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謎の老人

 タルトが来客用カウンターであれこれ話している時、ジャックとナギは近くの椅子に座ってタルトの話が終わるのを待っていた。


「長いですねー」


「やっぱりエイトガーディアンであっても、客を調べるのは難しいか」


「プライバシーが関わってますからね。難しいんでしょう」


 二人が話していると、飲み終えて機嫌がいいのかティラがやってきた。


「うーっす。どうよ調子は?」


「どうもこうもねーよ。あんたはずっと飲んでただけじゃねーか」


「二人がプレミアムチケットしか行けない場所に行って調べられないのよ」


「もしかしたら尾行がばれて、そっちに行っちゃったんじゃないの?」


「だからタルトさんが事情を説明してるんじゃねーか」


 ジャックはカウンターで話をしているタルトをティラに見せた。その時、年配男性の悲鳴が聞こえた。


「何だ?」


 様子が気になったジャックは見に行ってみると、そこには怒っている女性客と頬に手の跡が付いた年配男性が倒れていた。


「失礼。俺はギルドの戦士ですが、何かされたんですか?」


「ナンパです。しつこいからつい……」


「ナンパか。質の悪いじーさんだな」


 呆れたようにため息を吐きつつ、ジャックは倒れている年配男性に近付いた。


「おいじーさん、大丈夫か?」


「大丈夫じゃ‼ おーい、そこの美人ちゃーん‼ わしと一緒にお茶でもどーおー!?」


 その年配男性は立ち上がってすぐに別の女性に声を掛けに行った。そして、今度はみぞおちにストレートを喰らって倒れた。


「あの様子じゃあ何度殴られても無事だな」


 その様子を見て呆れたジャックは、ナギ達の元へ戻って行った。


「どうかしたの?」


「変なじーさんがナンパしてた。ナギちゃんもティラさんも気を付けろよ。ったく、こう言う時に限って変な客と遭遇するなぁ……」


 ジャックは殴られても立ち上がり、ナンパを続ける年配男性を見てため息を吐いた。




 その頃、何も知らないバカップルはプレミアムチケット限定のレストランに来ていた。


「すげー……うまそうだな」


「ええ……こんな豪華な料理初めてです」


 バカップルの目の前に出されているのは綺麗に盛り付けられた刺身や高級品が入っている鍋、そしてかなりでかいカニ料理があった。どれもこれも値が張る物ばかりだが、プレミアムチケット限定で全てただで食べられるのだ。


 いざ食べようとしたのだが、シュウが少し身震いした後でクリムにこう言った。


「ごめん、トイレに行ってくる」


「はい。私待ってますので」


「うん。ほんとごめん」


 と言って、シュウはトイレへ向かって行った。クリムはシュウが来る間、携帯電話を操作していた。その時、後ろにいた年配女性がクリムに近付いた。


「まさかこんな所で会えるとはね」


 この声を聞き、クリムはため息を吐いてこう言った。


「何の用ですか? 私と先輩のデートを邪魔するんですか?」


「そんな事はしないよ。あんたと会ったのはまぐれだからね」


「本当にまぐれですか?」


「当り前さ。出来ることなら生意気な小娘とは会いたくないんだがね。まぐれってのは恐ろしいもんさ」


 クリムは周囲を見回し、その年配女性にこう聞いた。


「あの人は?」


「ナンパしに行っちまったよ。ほんと、しょーもないじーさんだよ」


「あの人と結婚したあなたが言うセリフですか?」


 クリムの言葉を聞き、年配女性はフンと鼻を鳴らして言葉を返した。


「そんな事より、あんたの彼氏はどこ行ったのさ?」


「トイレです。ナンパじゃありませんよ」


「あそこで逆ナン喰らってるのがあんたの彼氏か」


 この言葉の後、クリムは女子達の声を聞き、シュウが彼女らに絡まれている事を察した。


「全く、他の女め‼」


「私らはもう行くから。その前にクリムに伝えたいことがある」


 クリムは動きを止め、少し怒った目つきで年配女性の方を振り向いた。


「何ですかもう? 先輩を早く助けに行かないといけないのに」


「チュエールの中にはまだあんたを賢者と認めてないバカ共がいる。そのバカ共がチュエールから出て、行方知らずだ」


 話を聞き、クリムは少し考えて言葉を発した。


「私の命を狙ってるんですか?」


「その可能性が高いよ。賢者であるあんたを倒せば、自分が賢者になれると思ってるだろうよ」


「そうですか。来たら来たで返り討ちにしますが」


 年配女性は息を吐き、クリムにこう言った。


「あんたならこう言うと思ったよ。じゃーな。わたしゃあの馬鹿じーさんを連れて帰るから」


「帰るんですか?」


「もう満喫したからね。満足だよ、わたしゃ」


 そう言って年配女性は去って行った。その後、何とか女子の群れから脱出したシュウがクリムに近付いてきた。


「どうかしたか? 知り合いとあったのか?」


「ええ。ちょっとした知り合いに会いました。まぁ……こんな所で会えるとは思ってもいませんでしたが」


「そうか。さて、気を取り直して飯と行くか。冷めてないといいけど」


「そうですね。せっかくおいしそうなご飯を覚ましては勿体ありません。今すぐにいただきましょう‼」


 話を終え、バカップルは目の前の料理を食べ始めた。シュウと一緒に食べるだけあってか、クリムは食事をより一層おいしく感じられたが、先ほどの年配女性の言葉が頭の中でよぎっていた。しかし、命を狙われても自分には仲間がいる。愛するシュウがいる。そう思うと、いくらチュエールのバカ共が襲ってこようが無駄だと考えを改めた。

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