魅惑のアイドル
クララはギルドの自室でお茶を飲んでいた。チュエールのローラからクリムを妬む元賢者候補を守ってほしいと言われているが、ギルドの依頼をバカップルと共にこなしているうちに、クリムの実力を目の当たりにして大丈夫だろうと思っているのだ。
「はぁ……平和な村ね」
お茶を飲み、のほほんとした気分の中クララは呟いた。このところ依頼が続いてロクに休んでいないのだ。依頼の中でホテルや近くのギルドで寝泊まりするということはあったのだが、自室と言う最高で最強の安堵の場で休むのがクララにとって最高の癒しなのである。
しばらくし、クララは背伸びをして廊下に出た。散歩をするつもりなのだ。そんな中、シュガーが慌てて走っている姿を見つけた。
「シュガーさん、どうかしたのですか?」
「クララちゃん。丁度良かった~。シュウ君とクリムちゃん知らない?」
「部屋にいないんですか?」
「そうなの。シュウ君の携帯を鳴らしてもクリムとイチャイチャ中だからあとにしてくれって留守電がなるだけなの」
「何なんですかその留守電は……とにかく私も二人を探すの手伝います。何か依頼が入ったんですね」
「うん。歩きながら話すよ」
その後、クララはシュガーと共にバカップルを探し始めた。移動中、クララはシュガーから入った依頼の事を聞いた。
「あの二人に依頼が入ったんですか?」
「指名でね。クララちゃんってあのシュルって人知ってる?」
シュルと言う名前を聞き、クララは目を丸くして驚いた。
「知ってます。昨日もテレビでその人が出てる番組を見ました。もしかして、依頼人は……」
「そのシュルさん。と言っても、マネージャーとプロデューサーだけど。シュウ君とクリムちゃん、前にマリネットさんの護衛依頼をこなしたから、腕が立つって芸能界で知られてるみたい」
「マリネットさんの護衛をしたの!? あの二人が!?」
「うん。別荘はボヤ騒ぎがあったけど、二人が何とか解決したよ」
「意外……」
そんな話をしていると、二人はギルドの外にある草原で寝そべっているバカップルを見つけた。
「見つけた」
二人は外に出て、草原で寝そべってイチャイチャしているバカップルに近付いた。
「シュウ君、クリムちゃん。依頼だよ」
「私達指名ですか?」
「うん。芸能人の護衛依頼だよ」
「芸能人の護衛か。誰の依頼なんだ?」
「シュルさん。知ってるでしょ、あの魅惑の中性アイドル」
「テレビで見ました。あの性別がいまいちわからない人ですよね」
「ミステリアスな雰囲気のアイドルか。変な依頼じゃなきゃいいんだけど」
その後、バカップルは立ち上がってギルドへ戻った。バカップルを見つけたシュガーとクララは、仕事の内容が気になったため、後ろからついて行った。
バカップルはギルド内にある待ち合わせ室に来ていた。バカップルの前にいるのは若い男性と中年男性。二人はポケットにある入れ物から名刺を取り出し、バカップルに渡した。
「メシンギャンプロダクションのハインドとジッギールさんですね」
「はい。私はハインドと言います」
こう言ったのは若い男性だった。シュウはハインドから受け取った名刺を見て、驚きの声を上げた。
「シュルさんのマネージャーなんですね」
「はい。こちらがプロデューサーのジッギールさんです」
「よろしくお願いします」
と、ジッギールは礼儀正しく頭を下げた。クリムはジッギールの姿勢が戻ったのを見て、話を始めた。
「今度の依頼はシュルさんが絡んでいるんですか?」
「はい。実は、前からこんな手紙が届いているのです」
ハインドはカバンから封筒を取り出し、バカップルに見せた。開けてくださいと言われたため、シュウは封筒を開けて中にあった手紙を取り出した。その手紙には新聞や雑誌の文章を切り取って作られたメッセージがあった。それにはこう書かれていた。
君を見た時以来、俺は君に夢中だ。君が男でも女でも構わない。必ず手に入れる。
「うわー、気持ち悪いですね」
「手紙が来たのは一度きりですか?」
シュウにこう聞かれ、ハインドはうつむいて答えた。
「いえ、何度も来ています。警察にも連絡しましたが、住所不定のため捜査は難航していると」
「で、何か被害がったのですか?」
クリムの質問を聞き、ジッギールはカバンから一枚の写真をバカップルに見せた。その写真は事務所の扉だったのだが、鍵穴部分が少し傷ついていた。
「これって……鍵を無理矢理こじ開けようとした跡ですか?」
「はい。恐らくですが、犯人は事務所に潜入してシュルの個人情報を手にし、そこからシュルの家に乗り込むと考えたんでしょう」
「すごい事を考えますね。ですが、実際に行動に移している以上、何かある可能性があります」
「はい。なので、今度のコンサートまでに何もないようにシュルの護衛をお願いします。あなたたちが頼りなのです」
ハインドとジッギールはもう一度頭を下げてバカップルに頼んだ。それを見たバカップルは二人に頭を上げるように促した。
「分かりました。変態野郎からシュルさんを守ります」
「犯人が行動に移っている以上、かなり危険な状態です。すぐに依頼を開始します」
「おおっ‼」
「ありがとうございます」
二人はそう言って、再び頭を下げた。
会話を終え、クリムは扉の外にいたシュガーとクララを見てこう言った。
「盗み聞きはよくありませんよー」
「ごめん。有名人の依頼だから気になっちゃって」
クララは謝りながらこう言った。それを見て、クリムはクララの肩を叩いてこう言った。
「じゃ、クララもこの依頼に参加する? 人が足りないから参加してほしいの」
クリムの言葉を聞き、クララは少し考えた後、こう答えた。
「いいわ。私も参加する」