神罰の代行者
生放送中に起きた爆発騒ぎの連絡を受け、バカップルとリナサは現場へ急いでいた。
「全くもう、セッツーナマンションの爆発騒ぎがまだ終わったわけじゃないのに」
「一体誰がこんなバカげたことを企てたんだか……」
バカップルはぼやきながら走っていた。しばらくすると、リナサが何かに気付いて足を止めた。
「止まって。マスコミがいる」
「やっぱりいるよな。邪魔にならなければいいが……俺が行ってくる」
シュウはマスコミの方に近付き、咳ばらいをしてこう言った。
「俺達はギルドの者です。今から調査するのでどいてもらえませんか?」
「ギルドの方ですか!?」
「この爆発は昨日発生したセッツーナマンションの爆発と関係があるんですか!?」
「まだここに来たばかりだから分かりませんよ。とにかくどいてください」
マスコミはシュウにさらに質問攻めをしようとしていたのだが、シュウの目つきを見て驚き、引いて行った。その後、マスコミが下がった事を察したクリムとリナサがシュウに近付いた。
「では行きましょう」
「また爆発するかもしれないから、バリアを張って行こう」
「任せてください」
そんな会話をしながら、三人は爆発元のテレビ局へ向かって行った。
一方、シェラールのギルドに戻ったナギとキャニーは、まだ動くパソコンを詳しい人物に渡していた。
「こりゃー頑丈なパソコンだな。元々このメーカーのパソコンは災害時でも無事なようにとても頑丈に作られたと聞いたが、本当に頑丈だな」
「頑丈かどうかの説明はいいから、早く調べてよ」
「分かったよ。急かすなよナギ」
ナギに言われ、パソコンに詳しい人物は手慣れた手つきでキーボードやマウスを動かし、画面を見ていた。キャニーはそれをずっと見ていて、頭が痛くなっていた。
「わけわかんない項目がいっぱい……滅茶苦茶な文字がいっぱい……ちょっと休んでくる」
「何か分かった教えるわね」
「おねが~い」
キャニーは頭を抱えながら、廊下に出て行った。それから数分後、パソコンに詳しい人物はため息を吐いてこう言った。
「こりゃー私以上にパソコンに詳しい奴が犯人だな」
「どんな奴か分かった?」
「全然。ハッキングした際に身元がばれないように何重にもロックされている。下手にロックを解除すればデータが飛ぶ」
「つまり……どういうこと?」
「ハッキングされたことを示すデータが消えるってことだ。かなり高度なプログラムが必要だぞこれ……」
返事を聞き、ナギは残念そうに息を吐いた。その時、キャニーが携帯を持って慌ててナギに駆け寄った。
「大変大変‼ これ見て‼」
「何が大変なのよ?」
「神罰の代行者って奴がこれまでの騒ぎは自分の仕業って動画サイトで言ってるのよ‼」
「神罰の代行者ぁ? ふざけた名前」
「とにかくこれ見て」
キャニーがナギに携帯を見せ、神罰の代行者の動画を再生した。画面には白い背景に黒で描かれた円型のマークと、その間に下に向いた槍のような物があった。人の姿は一切なかった。
「変なマーク。誰も写ってないじゃない」
「音声だけだよ。だけど、加工してあるか機械音の可能性がある。そろそろ喋るよ」
キャニーはナギに黙るように伝えた直後、マイクの電源が入ったような音が聞こえ、その直後に声が響いた。
『我は神罰の代行者なり。この腐った世の中に鉄槌を下すため、我は紙に代わって神罰を遂行する。セッツーナマンションに住み着いているゴキブリの始末、でたらめな情報とつまらない番組を流すテレビ局、腐った奴しか来ないコンビニ。全てこの我が神罰を与えた』
「何が神罰よ。ただの爆発騒ぎじゃない」
話を聞いたナギは、少々怒りながらこう呟いた。
『これ以上我の神罰を与えたくなければ、我の言う事を聞け』
その後、神罰の代行者は間をおいて画面を変えた。
その1:全世界の警察、ギルドを解体せよ。役に立たない組織など、ゴミである。
その2:でたらめな情報を流すテレビ局は一切ニュースを流すな。時間と金の無駄だ。
その3:有名人は全ての罪を悔い改めよ。貴様らの行いは全て把握している。
その4:我を崇めよ。我を称えよ。
『以上だ。我の言う事を聞かなければ、更に神罰を下す』
と言った後、動画が終わった。見終えたナギは、ため息を吐いて呟いた。
「こんな奴の言う事なんて誰も聞くわけないじゃない」
「でも、これまでの爆破は自分の仕業って言ってるけど」
「この騒ぎに乗じて誰かがいたずらで作った動画なんじゃないの?」
「そうなの? この動画、ネットニュースで話題になってるけど」
「メディアがバカなだけよ。こんなくだらない動画に本気になってる奴がどうかしてるわ。それよりも。爆発騒ぎがあったテレビ局に向かったシュウさん達から連絡ないの?」
「うん」
キャニーと会話を終え、ナギはキャニーと一緒に部屋を出て行った。今の現状、自分達は苦しい立場に置かれている。リーダーであるタルトは負傷。代わりとなるスネックはまだ戻ってきていない。この状況だけでも苦しいのに、さらにこの騒ぎのどさくさに紛れて裏ギルドが暗躍したら、太刀打ちできない。
そう考えていると、ナギの携帯に連絡が入った。
「シュウさんかな!?」
少しうきうきしながら形態をとったが、連絡の相手がスネックだと知ってがっかりした。
「何スネック?」
『なんかテンション低いな。どうした?』
「別に」
『そんな事より、俺の相棒が戻ってきたから、今すぐにでも仕事に出れるぜ』
この返事を聞いて、ナギの表情が明るくなった。スネックがやーっと現場に復帰するからだ。