護衛の依頼
朝、シュウはギルド内にある洗面所で身支度を整えていた。
「や、おはよう」
「おー、おはよ」
横に歯磨きセットを持ったラックが立った。
「話は聞いたよ、ナデモースの依頼に成功したんだって」
「もうその日からニュースになってたもんな。メディアは相変わらず話を聞きつけるのが上手い」
「そうだね。あれ? そう言えばクリムさんは?」
「シュガーと一緒にいる。女子は女子で話がしたいって」
その時、二人の会話声を聞きつけたギルドの女子達が、一斉にシュウとラックに接近した。
「シュウくーん‼私を愛人にしてー‼」
「そんな子より私の方が愛人として向いているよ」
「ラック君、婚約して‼」
「きゃー‼ 二人が一緒にいるなんて、なんて幸運かしらー‼」
女子達にもみくちゃにされながら、シュウは慌ててこう言った。
「待って、待ってくれ‼ 俺達歯とか磨いてるから‼」
「あわわわ、歯磨き粉が落ちた‼」
慌てた二人は離れるように女子達に言ったが、その言葉は女子達に届いていなかった。すると、後ろから魔力を察した。
「先輩は私の彼氏でもあるんです……分かったらいい加減そこをどいてください‼」
シュウ、ついでにラックに群がる女子達を睨みながら、クリムが魔力を開放していた。こりゃ敵わんと思った女子達は、悲鳴を上げながら逃げて行った。
「全く、私と先輩が付き合ってるっていうのに、どうして近付いてくるんですかね?」
「それほどシュウが魅力的っていう証拠さ。多分」
ラックはタオルで顔を拭きながらこう言った。クリムは何かを思い出したかのように、シュウにこう言った。
「そうだ先輩。私達が指名で依頼を受けてくれって言われてます」
「え? 俺達が指名されたのか?……まぁ、ナデモースの事があったからなー」
その後、シュウは身支度を終えた後、カウンターへ向かった。依頼の内容を確認するため、シュウは受付嬢から依頼表を見せてもらった。
「えーっと……コエッリオ家の嬢様、ハーゼ・コエッリオの護衛……コエッリオ家か……」
コエッリオ家。ユニティーズの中でもそれなりに名が通っている有名な金持ちである。シュウはニュースでコエッリオ家の当主であるペターオが急死し、その娘であるハーゼがその跡を継ぐことになったのを知っている。
「うーん……なんかいろいろとありそうだな……」
「向こうから指名されたので、キャンセルはできないようです」
「だな」
「シュウさん、クリムさん、これは向こうからの伝言ですが、後の二人は誰を連れていくのかはあなた達に任せるそうです」
と、受付嬢が話をしてきた。その事を聞き、クリムはラックとシュガーにこの事を話した。二人とも、快くこの話を受けてくれた。
その後、ラックとシュガーを入れた四人は、受付嬢から今後の事を聞いた。
「今から迎えが来るそうです。そこで詳しい事を聞いてください。私達の方は護衛のことしか聞いてないので……」
「分かりました。後は俺達で何とかします」
と、シュウは受付嬢に返事をした。
数分後、シュウ達はギルドの駐車場で待機していた。そんな中、ラックがシュウに話しかけてきた。
「今回の仕事、護衛だけじゃすまないかもね」
「ああ。きっと、お嬢様を狙う奴を倒してくれと言うだろうな」
「僕も同じ意見だ」
シュウとラックの話を聞いていたシュガーは、のほほんとしながらクリムにこう言った。
「大変な仕事になりそうだね~」
「なんだか余裕に見えますが……」
「これでも緊張感は持ってるんだよ~……ん? あ、迎えの車が来たかも」
シュガーは灰色の車を見つけ、こう言った。見たことがない車で、かなり高級そうな車だ。
「先輩、私達また値が高い車に乗りますね」
「ああ。そうだな。こんなすぐに乗るとは思わなかった」
バカップルが会話する中、車がシュウ達の近くで停車した。その後、車から一人の男性が車から降りた。助手席に少女が座っていたが、その子は車から降りなかった。
「初めまして、私はコエッリオ家執事、ゲアル・ロスキロと言います。詳しい話は車の中でします。とりあえず車の中へどうぞ」
シュウ達は車の中に入った後、車は発進した。ゲアルは運転しながらシュウ達に依頼の説明をしていた。
「皆様に頼みたいのは我がコエッリオ家の当主のハーゼ・コエッリオ様の護衛……そして、その命を狙う輩の討伐です」
この話を聞き、シュウ達はやはりと思った。
「で、ハーゼ様の命を狙う輩の情報は?」
「裏ギルドのカラスの爪である事しか分かりません。下っ端程度なら私一人でも相手にできますが……カラスの爪はそれなりに規模のある裏ギルド。もし、幹部クラスの奴が襲ってきたら対処できません」
「で、私達を呼んだんですね」
「はい」
クリムの言葉に対し、ゲアルは素直に返事をした。
会話が終わった後、シュウ達はこれからの事を話していた。
「裏ギルドが関わってくるんだ。何だか大変な依頼になりそうだねー」
「有名な一族が絡んでるから、大変な依頼になるとは予測してたんだけど……」
緊張感のあるラック、それとは別に緊張感のひとかけらも存在しないシュガー。そして、バカップルはいちゃつきながら話をしていた。
「先輩、どうせならカラスの爪に依頼をした奴も捕まえます?」
「そうだな。ついでに捕まえるか」
「私と先輩なら、楽にできます」
いちゃついているバカップルを見て、シュガーは笑いながらこう言った。
「あははは、二人とも相変わらずだねー」
そんな会話を聞きながら、ゲアルは助手席にいる少女にこう聞いた。
「大丈夫……ですかね?」
「知らん」
と、少女は呆れた表情でこう答えた。