騒動の後日譚
騒動が収まって一週間が経過した。神罰の代行者こと、デズガによって破壊された街並みはゆっくりだが、回復してきている。
「街もまた賑やかになりますね」
「ああ。時間はかかるけど、いつかきっと元に戻る」
バカップルは病院の窓から、工事の様子を見ていた。その時、テレビに映っているアナウンサーの声が聞こえた。
『シェラールのビルなどを爆破し、多数の死傷者を出したデズガ容疑者ですが、昨日刑務所内で亡くなっていたことが分かりました』
デズガが命を落としたことを、バカップルはニュースを通じて知った。命を落とした理由までは語らなかったのだが、クリムはあんなに太っていたら、きっと何かしらの病気になっていたと考えた。それを彼自身知っている様子はなかったため、突然死と判断した。
「天罰が当たったのかもしれませんね」
「天罰?」
「かなり太っていたため、どこかしら体に異常があったはずです。本人がそれを知ってたか知らなかったのか分からないのですが、それを放置して、突然死したものと思われます」
クリムの話を聞き、シュウはデズガの写真を思い出していた。
「確かに異常なほど太ってたな」
「かなり偏った食生活だったのかな?」
話を聞いていたタルトが、考えながら声を発した。クリムはデズガがいるビルに乗り込んで来た時、彼のいた部屋を思い出していた。
「そうですね。辺りにはカップ麺や菓子パンの袋が散乱してました。それと、ペットポトルや缶もあったのですが、ほとんど炭酸飲料やエナジードリンク類でした」
「かなり体に悪い食事だな……そんなんだから太ったんだよ多分」
シュウがこうぼやいた時、勢いよく扉が開いた。
「シュウさーん‼ お見舞いに来ましたよー‼」
中に入って来たのはナギ、その後ろにリナサとシュガー、そしてティラがいた。
「皆。今日も来てくれたのか」
「毎日毎日ご苦労なことです。仕事はいいんですか?」
「あなたが言えるセリフ? 仕事はスネック達に任せてあるわ」
ナギの言葉を聞き、タルトは頭を押さえながら呟いた。
「頼むから、責任感を持ってくれよ」
「そうだ。デズガが死んだって知ってるか?」
「はい。先ほどニュースでやってました」
クリムの返事を聞き、ティラは大きなため息を吐いた。
「何だよ、知ってたのか。もうニュースで流れたのか?」
「そうですよ~。ラジオのニュースで聞いたじゃないですか」
「その前に私は知ってたんだけどね。かるーく奴の取り調べをしてたし」
ティラがこう言った直後、バカップルとタルトは驚いた。
「師匠が? ま……まさか……」
「奴にブチ切れて襲って殺したわけじゃないよ。私が席外して、別の奴に変わった時にあいつがおかしくなったんだよ。死因は心臓麻痺。ま、乱れた生活のツケが回ってきたんだろ」
「もう少し正しければ、生きる事が出来たのに」
「でも、あんなひねくれた性格じゃあ……ねぇ」
シュガーとナギの言葉の後、クリムは窓を見ながらこう言った。
「あの人も、パソコンに強いという武器を持って、前を向いて生きていれば、こんなことを起こさなくてもよかったと思います。それと、自分を変えるという気持ちがあれば……」
「……そうだな」
シュウは小さな声で返事をし、クリムと共に窓を覗いた。窓から見える光景は、せっせと動く工事作業員の姿が見えていた。
それから更に一週間後。シュウとタルトは病院の外で見送られていた。
「シュウ君が退院するなんて寂しいよ」
「また怪我したら、いつでも来てね」
「待ってるから。ずーっと、ずーっと‼」
とまぁ、若い看護婦がシュウを取り囲みキャーキャーしていた。その一方で、タルトの方には熟れた看護婦が周りを取り囲んでいた。
「いつでも来なさい」
「あなたの事をずーっと待ってるから」
「怪我しなくても来てもいいわ。相手にしてあげる」
「は……ははは……ありがとね……」
タルトは少し後ずさりながら答えた。シュウもシェラールのギルドが用意した車に乗り込もうとしたのだが、なかなか若い看護婦が返してくれなかった。
「あの、俺もうそろそろ行かないと」
「えー、嫌だー‼」
「ずっとここにいようよ‼ そうすれば、怪我をしても安心だよ‼」
「いっそのこと、ここに住んで‼ 女子寮の部屋なら開いてるから、シュウ君なら大歓迎‼」
「だ‼ め‼ で‼ す‼ 先輩は私の彼氏です。人の彼氏を横取りする人は人として最低ですよ‼ 全くもう‼」
しびれを切らせたクリムが、シュウの手をつないで看護婦の群れから抜け出せた。
「ありがとなクリム。どうやってもあそこから抜け出せなかったからさ」
「先輩は本当にモテモテですが、私と付き合ってることを本当に全世界に知らしめたほうがいい気がします。そうすれば、あんな群れが出来なくて済むのに」
「一応有名だが……なんて言うかその……シュウはやっぱかっこいいからかな?」
タルトは考えながらこう話したが、クリムはそれを聞かずに独り言を呟いていた。
「あはは……聞かなければそれでいいよ」
そう言った後、タルトは後ろを振り返って病院を見た。この騒動中タルトはずっとこの病院にいた。自分がいないから少し不安もあったが、無事に事件を解決できて本当に良かったと心の中で思っていた。