賢者の戦い、そして依頼の終わり
イーツは恐れていた。先ほどクリムが水のバリアを張っている時、魔力を探っていたのだ。探った結果、クリムの魔力は自分より圧倒的に勝っていたのだ。
「おいおい……嬢ちゃん一体何者だよ?」
「私ですか? 賢者です」
クリムの答えを聞いたイーツは、嘘だろと小さく呟いた。イーツもあの話は聞いていた。最年少の賢者が現れた事を。その最年少の賢者が、自分の敵として現れた。
「ったく……ついてねーな俺……」
「降参しますか?」
クリムが杖から魔力を発し、こう聞いた。イーツは少し笑った後、魔力を発して答えた。
「降参する気は一切ないね‼ こうなったら、全力で嬢ちゃんを倒してやる‼」
イーツの叫びの後、無数の火の玉がクリムに襲い掛かった。クリムは水を発し、飛んでくる火の玉を消していた。
「悪いねぇ、俺は火以外にもこいつも使えるんだよ‼」
イーツは右手を前に出し、雷を発した。その雷は矢のような形となった。
「奴を貫け……我が雷の矢よ‼」
雷の矢はクリムに向かって飛んで行った。物凄いスピードだったのだが、クリムの目の前で急に散り散りになった。
「な……」
「見えないバリアを張っていたんです。あなたが発した雷の矢なら防ぐ事が出来ます」
「なら……これはどうだ‼」
そう言いながら、イーツは先程よりも大きな雷の矢を発したのだが、クリムの周りには大きくて鋭い雷の矢が無数に現れていた。
「そんな……」
「魔力を矢の形にして撃つのは誰だってできます。私くらいのレベルになると、手を使わずに自動で撃つ事が出来ます」
クリムは右手を前に突き出した。それに合わせ、周りの雷の矢がイーツに向かって襲い掛かった。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
イーツは攻撃をかわす事が出来ず、無数の雷の矢に打ち抜かれた。数分後、クリムは攻撃の手を止めた。
「まだ立っているんですか」
「金を貰って仕事を受けてるんでね……ここでくたばったら申し訳ないんだよね」
「それは私達も同じことです。ここで負けたら、申し訳ないです」
クリムはそう言うと、巨大な火の玉を発した。それを見たイーツは、目を開いて驚き、こう聞いた。
「火の魔法も使えるのか……」
「私は賢者です。全属性の魔法を難なく扱う事が出来ます」
「……最後に一つ答えてくれ。俺との戦いは本気でやったのか?」
こう聞かれたクリムは、少し考えてからこう答えた。
「少し手を抜いてました」
「おいおい……それでこの強さかよ……」
イーツはそう呟き、その場に倒れた。
車周辺で待機しているジャックとミゼリーは、周囲の魔力が消えたことを察していた。
「案外早く片付いたな」
「私達の出番はなかったってことね」
「だな」
その時、ジャックの無線に連絡が入った。シュウから倒した敵の引き取りの手伝いをしてほしいとメッセージが入っていた。
「さて、俺は二人が倒した敵を確保してくる。敵はいないと思うけど、見張り頼むぜ」
「ええ、分かったわ」
数分後、バカップルがジャックと共に戻ってきた。その後、捕らえた敵を引き渡すために周辺のギルドを呼んで待っていた。連絡してすぐ、周辺のギルドが気を失ったイーツ達を連れて行った。
「さて、行きましょうか」
周辺のギルドが乗ったパトカーが去った後、クリムがこう言った。
特許庁前、無事に到着したダスヤは大急ぎで中に入り、特許申請を始めた。車の外で待っているシュウ達は、ダスヤが戻って来るのを待っていた。
数分後、シュウ達の目の前にキョーヒ製薬会社のロゴが入った車が近付いてきた。
「あ、あいつら」
「何しに来たんですかね? もう遅いのに」
「さぁ?」
その時、安堵をした表情のダスヤが特許庁から出てきた。その顔を見て、シュウ達は無事に特許が申請したと察した。
「貴様ら‼」
キョーヒ製薬会社の車から、バーメンが現れ、ダスヤに近付いた。
「貴様らが行ったことは、科学に対しての冒涜だ‼ 科学がなければ、薬は出来なかった‼ 魔法なんてものを使った薬など、薬ではない‼」
バーメンの叫びを聞いたダスヤは、鋭い目つきでこう言い返した。
「確かに科学がなければ薬は作れません。しかし、今の時代は科学だけではなく、魔法がなければ新しい薬を作る事が出来ません」
「魔法などなくても薬は作れる‼」
「しかし‼ 科学だけでは今後発生する新たな病気には対抗できません‼ それには、科学だけではなく魔法の力も必要なのです。科学だけで出来ないことを魔法で補う、魔法ではできないことを科学で補う。今の時代はどちらも必要なのです」
「……貴様らは医学者としてのプライドは無いのか?」
「新しい薬で患者が治るなら、私はプライドを捨てます」
その後、クリムが車から出てきて、バーメンに近付いてこう言った。
「今回の騒動についてのお話、聞かせてもらいますね?」
クリムにこう言われたバーメンは観念したかのように、その場に項垂れた。
翌日、シュウ達はダスヤの所にいた。依頼が終わったため、挨拶しに来ていたのだ。
「皆様のおかげで無事に特許が取れました。それに、我々を狙っていた輩も捕まえる事が出来ました。これもすべて、皆様のおかげです」
「いやいや、これも仕事のうちなんで」
ジャックはこう言いながら、照れていた。その後、軽い挨拶をしたシュウ達は帰りの車に乗り込んだ。
「帰りもリムジンなのね」
ミゼリーが呟きながら、車に乗り込んだ。そんな中、ジャックは笑いながらシュウの肩を叩いていた。
「さて、戻ったらお前のファンがうるさそうだな」
「ですね……」
「本当に何を考えてるんですかね、あの人達は。先輩は私と付き合ってるっていうのに。今度、あの人達の目の前で先輩とキスしてやろうかな」
「騒ぎになるから止めておけ」
シュウとクリム、ジャックは会話をしながら車に乗り込んだ。