夜中の大爆発
その日の昼。タルトは書類整理をしながら欠伸をしていた。これまでの依頼の事が書かれた書類を細かく分けるという精密な作業のため、かなり気を使っていたのだ。
「お疲れさん、タルトさん」
ボーノがコーヒーを持って、タルトの元へやってきた。
「すまない。丁度何か口にしたかったんだよ」
「書類整理も大変だな。現場で戦う俺にとって、その仕事はきつそうだ」
「確かにな。こんな仕事、神経質な奴じゃないと出来ないよ」
「だな」
ボーノはこう言って笑った後、コーヒーを飲んでこう話を切り出した。
「知ってますか? とある掲示板のサイトに変な書き込みがあったらしいんですよ」
「変な書き込み?」
「これです」
タルトはボーノから受け取った紙を目に通し、大きなため息を吐いた。
「神罰の代行者と言う奴が、セッツーナマンションを爆破するという予告か……」
「この文章、ギルドの中で大きな話題になってますよ」
「イタズラかもしれないが……もし本当だったら大変だな。よし。この仕事が終わった後、私がセッツーナマンションへ行くよ」
「いいんですか? もしイタズラだったら」
「夜中のコンビニ爆破があっただろ。私は、あれが単に偶然で起きたとは思えないんだ」
「皆そう思ってます。ま、確かに念を入れて確認をした方がいいですね」
「じゃ、さっさとこの仕事を終わらせるよ」
タルトはコーヒーを飲み干し、仕事に取り組んだ。
その日の夜。タルトはシュウとクリムを連れてセッツーナマンションへ来ていた。セッツーナマンションはシェラールの高級マンションの中でも、かなり有名な部類に入るマンションである。住んでいる人はかなりの金持ちか、超有名人である。
「見てください先輩。あれ、映画俳優のゾリッド・ファーマソですよ」
「あのアクション俳優の? すげー人が住んでるんだな。こっちは有名な賞をいくつも取ったサリップ・キャンカだ」
「生で見るとかなり綺麗ですねー」
見たことのある映画俳優や有名人を生で見て、バカップルは感動していた。タルトはマンションの係員にネットの書き込みの事を伝え、バカップルと共に手分けして調べることにした。しかし、マンション中を探しても爆弾のような物は見つからなかった。入口に戻り、タルトとバカップルは一旦合流することにした。
「見つかりませんでしたね」
「ただのイタズラだったな」
「あの事件があった後だし、誰かが悪ふざけで書いたんだろう」
悪意のあるイタズラに振り回されたシュウ達は、呆れてため息を吐いていた。
同時刻、あのビルに住んでいる男は、パソコンである物を見ていた。
「さて……そろそろ花火が始まる時間だ」
男がパソコンで見ているのは、セッツーナマンションの全体図。そしてガスや水、電気などを制御するためのシステムツールである。男はセッツーナマンション内にある制御用のパソコンへハッキングし、全体図や住人の有無、更には監視用の隠しカメラの映像などを全て自分のパソコンに表示できるようにしているのだ。
「ここをこうしてこうすれば……ボン‼」
男はシステムツールを操り、ガスや水、電気の威力を勝手に調整してしまった。それらを調整した後、男はにやけながら天井を見上げた。
「帰りましょう。明日にはハリアの村に戻るバスが来ますし」
「朝早いからなー」
「二人の送別会が出来なくなったから、ナギが不機嫌だしな」
そんな会話をしながら、シュウ達は歩いて帰ろうとしていた。だがその瞬間、セッツーナマンションの一角が大爆発を起こした。
「なっ!?」
「爆発!?」
シュウ達は慌ててマンションへ引き返し、住人の避難や消火を開始した。
「火元は分かったか!?」
「ガスの調節部分からだ。各階にいくつかあるから、それが一気に爆発したからこんな騒動になったかもしれない」
シュウとタルトの会話を聞き、手伝いをしている役員は驚いてこう言った。
「そんな‼ システムは正常に稼働してたはず‼ 誰かがいじらない限りこんなことは決して起らないはずです‼」
「そうか……クリムちゃん、シュウと一緒に消火や救助活動を頼む。私はシステムを管理する部屋へ行って様子を見てくる」
「分かりました。気を付けてください、お義父様」
「無事に戻って来てよ、父さん」
「分かってるよ。心配するな」
「システム管理室はこちらです‼」
その後、タルトは役員と共にシステム管理室へ向かった。部屋内に入ると、そこには動揺している管理室の役員が立っていた。
「どうした? 誰がシステムを操った!?」
「わ……分かりません。突如ガスや水、電気を制御する数値が上がりだし……以上が発生しました」
「突如上がった? 誰かに操られたのか?」
「分かりません。ともかく、私は数値を元に戻そうと必死にキーを押しましたが、それでも……」
タルトはそのパソコンに近付き、モニターを見た。たが、モニターには異常発生という文字が出ているだけで、キーを叩いてもマウスでクリックしても反応はなかった。
「詳しくは分からないが、ハッキングされた可能性はあるか?」
「いえ。このシステムを制御するパソコンには厳重なセキュリティソフトが使われています。そう簡単に破れはしないと思いますが……」
役員がパソコンを調べると、ある物を見つけて驚きの声を発した。
「どうした?」
「や……やはり外部から違法なアクセスがありました。ただ……」
「ただ? どうした?」
「マンションを守るロボットの制御システムにも侵入しています‼ しかも……見たもの全員殺すように操作されています‼」
「何だって!?」
その直後、パソコンから音が鳴り響き、大爆発が発生した。