アバジョンの遺跡
クリムは火の魔法を使い、松明に火をともした。
「では行こう」
フジヒロは松明を持って、遺跡の奥へと向かって行った。だが、フジヒロに同行するのはカメラマンとハヤテとナギだけだった。
「では先輩、私達はここで残ったスタッフを守りましょう」
「ブラッドデスの連中がここに来るかもしれないし、気を抜かず守ろう」
バカップルは入口に残り、共に残ったスタッフを来るかもしれないブラッドデスの連中から守ることにした。だが、バカップルは互いに近付いたまま、イチャイチャしていた。スタッフはバカップルのチート並みの力を把握している。が、こんな状態で戦えるのかと内心不安だった。
遺跡の探検を始めたフジヒロ達は、慎重に歩いていた。
「不気味なほど静かだな……」
「ですね。火があったとしてもこの暗さじゃ何も分かりませんね」
「お化け出そう」
恐怖で震えているカメラマンとは別に、ハヤテ、ナギ、フジヒロは普通に会話をしていた。カメラマンは何が出るか分からない恐怖で震えているのに、この三人は特に何も恐れていないことを驚いていた。
そんな中、フジヒロが立ち止まった。
「音がする」
「モンスターがいるわね」
ナギは剣を構えてこう言った。しばらくすると、天井から大きな蜘蛛が何匹も降ってきた。
「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼」
「静かにしろ。狙われるぞ」
悲鳴を上げたカメラマンに対し、ハヤテはこう言った。ナギは襲ってくる蜘蛛を反撃したのだが、何かに気付いて後ろに下がった。
「厄介ね、こいつら毒を持ってるわ」
「そうか。直に殴ったら死ぬかもしれないな」
「こう言う場合は魔法で攻撃だ‼」
ハヤテが前に出て、炎の魔法を使って毒蜘蛛を焼き尽くした。この攻撃で、毒蜘蛛の群れはあっという間に丸焦げになった。
「厄介なモンスターがいるなこれは」
「下手したらこの人達と同じ運命をたどるかもね……」
ナギは手にしている明かりを下に向け、そこに頭蓋骨がある事を教えた。カメラマンはそれを見て、腰を抜かしてしまった。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないです。早く家に帰りたい……」
「安心しろ、必ず家に帰してやる。ちょっと待ってろ、今背負ってやるから」
フジヒロはカメラマンを背負い、移動を始めた。ハヤテとナギは前を歩き、何かあった時にすぐに動けるように準備をしていた。
その頃、クリムはスタッフの護衛をシュウに任して遺跡の周りを見ていた。何かあると考え、周りを調べることにしたのだ。
「特に変わったところはない。あるとしたら、モンスターの気配だけ」
何もない事を察したクリムは、シュウの元へ戻って行った。
「せんぱーい。以上はありませんでしたー」
「こっちもなかった。裏ギルドも襲ってこないかったよ」
「安心しましたー」
その後、バカップルは安心していちゃつき始めた。スタッフもこの馬鹿がいちゃついている間は、何もないという事を把握し、気を落ち着かせるために休み始めた。
数分後、突如イチャイチャしているバカップルは何かの気配を感じ、すぐに戦いの準備を始めた。シュウは銃を持って前に立ち、クリムはスタッフの方に移動してバリアを展開した。
「ブラッドデスの連中が来るんですか!?」
怯えたスタッフがクリムにこう聞くと、クリムは首を横に振って答えた。
「モンスターです。ただ、気配が大きいので凶暴な奴が来るかと思います」
「そんな……」
「大丈夫です。先輩の敵ではありません」
と、クリムは笑顔で答えた。しばらくし、草むらから狼のような大型モンスターが現れた。
「あれはクレイジーウルフ‼ 獲物をしとめるまではしぶとく襲ってくる奴です‼」
「こんな奴もいたのか‼」
スタッフは皆驚いて後退りしたが、シュウは拳銃を持ってクレイジーウルフの喉元に向けて発砲した。弾丸はクレイジーウルフの喉元に命中し、そのまま貫いた。穴が開いた喉元から大量にどす黒い血が流れだしたが、それでもクレイジーウルフは立ち上がり、シュウに襲い掛かった。
「大した根性だよ」
シュウはこう呟くと、クレイジーウルフの爪と牙に向けて発砲し、破壊した。攻撃手段を絶たせた後で、シュウはとどめの一発を放った。
「流石です先輩」
「もうちょっと待っててくれクリム。群れが来た」
シュウの言葉を聞き、スタッフは小さな悲鳴を上げた。周りからクレイジーウルフの群れがシュウ達を囲っていたからだ。
「ざっと見で20匹はいる……」
「こんな数がいるのに、倒せるのか!?」
「楽ですよ」
シュウは拳銃から片手で持てるアサルトライフルに持ち替え、攻撃を再開した。その戦う姿を見て、スタッフは驚いていたが、その横でクリムはうっとりしていた。
同時刻、ロボラとブラッドデスの団員はいても経ってもしかたないので、帰って来ない仲間を探しにジャングルに入った。
「ったく、どこまで行ったんだ奴らは?」
「近くで魔力を感じます。そう遠くない場所にいると思いますよ」
「だといいんだが」
そんな会話をしていると、近くでうめき声が聞こえた。ロボラは慌ててそこへ向かうと、そこには木に縛られた団員がいた。
「待ってろ、すぐに降ろしてやる」
ロボラはため息を吐きつつ、縛られた団員を助けた。