ストーカーとの戦い‼
ストーカーは身を隠すために潜んだ場所がシュルの部屋だとは思ってもいなかった。今なら手にするチャンスと思っていたのだが、近くからバカップルの声が聞こえた。先ほどのスタッフが話していた通り、バカップルがシュルの部屋で警備を行っているのだ。
チャンスと思ったが、ピンチでもあるのか……。
ストーカーは心臓の音を鳴らしながら心の中で呟いた。ストーカーもバカップルの活躍の話はテレビやネットニュースで見ている。今、下手に動いたら確実に始末される運命であろうとストーカーは思った。
「せんぱーい、着替えが終わりましたよー」
「ああ。そっちに戻るよ」
外からバカップルの声が聞こえた。その直後、ストーカーの目には廊下を歩くシュウの姿が映った。その後、扉の閉まる音がし、バカップルとシュルの会話の声が聞こえたため、今バスルームの近くには誰もいない事を察し、ストーカーは急いで外に出た。
しかし、すぐに逃げるなとストーカーは自分に言い聞かせた。自分が不審人物であることを察しているスタッフが存在しており、バカップルの仲間であるシュガーとクララも姿を見せていない。どうしよう。そう思っていると、突如後頭部に何かが当たった。
「動くな。お前がシュルさんのストーカーか?」
後ろを見ると、そこには銃を構えたシュウが立っていた。ストーカーは悲鳴を上げ、後ろに逃げようとしたが、シュウはその足を強く踏んで動きを止めた。
「さっき、バスルームに隠れてただろ。俺、知ってるんだぜ?」
「何でばれたんだ? 気配を隠していたつもりなのに‼」
ストーカーの叫びを聞き、シュウはため息を吐いてこう言った。
「ど素人はこれだから困る。うまい奴は気配を完全に消してるよ。お前の呼吸の音はうるさいし、体臭も酷い。それで誰かがここにいるってことが分かったんだ」
そんなことでばれるとは思わなかった。ストーカーはこう思った後、やけくそと思いシュウを突き飛ばし、シュルのいる部屋へ猛ダッシュした。しかし、部屋に入った瞬間強烈な痺れが彼を襲った。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?」
「先輩の言う通りでしたね。変態野郎はシュルさんを狙うため、ここに来ると」
クリムは扉に仕掛けていた魔力で作った痺れ罠を解除し、倒れたストーカーに近付いた。
「さて、いろいろと話を聞かせてもらいますよ……うげ、この人臭い」
ストーカーはこの一言を聞き、怒りに任せてクリムを強く突き飛ばした。そして、驚きで戸惑っているシュルを無理矢理抱きしめ、そのまま窓へ向かって行った。
「い……いや‼ 離して‼」
「離さないよ僕の天使‼ もうこうなったら……」
ストーカーは窓を開け、外を見降ろした。
「こうなったら‼ 一緒に天国へ行こう‼ そうすれば、ずっと君は僕だけの物だ‼」
心中すると思い、シュウは銃でストーカーの足を狙って撃とうとしたが、クリムがシュウを止めた。
「任せていいか?」
「はい。あいつに突き飛ばされたんです」
「俺のクリムを傷つけやがって、半殺しにしてやる」
「いいえ。もう少しだけ待ってください」
クリムはそう言ってシュウを止めた後、ストーカーに向かって叫んだ。
「死なせませんよ‼ あなたもシュルさんも‼」
「ハッ‼ 何を言うか‼ もう誰も僕を止められない‼」
ストーカーは高くジャンプしてシュルと共に飛び降りようとした。シュルの悲鳴が響く中、クリムは冷静に魔力を放っていた。
「君と一緒に死ねるなら、僕は悔いはない。悔いは……あ、あれ?」
状況を察したストーカーは、変だと思い周囲を見渡した。飛び降りて落下したはずなのだが、ストーカーは宙に浮いていた。
「あれ? 何で浮いてるんだ?」
「言いましたよ。死なせませんよって」
クリムは魔力で風を発生させ、ストーカーとシュルを浮かしたのだ。クリムは風を操り、ストーカーとシュルを部屋に戻した。
「さぁ、きっちり礼をしないとなー」
シュウは大型アサルトライフルを装備し、ストーカーに銃口を向けていた。
「先輩、どっからその物騒な武器を取り出したんですか?」
「隠し持ってるんだよ。クリムが傷つけられた時に相手を半殺しにするために」
銃を見たストーカーは悲鳴を上げながら扉を開け、廊下に逃げようとした。しかし、彼は何か柔らかいものを掴んでいた。
「あ……あり? 何これ?」
「何を掴んでいるんですか~?」
部屋に入ろうとしたシュガーが扉を開けた際、ストーカーの手が胸に当たってしまったのだ。しかも、ストーカーはドアノブを開けるために手を動かしていた。どんな風なのかはお察しください。
「や……柔らかい」
「ウフフ。ブッコロス‼」
聞いたことのないシュガーの声を聞き、思わずシュウはクリムに抱き着いた。それから、恐ろしいものを見て、恐ろしい事を体験しているようなストーカーの悲鳴がビル中に響き渡った。
数分後、白目を向いて泡を吹いているストーカーが救急車に運ばれた。
「意識が戻り次第、私の方で話を聞きに行きます」
「分かった。シュガーのようにはしないでくれよ」
「はい。承知しています」
その時、震えあがっているクララがクリムに近付いて小声でこう言った。
「ごめん、シュガーさんが怖いから一緒に行ってもいい?」
「クララちゃん、何て言ったのかな?」
まだ怒りのオーラを発しているシュガーがクララの方を向いた。怒りの炎を発しているシュガーの目を見たクララは、悲鳴を上げてクリムに抱き着いた。そんな中、シュルがシュウに近付いた。
「すみませんシュウさん。明日、予定はありますか?」
この言葉を聞き、今度はクリムの目に炎が発した。