道中の襲撃者
翌日、シュウ達は特許庁へ向かう車の中にいた。その中には、シュウ達の他にもダスヤとナデモースが入ったカプセルがあった。
車は特殊仕様であり、防弾はもちろんのこと、魔法に対する防御も備えてある。一応防御面は大丈夫なのだが、クリムは少し不安だった。
「奴らの事です、車が武装してる位把握はしているでしょう。油断はしないでくださいね」
と、シュウとジャック、ミゼリーにこう告げていた。
走り始めて数時間後、車はハバノゲン林に通りかかった。この地は昨日、クリムが言っていた要注意箇所である。林の中に敵がいて、そこから襲ってくるかもしれないと。
「敵はいなそうだな」
ジャックは窓を覗いて呟いた。だが、彼の手には剣が握られていた。シュウも銃撃戦に備え、左手にはハンドガンが握られていた。
数分後、目をつぶっていたクリムが何かに気付いた。
「敵がいます‼」
その直後、何かが当たる音が三回ほど聞こえた。
「遠くから撃って来たか」
シュウは窓を覗き、聞こえた音を頼りにして敵の居場所を探った。少しだが、スコープの反射する光が見えていた。
「あんな所から……」
「運転手さん、ここで停車してください‼」
運転手は慌てながら返事をし、急ハンドルで車を路肩に止めた。
「魔力を感じました」
「魔法使いが相手か……」
「なら、こんな所で停車してたら危ないんじゃないですか!?」
運転手は冷や汗をかきながらこう言ったが、しばらくして目の前の道路から火柱が発した。
「このまま走っていれば、この車は丸焦げになっていました」
「ほへぇ……」
運転手は気の抜けた言葉を発し、腰が抜けたようにその場に座った。
「シュウ、クリム‼ 俺達が車を護衛する。お前達は襲撃者を倒してきてくれ‼」
「「了解です‼」」
バカップルはジャックに返事をし、林の中へ走って行った。
林の中にいる襲撃者は五人。それぞれ別の所で身をひそめている。
「こちらA、敵は車を止めたみたいだ。しかし、二人の護衛がいる。二人の装備から見て、男の方は戦士、女の方は魔法使いと見られる」
「こちらB、了解した。今、ガンナーらしき少年と白い服の少女が林の中に入って行った。何かしてくるかもしれないので、注意しろ」
Bの言葉の後、他の四人の返事が聞こえた。
数分後、五人はシュウとクリムの動きに対処できるよう、ずっと身をひそめていた。だが、バカップルは何もしてこなかった。
「敵は何をするつもりだ……」
「こちらD‼ 敵を探してくる、援護を頼む‼」
「おい止めろ‼ 敵の動きが分からない以上、動くのは危険だ‼」
「相手はただの子供だ、我々の敵ではない‼」
Dがアサルトライフルを持って林から出たところ、銃声が聞こえた。
「ガアッ‼」
「D? どうしたんだD!?」
Dが撃たれた。そう確信した彼の仲間は、歯ぎしりをしながら周囲を見渡した。
「こちらC、Dの救助はどうする?」
「こちらE、動いたら狙われる。俺の方からDの動きが見える。幸い、致命傷ではないようだ……」
Cは撃たれたDを助けに行きたいのだが、このまま助けに行ったらDと同じ運命になる。バカップルの姿は見えない今、むやみに動いたら撃たれる。
「た……助けてくれ……助けてくれぇ‼」
Dの苦しそうな声が聞こえてくる。Cは苦い顔でDの姿を見ていた。すると、Bから連絡が入った。
「こちらB‼ Dを助けに行くので、援護を頼む‼」
「こちらC‼ 了解、俺もそちらへ向かう‼」
「こちらA、援護の為にそっちへ向かう」
その後、AとCがBに近付き、三人一緒でDの所へ向かった。しかし、彼らの後ろから銃声が聞こえた。
「なっ!?」
Eは銃声を聞き、音がした方に銃口を向けたのだが、もう一度銃声が聞こえた。その直後、Eが持っていた銃が爆発した。
「ぐあっ‼」
破裂した銃の破片が、Eの体中に刺さった。刺さった破片を抜こうとしたのだが、後ろからA達の悲鳴が聞こえた。
「ぐぅ……」
「あ……あぁ……」
「いてぇ……」
Eは察した。相手は自分達よりも強いという事を。しばらくし、銃を持ったシュウが姿を見せた。
「まさか……我々がこんな子供に負けるなんてな……」
「狙い撃ちには自信があるんだ」
「捕まる前に教えて欲しい。どんな銃を使ったんだ?」
Eがこう聞くと、シュウは左手のハンドガンを見せた。Eはそれを見て、驚きながらこう言った。
「少し改造しただけのハンドガン……まさか、これ一つで……」
「まぁな」
話を聞いたEは、その場に項垂れた。まさか、こんな化け物じみた奴がいるなんて……心の中でそう呟きながら。
一方、クリムは林の中を歩いていた。
「そこに隠れていたんですね。魔法使いさん」
茂みの中に隠れていたのは、イーツだった。イーツは笑いながら立ち上がり、クリムにこう言った。
「これはこれは最近噂の賢者様ではありませんか。まさか、こんな形であなたに合えるとは思いませんでした」
「褒められても手加減はしませんよ」
クリムは両手に風を発し、イーツにこう言った。
イーツは察していた。自分の魔力とクリムの魔力を比べると、明らかにクリムの方が上であることを。しかし、クリムはまだ子供であり、戦闘に関してはまだまだ甘ちゃんだという事も察していた。
「手加減しなくても結構。あんたのような子供に教えてやるよ、本当の戦いってもんをな‼」
イーツの言葉の後、クリムの後ろの林から大きな炎が現れ、クリムを包み込んだ。
「かわいそうに。まだかわいい子供なのに丸焼けにされちゃってねぇ」
炎に包まれたクリムを見ながら、イーツは笑い始めた。イーツは戦いの前に、炎を仕掛けていたのだ。
これで勝ったとイーツは思っていたが、徐々に火の勢いが消えていた。
「あ……あれ?」
「この私があんな罠に引っかかると思ってたんですか?」
炎の中から、水のバリアを張ったクリムが現れた。イーツは水のバリアで炎の威力が下げられたことを察した。驚いているイーツに対し、クリムは杖を向けてこう言った。
「今度はこっちの番です‼」