昔の出来事その5
モンブランとホイップの死から五年が経過した。ティラは成長したシュウとクリムを連れて、村の墓場にいた。
「パパ、ママ、私だよ。クリムだよ」
モンブランとホイップの墓の前に立つのは五歳になったクリム。クリムは小さな花を墓の前に供え、手を合わせて目をつぶった。シュウもクリムと同じように花を供えて目をつぶり、祈り始めた。ティラは線香を用意し、目をつぶって祈り始めた。
モンブランさん、ホイップさん。またこの時期がやってきました。あなた達が死んでから五年が経過しました。早い物です。私ももう23です。二十歳になって酒が飲めるって浮かれてからもう三年が経過しました。クリムにはあなた達が亡くなったことを伝えました。それから、クリムはパパとママみたいな魔法使いになるって言って頑張っています。モンブランさん、ホイップさん、クリムの面倒は私がちゃんと見ますので安心してください。これからも、ずっと。
心の中で呟き終え、ティラは腰を上げた。だが、そこにシュウとクリムの姿はなかった。
「おいコラ‼ どっか行くんじゃねーよ‼ 迷子になるだろうが‼」
「この辺の地理は把握したんだ。大丈夫だって‼」
と、シュウは飛び回りながらティラから逃げていた。シュウを追いかけている中、ティラは思った。こんなわんぱく小僧になるとは思わなかったと。
ある日の事だった。ティラは銃の整備をしていた。シュウとクリムはずっとその光景を見ていた。
「どうした? 飯はまだだぞ」
「ティラさん、どうして銃なんか使ってるんですか?」
「一応魔法も使えるけど、銃の方がいいらしいんだよ。変な人だよね」
「ぐ……生意気言いおって」
と言って、シュウを睨んで言葉を続けた。
「世の中には危険なモンスターが多い。それに、悪人共も必ず接近戦の武器を使うってわけじゃないんだ。近くでチャンバラするよりか、遠くでバンバン銃を撃つ方が私はいいんだよ」
「変なの。俺だったら、剣でビシバシやっつけるけどね‼」
シュウは剣を握る真似をして腕を上下し始めた。
「ったく、剣の大会で優勝したからって生意気なこと言ってんじゃないわよ」
ティラは机の上のトロフィーを見て、シュウにこう言った。シュウは少し前に村で行われた剣術大会で、初出場かつ最年少で優勝に上り詰めたのだ。対戦者は大人の剣士が多数いたが、シュウは果敢に立ち向かい、勝利を手にしていたのだ。
「誰が来ても俺がぶった斬る‼」
「はいはい。分かりましたよー。だったらもう大人しく寝てくださーい。子供は寝る時間だ」
ティラは立ち上がり、シュウとクリムを無理やりベッドへ連れて行った。
「じゃ、おやすみなー」
「はーい」
「おやすみなさーい」
ティラは二人の返事を聞いて扉を閉めた。数分後、シュウは周囲を見てから横で眠るクリムにこう言った。
「起きてるか?」
「うん。どうしたの先輩?」
「明日、近くの山に行こうと思う。ティラさんは俺の剣の腕を甘く見ている。モンスターを倒したらきっと認めてくれるだろう」
「でも、危険だよ。最近物騒なモンスターが出るって言うし」
「大丈夫だって。俺がお前を守ってやるから。それに、誰が来てもぶった斬るって言っただろ」
「う……うん」
「よし。じゃあ明日の朝から山に行くぜ。ティラさんの反応が楽しみだ」
シュウは笑いながら目をつぶった。話を聞いたクリムは、少し不安だなと思いつつも、眠り始めた。
翌朝。依頼のため出かけようとしたティラは、留守番をするシュウとクリムにこう言っていた。
「いいか? 近くの山には絶対出かけるなよ。いいな? 絶対いいな? 何があるか分からねーんだからな?」
「はいはーい」
シュウの返事を聞き、ティラは少し胡散臭いと思った。だが、時間がないため出かけた。ティラの姿が見えなくなったのを確認したシュウは、隠し持っていた模造刀とお菓子が入ったリュックを背負い、クリムを連れて山に出かけた。
「さーて‼ どんな奴が来るか楽しみだ‼」
「先輩、やっぱり怖いよう……」
シュウの後ろに隠れているクリムは、泣きべそをかきながらこう言った。だが、シュウは大丈夫だと答えていた。
出かけ始めて数分後、二人は山の奥にいた。
「この辺かなー」
「もう帰ろうよ。ティラさんに怒られるよ~」
「大丈夫だって。いざとなったら逃げるから。ほら、クッキーやるから」
「大丈夫なの~?」
シュウがクリムにクッキーを渡した瞬間、草むらから何かが現れ、渡そうとしたクッキーを奪い取ってしまった。
「うわ‼」
「きゃあ‼」
驚いた二人は後ろに尻もちをついてしまった。
「いてててて……何だこいつ!?」
二人の目の前に現れたのは、レッドタイガーと言う獣型のモンスターだった。チーターのように素早く動き、獲物に近付いて鋭い爪を武器にして攻撃する物騒なモンスターである。ちなみに雑食なので、何でも食う。クッキーだろうが、人の肉だろうが。
「やばいぞクリム、逃げるぞ‼」
シュウはクリムの手をつなぎ、慌てて山から下りようとした。だが、子供の二人の足よりも、レッドタイガーの方が足が速かった。追いつかれそうになったクリムは、目をつぶって悲鳴を上げた。