賢者になれなかった男
魔力を開放してクリムに向かって行く中、ギャザーはチュエールの事を思い出していた。
クリムが来る前は数ある賢者候補の中の一人だったギャザーは、ライバル達を蹴落とすために鍛錬を繰り返していた。そんなある日、まだ幼いクリムが修行のためにチュエールにやってきた。
最初、クリムを一目見たギャザーはすぐにくたばるだろうと思っていた。しかし、現実は違った。厳しい修行の中でクリムの才能が開花したのか、クリムはありとあらゆる魔法やその技術を取得してしまったのだ。そして、数年ほどで自分達賢者候補よりも強くなってしまった。
あとから来たクリムが自分達を追い抜き賢者になるかもしれない。そう思ったギャザーを含めた賢者候補はクリムに戦いを挑み始めた。だが、圧倒的な力とクリムの才能の前に散って行った。
その騒動を知ったチュエールの重要人物らが、ギャザーを含めた賢者候補をチュエールから追い出した。理由は私怨で戦う馬鹿に賢者を名乗る資格はないと。
追い出された後、ギャザーは各地を回り始めた。そんな中、クリムが賢者となり、ギルドの有名なバカップルとして活躍したのを見て、ギャザーはリベンジの為に裏ギルドアウトコーギヌに入り、クリムをおびき寄せるためにこの騒動を起こしたのだ。
「死ねェェェェェェェェェェェ‼ クリムゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ‼」
ギャザーは雄たけびと共に炎の剣を宙に発し、クリムに向かって投げつけた。炎の剣が通った後には、残り火が発生した。それを見たクリムはその位強い炎だと確信した。
「物騒な技ですね。ここは街の中ですよ、何が起きるか分からないってのに‼」
クリムは水を発し、炎の剣を消していった。炎の剣がすべて消えた後、クリムは周囲を見回した。先ほど立っていたギャザーの姿見えなくなっていたのだ。
「はぁ、くだらない技を使ってごまかすのは止めた方がいいのでは?」
どこかにいるギャザーに向かってクリムはこう言ったが、返事はなかった。クリムはため息を吐き、闇の魔法を放った。すると、空中からギャザーが引っ張られるように落ちてきた。
「グッ、重力を操っているのか!?」
「何か問題でも?」
冷めたような目でクリムは落ちてきたギャザーを睨んだ。その目を見たギャザーは怒りに任せて魔力を開放し、クリムが放った重力を動かす闇を消した。
「俺を見下すな‼」
「仕方ないですよ、あなたは見下されるようなことをしているんですから」
「このガキが‼」
ギャザーは炎の大剣を発して手にし、クリムに斬りかかろうとしていた。だが、炎の大剣を振り上げた瞬間、刃が切れてギャザーの頭に命中した。
「あが……ががが……」
運よく頭に刺さらなかったのだが、頭をぶつけたせいでギャザーはしばらく動けなかった。
「く……クソッたれが……」
「感謝してくださいね。頭が刺さらないように注意して剣を折ったんですから」
「どこまでも俺を見下すのは許せん‼」
ぶつけた頭を押さえながらギャザーは立ち上がり、炎の玉をクリムに向けて放って行った。クリムは炎の玉をかわしたのだが、後ろに飛んで行った炎の玉が方向転換し、クリムに向かって飛んできた。
「追尾機能ですか」
「そうだ! お前にこの数がかわせるか!?」
ギャザーはそう言うと、追尾機能がある炎の玉をいくつも発した。
「そーらそらそらそらそら‼ これでくたばっちまいなぁ‼」
クリムは炎の玉をかわしながら、ギャザーを睨んだ。その目を見たギャザーは一瞬怯んだが、すぐに我に戻った。
「何だその目は?」
「あなたが哀れだなと思いまして」
クリムはそう言うと、周囲に水を発して襲ってくる炎の玉を消滅させた。
「炎を消したから優勢になったつもりか? 俺の魔力はまだたんまりあるんだぜ‼」
「無駄ですよ。あなたがどれだけ魔力を使おうが、周囲を混乱させようが、私に敵うことは決してありません」
この言葉を聞き、ギャザーは歯を食いしばりながらクリムを睨んだ。その時だった。クリムは魔力を開放し、姿を消してしまったのだ。
「なっ!? どこへ行った!?」
「ここですよ」
ギャザーの後ろからクリムの声が聞こえた。声を聞いた瞬間にギャザーは振り返ったが、その直後にギャザーの体は大きく吹き飛んだ。後ろに回ったクリムは光魔法を発し、ギャザーを吹き飛ばしたのだ。クリムの攻撃によって吹き飛んだギャザーは、遠く離れた看板に激突した。
「ぐ……クソが……」
何とか起き上がろうとするギャザーだったが、看板に激突した際、体を強く打ったからか体が言う事を聞かなかった。それでも動こうとしたが、クリムが空を飛んでギャザーに接近した。
「観念してください。これ以上私を本気にさせるのは得ではありませんよ」
と、クリムは魔力を開放してこう言った。ギャザーは震えながら、項垂れてこう言った。
「分かった。これ以上戦っても無意味だ」
その後、ギャザーを確保したクリムはシュウとクロボンの所へ戻り、連行するように伝えた。シュウはクリムに近付き、周囲を見回した。
「ここら一帯は大丈夫そうだな」
「はい。後はアウトコーギヌのボスを軽くやっつけちゃいましょう」
「ああ。この騒動に出てこなかったから、たいして強くなさそうだな」
「ですね。すぐに終わると思います」
バカップルは連行されていくギャザーを見ながら話をしていた。そんな中、シュウはクリムの顔を見てこう思っていた。どこかしら、クリムの顔に影があると。