放たれた憎しみ人
シェラールの刑務所。ここには罪を犯して捕まった犯罪者がたくさんいる。その中に、バカップルと戦って倒された奴も入れられていた。
「チッ……いつになったらこんな臭いとこから出られるのやら……」
ハチェーズTVを占拠し、数件の殺人を犯した罪で捕らえられた裏ギルド、野生の咆哮のボスであるグルザークがこう呟いた。その時、後ろから人が倒れる音と鞭の音が聞こえた。
「こんな所で倒れるな、さっさと立って歩け‼」
「すみませんねぇ……足腰痛めたもんで……」
「そんな事知らん‼ さっさと立て馬鹿野郎‼」
そう怒鳴られているのは裏ギルドのライフブレイカーのボス、ナフであった。グルザークはナフに近付き、手を貸した。
「ありがとね……こんな奴を助けても得はないよ」
「やることは違うとはいえ、俺らは裏ギルドの人間だからな」
「そんな理由で人助けかい。ふふ、面白いね」
「笑ってる場合かよ、さっさと立たないとまた怒鳴られるぞ」
何とか手を貸してナフを立ち上がらせ、グルザークは周囲を見回した。
「奴らがいなくてよかった。この首輪が無ければ魔法で奴らをぶっ殺してやったんがな」
収容されている罪人の首や手足には、魔力を制御する首輪のような物がつながれている。体から魔力を探知すれば、一瞬にして電撃が体を流れ、更に警報が流れてすぐに役員が抑えに来るようなシステムになっているのだ。
「知ってるかい? この首輪、数台のパソコンで制御されてるみたいだよ」
「パソコンねぇ。俺はその話はさっぱりだ。ぶっ壊しちまうよ」
「私もだよ」
そんな話をしていると、別の方からブラッドデスのボス、ロボラが近付いてきた。
「そろそろ役員が来るぞ。話は止めておけ」
「ああ。分かった」
ロボラは二人にこう言った後、小声で小さく呟いた。
「あの賢者……脱出したらぜってーぶっ殺してやる……」
ビルに潜んでいる神罰の代行者は、唸り声を上げながら何かを考えていた。今、彼はただ爆発騒ぎを起こすだけではつまらないと思っているのだ。
「自分の行為にマンネリを感じている。ネットの声もそうだ。もっと過激な物を望んでいる」
小さく呟き、どうしようか深く考え始めた。生放送中のテレビで爆発は何度も起こした。あまり好感度が高くない芸能人や司会者がぶっ飛ぶのを見て、ネット上では歓喜喝采の声が上がっていた。だが、何度も同じことをやっているとネットでは飽きられてくる。
「もっと派手で、もっととんでもない事を起こしたいな……」
その時、彼の目にテレビの映像が入った。その映像は中継でニュースを流していて、レポーターがとある事件の現場であれこれ言っていた。
「立てこもりか。アホなことをするなぁ……どうせ捕まって刑務所送りなのに」
この言葉を発した直後、彼はある考えを思いついた。うまくういけば、この考えは爆発よりももっと大きな騒ぎになると睨んだ。
シェラール中心街。爆発は収まったが、爆発によって負傷者や死傷者が多数出ていた。シュウとスネックは駆け付けたギルドやレスキュー隊員と共に救助活動を、クリムとリナサは病院関係者と共に治療を行っていた。
「まだ助かります。しっかりしてください」
「あ……ああ……」
クリムは声掛けをしながら、怪我人の手当てをしていた。
「助かりましたよ。安心してください」
「心配すんじゃねーぞ」
シュウとスネックは、ビルの中から怪我人を担ぎながら外に出た。二人は怪我人を担架に乗せて運ばれるのを見て、息を吐きながらビルを見た。ビルにはまだ人がいるらしく、レスキュー隊員が何度も出入りをしていた。
「さて、俺達も戻ろう」
「はい」
二人はすぐにビルの中に入り、怪我人の救助を再開した。ビルの奥へ向かい、そこにいる人を見つけて二人は急いで駆け付けた。
「大丈夫か? 今助けてやるから安心しろ」
「す……すまない……」
そこにいたのはこのビルで働いていた人だった。二人はその人を担いで外に戻ると、慌てた様子のクリムとリナサが駆け付けた。
「どうかしたか?」
「とんでもない事があったの……」
リナサは携帯を手にし、震えながらこう言った。
「シェラールの刑務所が爆発。そのせいで牢屋全体のセキュリティが解除。中にいた犯罪者が全員逃走……」
この言葉を聞いた二人は、大きな声を出して驚いた。その直後、近くで爆発が発生した。
「またバカ騒ぎか!?」
スネックは武器の銃剣を持ち、爆発があった場所へ向かった。バカップルはともに行こうとしたが、リナサがバカップルを止めた。
「ここはスネックに任せよう。私達は救助活動をしようよ」
「ですね。もし、刑務所から逃げた連中がここに来た時、誰か戦える人がいないとまずいですね」
「そうだな。銃の手入れをして来ればよかった」
シュウは腰の銃を見てこう呟いた。
ライフブレイカーのアジト。ここに刑務所にいたが脱走した野生の咆哮、ライフブレイカー、ブラッドデスの団員達が集まっていた。
「いやー、まさか爆発で扉が開くとは思わなかったなー」
「奇跡が起こったんだよ」
「ほんと、そうだな」
団員達は笑いながら話しているが、ナフはアジトにあるパソコンを見て苦い顔になった。
「誰だ……このメールの送り主は?」