恐怖‼ 悪魔と化したおb……ティラ
「出て来いやぁ‼ おばさんと言ったことをあの世で後悔させてやらぁ‼」
ティラの怒号が周囲に響いている。それと同時に、弾丸があちらこちらに打ち込まれる音も。ティラは怒りに任せて銃弾を乱射しているとナフは察した。
全く、あんなおっかないおばさんがこの世にいるとは思わなかったぜ。
ナフは心の中で呟きつつ、この場から離れようとしていた。だが、このまま逃げてもらちが明かないと思い、どのタイミングでティラを打ち抜こうか考えた。
「いい加減出て来い‼ 出ないなら私が無理やりにでも引きずり出すぞコノヤロー‼」
またティラの怒号が響いた。この声を聞き、ティラが近いという事を知ったナフは、魔力でナイフを作った。近くに来たらすぐに刺すつもりで作ったのだ。
いざとなればこれで刺してやる。
そう思い、ナイフを構えて移動を始めた。基本はティラから離れることが優先だが、いざという時にティラをナイフで刺す。こんな作戦を練り、行動を始めた。
音を殺しながらティラから離れ、ナフは一旦ナイフの魔力を消した。魔力の粒がナフの体に入り、ナフは魔力が自分の体に入って行くのを感じた。無駄な魔力の消費を減らすため、ナイフを戻したのだ。
「ふぅ……」
呼吸をした後、ナフは周囲を見回した。響き渡っていたティラの怒号は、もう聞こえていない。うまく身を隠しながら離れただろう。そう思ったナフは、これからの事を考え始めた。その時、ナフの首輪から神罰の代行者の連絡が入った。
『どうだい? 君達の様子は?』
「馬鹿野郎、今話しかけるな。おっかない奴に追われてるんだよ」
焦ったナフは、小さな声で返事をした。それに対し、神罰の代行者は小さな声を出して笑った。
『すまないすまない。グルザークの様子がおかしいから連絡をしたのだが、近くにいないのか?』
「グルザークの?」
話を聞き、ナフはグルザークの魔力を調べ始めた。だが、グルザークの魔力は一切感じなかった。この時点で、グルザークはスネックに倒されていたのだ。
「感じない」
『やられたようだな。とにかく、負けるなよ』
と言って、神罰の代行者からの連絡は終わった。
「くだらない事でいちいち連絡するなっつーの」
「みぃ~つけた」
背後から聞き覚えのある声が聞こえた。声を聞いたナフは顔面が青ざめ、恐る恐る後ろを振り向こうとした。だが、その前にライフルの銃口がナフの頬に触れた。
「う……うっそ~ん……」
後ろにいたのはティラだった。すでにティラの指は引き金の近くにあり、今すぐにでも引き金を引ける状態だった。
「魔力をすこーし感じたから居場所が分かったんだよ~」
「あんた……ただのおばさんじゃ」
ナフがおばさんと言った直後、ライフルの発砲音が響いた。そのせいで、ナフは耳鳴りが発生した。
「グッ……」
耳を抑えながら逃げようとしたが、ティラはナフの足元に銃弾を撃ち込んだ。それに驚き、ナフは転んでしまった。しかし、反撃をしようと試み、ナイフを作ってティラに投げた。だが、ティラはナイフを打ち込んで破壊してしまった。
「何だと!? あの速さの投げナイフを打ち壊したのか!?」
「あの程度の攻撃、簡単に見切れるよ」
ティラと会話をしながら、その隙にナフは後ろに回した手でナイフを作っていた。今度は一本だけではなく、無数に。
「じゃあ……これはどうかな!?」
一か八かと思い、ナフは無数のナイフをティラに向けて放った。今、ティラが持つ武器はライフルのみ。発射できる弾丸は一発だけ。これなら少しでもティラにダメージを与えられると思ったのだ。しかし、ティラはナイフをかわさず、ナフに向けてライフルを放った。
「グガッ!?」
ライフル弾はナフの右腕を貫いた。ナフは自分が投げたナイフがティラに刺さったか確認しようとしたが、ティラにナイフは刺さっていなかった。
「何で……刺さってない?」
「見切れるって言っただろ。飛んでくるナイフの軌道を予測して、全部私からそれるって察したんだよ」
ティラはそう言うと、ナフの足に向けて再びライフル弾を放った。ナフは悲鳴を上げながらその場に倒れのたうち回った。
「さぁ~て、これだけじゃ終わらないよ~」
倒れたナフに近付き、ティラは鬼のような形相で指を鳴らした。
「私をおばさんと言ったこと……後悔しても遅いよ?」
「ヒッ……ヒッ……」
その直後、ナフの悲鳴が轟いた。
クリムはロボラの攻撃を防御しながら、反撃の為に魔力を発していた。一度戦って勝利した相手だが、ロボラの動きはアバジョンで戦った時より速さが増していた。
「強くなりましたね、刑務所暮らしで体がなまったと思いましたが」
「そんなわけないだろ。俺はお前らバカップルに復讐するために看守の目を盗んで鍛えてたんだ‼」
ロボラはそう言うと、魔力を解放した。その時の勢いが強かったためか、周囲に風が発生した。
「……復讐のために強くなったんですか……愚かですね」
クリムは冷めた目でロボラを見つめていた。その時、後ろにいたシュウはクリムにこう言った。
「背後から撃つか?」
「いえ。こいつは私が倒します。腐った心を、私が叩き直します」
クリムは答えながら、杖を構えた。