騒動の結末
神罰の代行者はこの時まで思ってもいなかった、クリム達が自信の居場所を把握し、ビルに向かっているなどと。
「逆らったからこうなったんだ。ザマーミロ」
アンチコメントが長時間表示されないことを察し、神罰の代行者は笑い始めた。これを見てか、掲示板にコメントを書いている投稿者は改めて神罰の代行者の力を見て、褒めたり怯えたりしていた。
「さて、アンチの事はほっておいて。次は何を爆破しようかな」
そんなことを呟いていると、下の方から車が止まる音が聞こえた。よそのビルに用があるのかと思いながら、ニュースやネットを見ていた。しかし、足音が段々と聞こえてきた。
「誰だ? ここは誰も入れないようにしてあるのに……」
ここの廃ビルは神罰の代行者が勝手に乗っ取ったビルである。誰もいないから、隠れ家としていいだろうと思いつつ、忍び込んで住んでいるのだ。
足音は神罰の代行者がいる部屋の前まで聞こえ、しばらく音が聞こえなくなった。
「ど……どうしたんだ?」
不安になりつつも、扉の前へ行って誰が来たのか確認しようとした。その時、突如爆発音が聞こえ、扉が吹き飛んだ。その扉に命中した神罰の代行者は、そのまま後ろへ吹き飛んだ。
「うぐぅ……」
「やっと見つけましたよ。神罰の代行者さん」
扉を吹き飛ばしたのはクリムであった。その後ろには、ハヤテとボーノが立っている。
「お前みたいな太っちょが神罰の代行者?」
「人は見た目に何とやらだ。いろいろと話を聞きたい。大人しく俺達の言う事を聞いた方が身のためだぞ」
ボーノはこう言ったが、神罰の代行者は作ってあった爆弾を手にし、クリム達に向かって放り投げた。しかし、爆弾はクリム達の所まで届かず、中間地点に落ちそうになった。
「危ないですねぇ」
クリムは風の魔法を発し、爆弾を別の部屋へ吹き飛ばした。その後、その部屋から爆発音が響いた。衝撃のせいで、部屋にあったがらくたが宙に舞った。
「クッ……」
「さ、抵抗するともっと酷い事になりますよ」
「うるさい‼ 僕に近付くな‼」
神罰の代行者はこう叫んだのだが、クリムはこの叫びに従わず、ゆっくりと歩いていた。
「あなたがどうしてこんな騒動を起こしたか分かりませんが、あなたは自分が犯した罪の重さを把握してますか?」
「そんなの、把握してるわけないだろ‼」
「あなたはただの底辺の無職じゃありません。救いようのない腐った犯罪者ですよ。たくさん人を殺しておいて、人を傷つけておいて……」
「そんなの、爆発に巻き込まれて死んだ奴が悪いじゃないか‼」
この言葉を聞いたクリムは苛立ち、神罰の代行者に向けて闇のビームを何度も放った。ビームは神罰の代行者に命中しなかったが、足元や壁に大きな穴を開けた。それを見て、クリムの恐ろしさを理解した。
「ご……ごめんなさい、許してください。僕が悪かったです。こんな見た目だからいつも人にばかにされてて、見下されて……見返したかったんです。僕がすごい人間という事を知らしめたかったんです」
「見返すのなら、別の方法を考えるべきでしたね。こんな方法で人を見返すのは、大馬鹿野郎の考えることです。それとも何ですか? 本当は自分を馬鹿にした奴が許せなくて、その人をまとめて爆発に巻き込もうと思ったんですか?」
「ぐ……」
言葉に詰まった神罰の代行者を見たクリムは、呆れたようにため息を吐いて言葉を続けた。
「まぁ、そんな事どうでもいいです。あなたがどんな理由でこんなことを起こしても、同情する余地は一切ありませんから」
クリムはそう言うと、光の魔法を使って腰を抜かしている神罰の代行者を拘束した。
「ボーノさん、ハヤテさん、お願いします」
「了解」
「これで終わったな」
ハヤテの言葉を聞き、クリムは目をつぶって答えた。
「ええ……そうですね」
その翌日。神罰の代行者こと、本名デズガは連続爆破事件の容疑者として逮捕された。このニュースはすぐに全世界に報道され、ニュースを見た人達は皆安堵の息を吐いたり、喜びの声を上げていた。
「流石クリムちゃんだな」
病室でテレビを見ていたタルトは、横のベッドにいるシュウにこう言った。
「そうだね。クリムの彼氏として、クリムを誇りに思うよ。けど、これから大変なんだろ?」
「その通りだ。街の復興まであれこれやらなければならない。まぁ、そのあたりの話は俺達には関係なさそうだな」
「んー……だね、ギルドの話じゃなくて建設関係の話だね」
「これから工事で忙しくなりそうだな」
二人が話をしていると、クリム達が病室に入ってきた。
「せんぱーい‼ 全てが終わりましたよー‼」
クリムは満面の笑みでシュウに近付き抱き着いた。シュウはクリムを抱き寄せ、額にキスをした。
「すごいぞクリム。こんな大騒動を解決するなんて」
「いえいえ、ハヤテさんとボーノさんがいたから」
クリムの言葉を聞き、ボーノとハヤテは互いの顔を見合わせてこう言った。
「俺達って……」
「確保した以外で何にもやってないよな」
「ま、それはいいじゃない」
と、リナサが二人の肩を叩いた。一方で、ジャックとミゼリーはクリムの笑みを見て話をしていた。
「クリム、元気になってよかったわね」
「ああ。シュウが爆発に巻き込まれてからマジな顔つきになってたからな。相当神罰の代行者に腹が立ってて、絶対に捕まえてやるって意気込みだったんだな」
「それが終わったから、元のクリムに戻ったのね」
「俺としては、いつもあの調子でいたらいいんだがな……」
ジャックはイチャイチャするバカップルを見て、こう言った。