強盗集団現る
シュウ達はイコと共にドンダーケ銀行のスタッフルームにいた。今は昼で一般の客もたくさんいる。シュウはこのタイミングで強盗は来ないだろうと思っていた。ストブは大きな欠伸をしながら、クララにこう言った。
「とりあえず夜になったら動こうぜ~。それまで私は寝てるよ」
「仕事中なんだから寝ないの。油断してたら変なタイミングで来るかもしれないわ」
「クララの言うとおりだね。奴らはいつ来るか分からないし」
クララとドゥーレはストブにこう言った。そんな中、ヴァーナはカッコつけながらモニターを見ていた。
「何も感じぬ……やはりここにもあの力を持つ者はいないのか……」
「あの力って?」
「独り言です。あの子、中二病なんです」
クララはイコにヴァーナの事を説明した。そんな中、バカップルはモニターを見つつイチャイチャしていたが、何かを見たバカップルはすぐに立ち上がった。
「どしたの二人とも~?」
「ちょっとね」
「席外します」
バカップルはそう言ってスタッフルームから出て行った。
銀行内。一般客で賑わう中、少し怪しい動きをする男がいた。その男は周りを見ていたが、しばらくして外に出て行った。それから銀行から離れた所で歩いていたが、突如目の前にバカップルが現れた。
「ちょっと待ってください」
「あなた、あの銀行に何しに来たんですか?」
バカップルの質問を聞き、男はうろたえながら答えた。
「知り合いに会いに行っただけだ。だが、待ち合わせの時間になっても来ないから帰ることにしたんだ」
「嘘ですね」
クリムはそう言うと、風の魔法を使って男のポケットを斬った。斬られたポケットから、小さな弾丸が落ちてきた。
「ああっ‼」
「こいつはなんですか?」
シュウは男の胸ポケットに手を突っ込み、隠し持っていた小さな銃を取り出した。
「銀行にこんな物騒な物を持ってくるなんて」
「よこせ‼」
男はシュウに飛びかかって銃を奪い取ろうとしたが、クリムが水の魔法を発し、男の足元を凍らせて転倒させた。
「さ、事情を説明してくださいね」
クリムは魔力の塊を男に向けながら、笑顔でこう言った。
バカップルは捕らえた男を連れてスタッフルームに戻っていた。
「へー、客の中にこんな奴がいたなんてなー」
ストブは男の頭をつつきながらこう言った。男は止めろと呟いたが、ストブは行動を止めなかった。
「止めなさいストブ。とにかく、この人が最近噂の銀行強盗の……」
「多分仲間です。私の勘だと、こいつはただの下っ端。一般客に扮して銀行内に入り、銀行内の構造を調べ、その事を実行犯に伝える仕事をしてたんでしょう」
クリムの言葉を聞いた男は驚いたかのように背筋が伸びた。それと同時に、額から冷や汗が流れ始めた。
「その通りみたいだね」
ドゥーレはこう言うと、シュウに近付いた。
「で、今から取り調べする?」
「だな。さて、誰がやるか……」
「我がやろう‼」
と、ヴァーナが大声で叫んだ。その後、ヴァーナは男に近付いて笑いながらこう言った。
「さぁ覚悟しろ。どんな嘘を言おうが我には通じん‼ 我が隠し持つたった一つの真実を暴く瞳の前では嘘は」
「あんたはそんな目を持ってないでしょ。クリム、シュウさん。こいつの取り調べは私とヴァーナがするわ」
ヴァーナに呆れたクララはため息を吐き、男とヴァーナに近付いた。
「何か分かったら連絡するわ。ストブとドゥーレが暴れないか心配だけど、ブレーキ役をお願いね」
「分かりました。ヴァーナが暴れないように見張っててください」
「お互い大変ね……」
その後、クララとヴァーナと男は別室へ向かった。
ドンダーケ銀行から離れた廃ビル内。そこの一室に黒いスーツを着た集団が話をしていた。
「見張り役が戻ってこないな」
「ギルドの連中にばれた可能性が高いな」
「恐らく奴は捕まった」
集団の一部がこう話すと、その集団のリーダーらしき人物が立ち上がってこう言った。
「捕まった事はしょうがない。それでも我らの計画は進めなければならない。そう……」
その人物は呼吸をした後、改めて大声で叫んだ。
「銀行襲ってがっぽり稼いで、その金でこの町一帯を武力で征服しちゃいましょう計画を成功させるために、犠牲は仕方ない‼」
「そうですね、我らが王女‼ メッズーニ様‼」
メッズーニと呼ばれた女性は、手を顔に付けて大声で笑い始めた。
「いいかしら? このチンケで腑抜けな町を支配し、私が望むバイオレンスでヒャッハーな町を作り、私がここの町……いや、この町を私の王国にし、そこから世界征服をしていくのよ‼ オーッホッホッホッホ‼ オーッホッホのホ‼」
メッズーニの一団が高笑いする中、そのビルの近くにいた二人組の漁師がその一団を見て会話を始めた。
「何やってんだあの変な連中は?」
「こんな真昼間から変な事をやっとるんじゃ。どーせバカの集まりじゃよ」
「若いもんが働きもせずバカ騒ぎか……働けっつーの」
二人組の漁師は会話を終え、船に乗り込んで海へ向かった。正体がバレバレなのを気にせず、メッズーニ達は笑い続けていた。