
「隙を見てハーゼ様に何かするつもりだね」
シュガーの言葉を聞き、シュウは頷いた。
「こんな状況だし、ハーゼ様の護衛は俺とクリムでやる。ラックとシュガーは屋敷の外を見張っていてくれないか?」
「そうだね。分かったよ」
「どんとこ~い」
その後、シュウはクリムに近付いてこう言った。
「いろいろあるけどさ、俺とクリムでハーゼ様の護衛をしようぜ」
「私もあの小娘の護衛をするんですか?」
「大丈夫さ。前に言っただろ、俺が愛してるのはお前だけだって」
「先輩……」
そんな会話の後、クリムはシュウに抱き着き、シュウは優しくクリムを抱きしめた。この姿を見たハーゼは頬を膨らまし、シュウに抱き着いた。
「あ、テメー私と先輩がイチャイチャしてるっていうのに‼」
「何が何でもシュウさんは私のお婿にするんだからね‼」
再び言い争いをするクリムとハーゼを見て、ラックは不安げにため息を吐いた。
数分後、シュウ達は屋敷の図書室にいた。シュウはラックとシュガーからスリラータの事を聞いており、どんな人物なのか知るために、アルバムがある図書室へ来ていたのだ。
「いろんな本がありますね……」
「どれもこれも亡くなったお父様が集めてたものよ。ほとんどが歴史の本だけど」
ハーゼはこう言いながら、隠しスイッチを押してアルバムを出した。
「結構厳重にしまってあるんだな」
「もちろんです。これは私の宝物の一つでもあるんですの」
そう言いながら、ハーゼはアルバムを開き、一枚の写真をシュウに見せた。その写真はハーゼが生まれた時に撮られた写真で、中央に赤ん坊のハーゼとその両親、親類らしき人物たちが横に整列していた。ハーゼは端っこの男に指を指し、シュウにこう言った。
「ここです。この端っこにいる小太りのおっさんがスリラータです」
「この人がスリラータか……」
シュウはスリラータの姿を確認した後、それをクリムにも見せた。
「いかにも悪い事を考えてそうな顔をしてるな男ですね」
「そうだなぁ。それと、欲深そう」
「そうなんです。噂で聞いた話なんですが、この男はかなりの欲張りで、地位や名誉、金や女までも自分の物にしないと気が済まないと聞きました」
ハーゼの言葉を聞き、シュウは一つ気になったことがあったので、ハーゼにこう聞いた。
「親戚なのに噂でしか知らないのか?」
「親戚といっても、かなり遠く離れた親戚です。お父様が病気で亡くなった時、見舞いに来た時に顔を見た程度です」
「そうなんだ……」
話を終えた後、ハーゼはアルバムをめくり始めた。しばらく父親であるペターオの写真を見て涙を流し始めていた。
「お父様……」
クリムはハーゼに近付き、頬に流れている涙を拭いた。
「優しいのね」
「傷心している人をほっとけないので」
「家族……か……」
シュウはそう呟いた後、何かを思い出しているのか、目をつぶり始めた。その時、何かを思い出したかのようにハーゼはこう聞いた。
「シュウさんの家族は?」
「分からない。生きているのか死んでいるのか分からないんだ」
この答えを聞き、ハーゼは茫然とした。クリムはハーゼに近付き、こう言った。
「先輩はまだ赤ん坊の頃に母親を殺されたんです。その時、ハリアの村に住む凄腕のガンナーが先輩を拾って育てたんです」
「そうだったんですか……母親が殺されたのなら、父親は?」
「それが分からないんです。先輩を拾ったガンナーが言ってたんですけど、身元が分かるような物は全て盗賊に奪われて売られた後だったと聞いてます」
「そんな過去があったなんて……」
シュウの過去を聞き、驚いているハーゼに対し、クリムはこう付け加えた。
「私も家族を失っています。まだ、私が赤ちゃんの頃にです。だから、父親の愛情を受けて育ったハーゼ様の事が少し羨ましいです」
「あんたもそうだったのね……でもどうやって育ったの?」
「先輩を拾ったガンナーが、私の両親の知り合いだったんです。その人の元で育ちました」
「そう……」
ハーゼは呟いた後、シュウに抱き着いた。
「ごめんなさい。辛い過去を思い出すようなことを聞いて……」
「大丈夫だよ。俺はそこまで気にしてないから」
シュウがこう言った後、ハーゼは再び涙を流し始めた。