アバジョンの奥にあった物
シュウ達がアバジョンの奥へ進む中、キャニーとフィアットから逃げてきたブラッドデスの団員と、そのボスであるロボラは運よく見つけた廃墟の中で隠れていた。
「いつまでこんな所で隠れていればいいんでしょうかね?」
ロボラの部下は近くにいた鳥型モンスターを焼いた肉を食べながらこう聞いた。ロボラは煙草の煙を吐き、答えた。
「最低でも一ヶ月はここにいるという事を覚悟しておけ。時が経てば奴らは俺らの事件の事を忘れるだろう。その隙を見計らってこんな所からおさらばだ」
「一ヶ月か……」
長い時が必要だと知り、部下は少しため息を吐いていた。そんな中、別の団員がおどおどとしながらロボラに近付いた。
「どうした?」
「見張りに行った三人が戻ってきません」
「何だと?」
話を聞いたロボラはすぐに立ち上がり、目をつぶって魔力を探知し始めた。
「チッ、俺達以外の魔力を感じる。ギルドの戦士か通りすがりの馬鹿か分からねーが、かなり強い」
「どうします?」
「どうするも何も、魔力を察知されないように動けばいいだけだ。それだけだ」
と言うと、ロボラは再び座って煙草を吸おうとした。だが、手にする煙草ケースには一本も煙草がなかった。
「チッ、もう煙草がねーのか」
シュウ達がブラッドデスの団員から襲われて三日ほど経過した。あれから団員に襲われることはなかったが、アバジョンに生息するモンスターに襲われたり、危険な植物の罠に引っかかりそうになった。だが、そうなる度にシュウが銃で攻撃したり、クリムが魔法で焼き払ったりしていた。ハヤテはバカップルの援護、ナギは傷ついたスタッフの治療とクリムとフジヒロと共に調理できるモンスターの素材を使って料理を作ったりしていた。
「しっかし、ゴールはどこにあるんだか」
シュウは望遠鏡を見ながら呟いた。ずっと歩いているが、景色は全く変わらないのだ。
「どこまで歩いてもジャングルですね。迷ったとは思えませんが」
クリムはシュウの横でこう言った。クリムはここまで歩いたジャングルの景色が全て頭の中で記憶している。もし、迷ったとしてもクリムの記憶を頼りにできる。
「ずっとジャングルが続きそうだな。それはそれで一つの答えとなる」
フジヒロは奥を見ながら呟いた。そう。今回の旅の目的はアバジョンの奥がどんなものであるかを明かすものだ。フジヒロはそれさえ知れば満足なのである。
「さて、そろそろ行こう。スタッフ達に出発すると言ってくる」
「お願いします」
その後、シュウ達は再び歩き始めた。しばらく歩いていると、クリムは謎の違和感を覚えた。
「やっぱりあんたもおかしいと思ってるのね」
クリムの顔を見たナギがこう聞いた。
「ええ。ナギさんも感じたんですね」
「何を?」
「何も分かんないの? さっきまで何度もモンスターに襲われたのに、今は何もないじゃない」
「……確かに」
ハヤテは周りを見回し、辺りに生き物の気配がないという事を察知した。だが、シュウは銃を手にしていた。
「そんなに緊張しなくてもいいんじゃねーの?」
「一応念のためだ。モンスターがいないという事は、誰かが始末したかもしれないしな」
「……そうだな」
会話をし、シュウ達は慎重に身構えながら歩き始めた。すると、遠くの方に何かを見つけた。
「何だあれ?」
「遺跡? こんな所に遺跡があったんだ」
遠くの方にあったのはかなり前に建てられた遺跡であった。シュウ達はそこへ移動し、周りを調べた。
「作られて何千年と経過しているかもしれないな。この石の傷み具合、そしてこの汚れ。もしかしたら歴史的大発見をしたかもしれないな」
「テンション上がるなー。中に入ろうぜ‼」
「落ち着きなさいバカ‼ 罠があるかもしれないわよ」
急ごうとするハヤテをナギが止める中、フジヒロは近くにあった石を持ち、入口に向けて石を投げた。すると、上から巨大な石の塊が落ちてきた。
「ナギ君の言うとおりだな。この遺跡には罠がある」
「ヤベェ……死ぬかと思った」
「中に入りますか?」
クリムがこう聞くと、フジヒロはすぐに入ると答えた。
ロボラはいらいらしながら周囲を歩いていた。
「何かいつもよりカッカしてるな」
「煙草が切れたからムカついてるのだろう。触れないようにしよう」
「ああ」
部下達はロボラから少し距離を取り、会話をしていた。すると、ロボラの近くに潜んでいた獣型のモンスターが牙をむいてロボラに襲ってきた。
「ボス‼」
部下が叫ぶ前に、ロボラは剣を装備してモンスターに斬りかかった。急所を斬られたモンスターは悲鳴を上げ、その場に倒れた。
「ああああああああああああああああああ‼ 煙草‼ 煙を吸わせろ‼ いくらモンスターや野蛮人をぶっ殺しても俺の気は晴れないんじゃァァァァァァァァァァ‼」
ロボラがこう叫ぶと、先ほど殺したモンスターの仲間がロボラを取り囲んだ。気が荒くなっているロボラは周囲を見回し、不気味な笑みを漏らした。
「かかって来いよ獣共が‼ まとめてぶっ殺して今晩の晩飯にしてやるぜ‼」
と言って、ロボラは獣の群れに襲い掛かった。それを見て、部下達はため息を漏らしていた。