密林での夜
シュウ達がアバジョンへ入って数時間が経過した。太陽が沈みかかっているせいか、辺りは段々と暗くなってきた。クリムは後ろにいるスタッフを見ると、皆疲れているのか、覇気のない顔をしていた。
「フジヒロさん。スタッフの皆さんがお疲れのようです」
「そうだな。丁度安置にいるし、ここでキャンプをしよう」
その後、フジヒロは慣れた手つきで大きなテントを広げた。シュウとハヤテも手伝おうとしたのだが、その前にフジヒロはテントを完成させた。
「慣れた手つきだなー」
「何年もやっているんだ。コツさえつかめば時間はかからない。そうだ。私のバックに食料になりそうなものを入れてあるんだ。その調理をしてくれないか?」
「はい」
シュウはフジヒロのバックを広げ、悲鳴を上げた。その中には虫や変な色の草が大量に詰められていたのだ。
「な……何なんですかこれ!?」
「何って、飯だ」
「虫を食べるんですか!?」
「ああそうだ。意外とうまいもんだぞ」
「そう……ですか? というか、これどうやって調理するんだ?」
「そうか、君達は虫を料理したことがないんだな」
「当たり前です」
「私に任せろ。美味い物を作ってやるから」
と言って、フジヒロは笑いながら火をおこし、虫を焼き始めた。クリムは青ざめた表情をするシュウに近付き、小声でこう言った。
「一応あの虫には毒のような物はないのですが……味については図鑑には書いてありませんでした……」
「そんな事書くわけないでしょ。もしかして、この依頼が終わるまで私達の食事って……」
ナギは泣きそうな目でシュウに近付いた。シュウはつばを飲み込み、答えた。
「虫……かもな……」
その答えを聞き、ナギは落胆した。
数分後、フジヒロは虫で作った料理を盛りつけていた。
「ふんふんふーん。今日もいい出来だ‼ 皆ー‼ 食事の時間だぞー‼」
フジヒロの声を聞いたスタッフはすぐに近付き、食事を始めた。この異様な光景を見て、シュウ達はドン引きしていた。
「あの……皆さん平気なんですか?」
「はい。フジヒロさんはいろんなものを使って料理しますよ」
「何年も一緒に行動すれば慣れますよ」
スタッフの返事を聞いた後、シュウ達は意を決して簡易テーブルの前に座った。
数分後、バカップルはクリムが魔法で作った簡易の風呂に入っていた。
「先輩……口の中どうなってますか?」
「変わってない。クリム、俺の口の中を見てくれ。どうも味がまだ残ってるんだ」
「えーっと……変わってません」
「初めて食べたからかな……何か変わったような気がする」
あの後、シュウ達は何とか虫料理を食べたのだ。ただ、慣れていない料理を食べたせいか、シュウ達は少し変な気分になっていた。
バカップルは気を取り直し、それからの話を始めた。
「明日からはまた奥地へ向かって行動するようです」
「何かあるか分からないからしっかり休んでおかないとな」
「肉体的にも、精神的にもですね」
と言うと、クリムはシュウに近付いた。
「ああ。そうだな。とにかく未開の土地だし、何が起こるか分からない。俺達で皆を守らないとな」
「はい」
会話をしながら、バカップルはいちゃついていた。そんな中、ナギが奇声を上げながら服を脱ぎ、風呂に乱入した。
「ちょっとー‼ 私も一緒にいれなさいよー‼」
「あ、ちょっと止めてください‼ 今、私と先輩が入ってるんですよ‼」
「私も一緒にシュウさんとお風呂に入りたい‼ シュウさんのあられもない姿を見たーい‼」
「結局それが目的なんじゃないですか‼ ハヤテさんと一緒に入ればいいじゃないですか‼」
「誰があんな馬鹿と風呂に入るもんですか‼ 入るとしたらシュウさんみたいなイケメンの人じゃないと‼」
「あああああああああああああ‼ これ以上先輩に近付かないでください‼」
その後、クリムとナギの口喧嘩が始まってしまった。二人の間にいるシュウは、どうしたもんだかと心の中で呟いた。
一方、ハヤテはフジヒロと共に行動していた。シュウ、クリム、ナギは虫料理を食べて少しグロッキーな状態だったが、ハヤテだけは平気だった。テレビのスターであるフジヒロの作った料理を食べられるという事で、テンションが上がっていた。
「おいしかったですよあの料理」
「おおありがとう! 他の三人は慣れていないようだが」
「いずれ慣れますよ。あんなうまいもんを不味いって言う奴はいませんって」
そう言いながら、ハヤテはスタッフに交じって皿を洗っていた。
「いやー、君みたいなエネルギッシュに溢れる少年に会えるとは思わなかったなー」
「俺、あなたの番組全部見てます。あんな面白い番組、他にありませんよ‼」
「ありがとうありがとう! 私の趣味で始めたような番組だが、面白いと言われると照れるなぁ」
フジヒロはそう言いながら笑っていた。スタッフも視聴者の一人であるハヤテの言葉を聞き、少し笑っていた。
「よし‼ 君みたいな視聴者の為に、明日も頑張らないとな‼」
「はい‼ 何かあっても俺達戦士が守りますので、大船に乗ったつもりでいてください‼」
「おお‼ 頼むぞ少年‼」
フジヒロは笑い声を上げながら、ハヤテの頭をなでていた。